天佑は我にあり
死闘のあと、直樹は幽霊のような足取りで帰宅し、服を脱ぐ気力すらなくベッドに倒れ込んだ。
夢の中でもサマロヒの謎のBGMと「無礼打ちスパーク」の掛け声がループし続け、目覚めたのは翌日の昼過ぎのことだった。
フラフラと階段を降り、キッチンから漂う香ばしいコーヒーの香りに安らぎを覚えながらリビングのドアを開ける。
しかし、そこに広がっていたのは「日常」とは程遠い光景だった。
食卓の椅子に座り、我が物顔でトーストを齧っている男がいた。
昨日、謎の戦士に変身し、蜘蛛の怪人を崖下に追い落とした、あの月影健である。
「は?」
直樹は言葉を失った。ここは自宅だ。どうして健がいる? 夢か? 幻覚か?
呆然とする直樹の視線に気づいた健が、トーストを口にしたままニカっと笑った。
「よう、昨日ぶり。ぐっすり寝てたな」
背後から現れた母親が、健に新たなおかわりを渡しながら笑っている。
「あら?直樹、もう月影さんと知り合いなの? 本当にいい人ね。お父さんが昨日危ない所助けてもらったのよ」
父親もまた、健の肩をポンと叩きながら満足げに頷く。
「いやあ、素晴らしい若者だよ。あんなに鮮やかにチンピラをいなす奴は見たことがない。あまりの男気に意気投合しちゃってな。そのままウチに招いたんだ」
――鮮やかに、いなす?
直樹は昨日の健の戦いぶりを思い出し、背筋が凍る。
昨夜の怪人騒ぎは伏せられているとはいえ、健という人間がどういう戦い方をするのか、誰よりも知っているのは直樹だ。
父親が健の戦闘術の虜になっているという事実に、直樹は胃が痛くなるのを感じた。
「親父さんは最高だな。さっきも俺の戦術について熱く語り合ってたんだ」
「そうなんだよ、月影君! あれはまさに、都市戦闘術の極みだよ!」
と父親が目を輝かせて熱く語る。
直樹は、もはやツッコミを入れる気力すら失った。
昨日の怪人との戦いが「コント」だったなら、今の現状は「悪夢」だ。
「直樹、月影さんはしばらくの間、この辺りを拠点にすると言うんで、ウチの空き部屋を使ってもらう事にした。いい友人を持ったな!」
父親の屈託のない笑顔が、直樹には地獄の宣告のように聞こえた。
健はテーブルの上の牛乳を飲み干すと、直樹に向かって人差し指を立ててウインクした。
「よろしくな、相棒。朝飯、美味かったぜ」
――相棒?
直樹は悟った。昨日までの平和な日常は、完全に終わったのだ。これからは、太陽探偵サマロヒこと健という爆弾を抱えながら、家族の平和を守らなければならない。
しかも、一番の厄介者は健というより、健を「ヒーロー」だと信じて疑わない両親そのものかもしれない。
朝の爽やかな日差しが、直樹にはどこか不吉な光に思えてならなかった。
次回予告
直樹の家にまんまと居候する事になった健。
果たしてどうなることやら
その頃、悪の秘密結社アークではとんでもない事態に・・・
次回 アーク最大の危機




