悲しみにこんにちわ
アーククレイドルの崩壊危機から数日。
ハーヤマ将軍は、冷徹な軍人としての顔の裏で、かつてない冷や汗を流していた。
総統の喉から放たれる「破壊的な音波」は、アークの誇る科学技術をことごとく無効化する。
もはや軍事力での防衛は不可能だ。
将軍が導き出した結論は、あまりにも狂気に満ちた、しかし唯一の生存戦略だった。
「我々が生き残る為に、総統の音痴を力ずくで矯正する」
その頃、健は昼間だというのに、ソファに沈み込んでダラダラとテレビを眺めていた。
窓の外は眩しいほどの午後の陽光が降り注いでいるというのに。
やがて、画面が切り替わり、定時のニュース番組が始まった。
スーツ姿のニュースキャスターが神妙な面持ちで原稿に目を落とし、横に座るコメンテーターたちが頷き合っている。
「えー、本日の午後3時頃、歌手の辻村ライラさんが、突然声が出なくなるという奇病を発症し都内の病院に緊急入院しました」
キャスターが告げたニュースに、スタジオが一瞬ざわめいた。辻村ライラといえば、その透明感のある歌声で国民的な人気を誇る歌姫だ。
コメンテーターの一人である、黒装束の巨漢オネェが、眉間に深いしわを寄せて身を乗り出した。
「あら、ちょっと最近、その病気に罹る人多くない? 今週だけでこれで三人目よ? ナンカ不気味なんですけど!」
オネェの指摘に、他のコメンテーターたちも不安げに顔を見合わせヒソヒソ話始める。
「そうですね。専門家の中には、何らかの未知のウイルスによるものではないかと推測する声もありますが、原因は全くの不明です」
健はテレビをぼんやりと見つめながら、欠伸を噛み殺した。
「ふーん、奇病か。芸能人は大変だなあ。いや、待よ・・」
ーーー病院前
病院の自動ドアが滑るように開き、健は深く溜息をつきながら歩道へと出た。肩を落とし、見るからに意気消沈した様子でトボトボと歩く。
「あーあ、最悪だ。辻村ライラがここひ入院したって言うから。ここに来ればサインの一つくらい貰えるんじゃないかと思ったのに。警備員に追い返されるわ、本人は面会謝絶だわで踏んだり蹴ったりだよ」
健はぶつぶつと愚痴をこぼしながら、病院の角を曲がった。
その時、ふと足が止まる。
「ん?」
健は足を止めた。公園の奥、木漏れ日の下から、風に乗った歌声が聞こえてくる。
導かれるようにそちらへ向かうと、そこには古びたアコースティックギターを抱え、必死に弾き語りをする一人の若者の姿があった。
少し頼りなさげだが、一生懸命な歌声だ。
健は何も言わずに若者の隣へ近づくと、無遠慮にどかっと腰を下ろした。
「あの、すみません、今ちょっと練習中で・・・」
若者が戸惑いを見せるのも構わず、健は若者の手から強引にギターをひったくった。
「貸せよ。音楽ってのはな、こうやるんだよ」
健はギターを適当に抱えると、指板をめちゃくちゃにかき鳴らし始めた。コード進行もリズムも無視した、ただの騒音に近い轟音。しかし、健はどこか自信満々である。
「えっ?」
若者はあんぐりと口を開け、ギターを奪われたまま呆然と健を見つめていた。健のドヤ顔は、もはや芸術的ですらあった。
騒音を撒き散らし満足したのか、健はギターをひょいと若者に返すと、偉そうに尋ねた。
「おい、流しくんの名前は?」
「え、あ・・・川良です」
「ふーん、川良か。いい名前じゃん」
健は満足げに鼻を鳴らした。
しばらくの間、健は川良に対して「ギターの弦はこうやって磨くといい」「ピックは10円玉で代用したほうが通っぽい」など、適当な音楽論を垂れ流していた。
川良も呆れ半分、恐怖半分で相槌を打っていたが、次の瞬間、健の雰囲気が一変した。
健はカッと見開いた目で、川良の手から再びギターを強奪すると、「そこだ!」と叫びながら、そのギターを力任せに草むらへ投げつけた。
しばらくの静寂ののち、ギターを投げつけた逆の方向からアーク戦闘員ワラワラと現れた。
「・・・・・・」
気まずい沈黙が流れる。しかし、健はすぐにその空気を吹き飛ばすようビシッと指差した。
「出たな! アーク! やはりお前らの仕業だったのか! 」
健は戦闘員たちへ向かって突進した。
だが、その戦い方は相変わらずヒーローとは程遠い。組み付いては腕に噛みつき、目潰しを食らわせ、倒れた相手には容赦のないヒップアタックを炸裂させる。
あまりの泥臭さと容赦のなさに、アークの戦闘員たちも戦意を喪失し、次々と地面に沈んでいった。
あらかた片付けた健は、荒い息をつきながら我に返った。
「ん? さっきの流しがいねえぞ? まさか、あの混乱の中で一緒に殴り倒したのか?」
などと物騒なことを考えながら周囲を見渡すと、公園の茂みの陰から異様な影がせり出してきた。
両肩に巨大なスピーカーを装備した怪人が、震える川良の背後に立っている。
「ケケケ、遅かったな。こいつの『歌声のエキス』、既に抽出を開始しているぞ」
よく見ると、川良の喉元にはスピーカー怪人の腕から伸びた生々しいチューブが突き刺さっている。そこを通して、川良の喉からかすかな光のようなものが吸い上げられていた。
「川良さん!」
「邪魔だ!バッドボイス!!」
怪人が咆哮した瞬間、両肩の巨大スピーカーが赤黒い光を放ち、肉眼で視認できるほどの衝撃波を解き放った。
それはアーク総統の「暴声」──次元を歪め、物理法則を崩壊させるあの呪われた歌?を、高密度に凝縮した凶悪な音波だった。
健は反射的に両手で耳を塞いだが、空気の振動は鼓膜を通り越し、脳を直接揺さぶる。
地面が砕け、公園の遊具が飴細工のようにぐにゃりと歪む。その圧倒的な破壊力の中心で、人質にされた川良は苦悶の表情を浮かべ、チューブを介して魂を削り取られていた。
「ぐ、ああああッ! 耳が、耳がイカれるっ……!」
健は膝を突き、その場に倒れ込んだ。音の奔流・・暴音が健の全身を打ちのめす。
皮膚が裂け、視界が真っ赤に染まる。かつてない絶望的な音圧が、彼の肉体を分子単位で解体しようとしていた。
スピーカー怪人は勝利を確信したかのように歪んだ笑みを浮かべる。
「無駄だ。総統の歌を舐めるな。貴様のような者など、塵に帰してやる!」
「は、はは・・・そんなに・・・いい声で・・・鳴くなよ」
絶望的な状況。だが、健は泥の中に転がる一つの黒石を視界に捉えた。
「――っ!」
健は反射的に黒石を拾い上げると、右腕の筋肉を限界まで引き絞った。
その瞳には、獲物を射抜く鋭い殺気が宿っていた。
「喰らえ、このド音痴野郎がッ!!」
渾身の力で放たれた石は、音速を超えんばかりの速度で空気の壁を切り裂き怪人に命中する
石は正確に怪人の右肩にあるスピーカー怪人の振動板を直撃し
暴音が止む。
「今だ!転生!!」
一瞬の隙をつき、サマロヒに変身出来た健。
光の塊はスピーカー怪人を吹き飛ばし、公園の倉庫の上に降り立つ。
「太陽探偵!サマロヒ!」
次回予告
スピーカー怪人が放つ暴音に苦戦するサマロヒ。
バッドボイスには、グッドボイス?
特訓を始める健。果たして?
次回 唇に歌を




