アーク最大の危機!
異次元の深淵に浮かぶ鋼鉄の揺りかご、アーククレイドル。 その静寂は、突如として破られた。
鳴り響く警告音。慌てふためく戦闘員たち。
突如として発生した、謎の振動により基地全体が激しく揺さぶられる。
「将軍! 振動の震源は基地中枢部! 基地の外壁が・・・次元の干渉を受け、分子レベルで崩壊を始めています!」
戦闘員の悲鳴に近い報告を背中で聞きながら、ハーヤマ将軍は無機質な通路を駆けた。
重力制御装置が悲鳴を上げ、天井からは火花が散る。
足元を襲う激震は、単なる揺れではない。基地そのものが意思を持つかのように悶え、崩壊しているかのようだった。
「その報告に間違いはないのだな?」
「間違いありません。発生源は総統の執務室です」
ハーヤマは短く頷くと、踵を返して進路を変えた。
中枢部・総統の執務室へと続く道だ。
進むにつれ、物理的な振動は奇怪な音波へと変貌を遂げた。 鼓膜を素通りし、直接脳髄を焼き尽くすような不協和音。
それは、この異次元空間が拒絶反応を起こしているかのような響きだった。
執務室の重厚な扉の前で、ハーヤマは息を整える。
「総統、ハーヤマです。至急、事態の収拾を!」
呼びかけに返事はない。背後のスピーカーからは、次々と被害報告が流れてくる。
『第4階層、消失!』
『動力炉が異常共振を起こしています!』
『警備室への連絡がつながりません!』
基地の寿命はあと数分と持たない。ハーヤマの指が、腰のホルスターに触れる。忠誠心と生存本能が脳内で激しく衝突する。
「ええい、 このままではアーク基地が塵と化す!」
ハーヤマは断固たる決意を胸に、総統室の端末に銃弾叩き込んだ。
扉が解錠される、次の瞬間、執務室から溢れ出したのは圧倒的な音の暴力だった。
「ぐおおおおおおあ、総統!」
ハーヤマ将軍は返答を待たず、暴音に苦しみながらも重厚な扉を力任せに押し開く事に成功した。
総統の私室は、見たこともないほどに歪んでいた。
部屋の壁は異次元の境界そのものであり、そこから漏れ出す青白い光が空間を切り刻んでいる。
振動ではない。あれは、物理法則そのものが悲鳴を上げているかのような超音波のうねりだった。
「ぐっっっ総統! 応答を!」
総統の椅子は空だった。
しかし、部屋の中央、空中に浮かぶホログラム端末だけが、狂ったように点滅を繰り返している。その画面に映し出されていたのは、基地の崩壊予報グラフではなく、地球でカラオケと呼ばれる装置の場違いなまでに、能天気な動画と歌詞だった。
「何だあれは?」
一瞬、呆然としたハーヤマ将軍の耳に、通信機を通じて部下たちの断末魔のような報告が飛び込んでくる。
「将軍! 第3格納庫が次元断層に飲み込まれました! 居住区の重力が逆転し、隊員たちが!」
「黙れ! 誰か、総統の居場所を突き止めろ!」
ハーヤマは叫ぶが、自分の声さえも異空間の波に押しつされ、奇妙な響きとなって帰ってきた。
彼は決断した。このままでは全滅する。アークが数百年かけて築き上げたこの「クレイドル(揺りかご)」を、自ら葬るしかない。
彼は執務室の最奥、緊急排気レバーに手をかけた。それは基地全体を次元の狭間から切り離し、虚無へと射出するための自爆コードに繋がっている。
「総統、あなたが不在なら、この私がアークの最後を看取ろう」
指先がレバーを掴む。その瞬間、今まで荒れ狂っていた暴音がやんだ。そして・・・
「ハーヤマ。手出しは無用だ」
将軍は硬直したまま振り返る。そこには、次元の裂け目に腰を下ろし、影を纏う総統の姿があった。
手には、異様な光沢を放つ銀色の棒状のデバイスが握られている。
デバイスの先端からは、この世のものとは思えない高周波のハウリング音が、間欠的にキーンと鼓膜を突き刺していた。
ハーヤマは言葉を失い、武器を構えることさえ忘れて総統を見つめた。
「どうだった? ハーヤマ。ワシの『歌』は?」
総統は満足げにデバイスを揺らし、その銀色の残光が暗い室内を奇妙に切り裂く。
「歌?・・・ですか??」
「この周波数が、クレイドルの骨組みを共鳴させていたのだよ。どうだ、上手かったろう? ハハハ!」
将軍は理解した。
今、基地を襲っている未曾有の崩壊現象の原因は、次元断層でも敵の攻撃でもない。
ただ、総統があまりにも酷い歌声で、無理やり次元を自分好みに「調律」しようとした結果、物理法則そのものが拒絶反応を起こして悲鳴を上げているのだ。
「総統、お願いです。それ以上は基地が消滅します!」
「何を言うかハーヤマ! 最後のサビが一番の見せ場だ!」
総統が喉を震わせる。
その瞬間、基地全体を包んでいた振動が、これまでとは比較にならない高周波へと変貌する。
音程の極端なズレが、物理的な破壊エネルギーとなって鋼鉄の壁を内側から突き破った。
アーク秘密基地は、今、総統の思い付きで始めたリサイタルによって、跡形もなく破壊されようとしていた。
ハーヤマ将軍はレバーから手を離し、ただ膝をついた。
この、あまりに桁外れな音痴の前では、いかなる軍事戦略も無力であった。
総統の狂気じみた笑い声と、デバイスから響く不協和音が混ざり合い、崩壊しつつある基地の断末魔を掻き消していく。
次回予告
何と何とアークが、総統自らの手により壊滅寸前。
ハーヤマ将軍は、どうこの危機を乗り越えるのでしょう?
次回 悲しみにこんにちわ




