その瞳に宿すもの
蜘蛛怪人は八本の脚を槍のように突き出し、殺気立って襲いかかってくる。
その一振り、一振りは岩盤を容易く粉砕するほどの威力だ。
しかし、サマロヒはその猛攻を、まるで社交ダンスのステップでも踏んでいるかのように、奇妙な腰のくねりと脱力した動きでかわし続けた。
サマロヒは攻撃が当たる直前、つまづいてしゃがみこむ。
蜘蛛怪人の無数の脚の間を、まるで混雑した駅の改札を抜けるかのようにスルリと滑り込んだりと、攻撃が当たりそうで当たらない。
蜘蛛怪人が苛立ちに任せて八本同時に突きを繰り出せば、サマロヒはひらりと身を翻し、空いた腕で揶揄うように怪人の頭部をペチペチと叩く。
蜘蛛怪人は、自分の攻撃がことごとく空を切ることに困惑していた。
「なぜだ! なぜ掠りもしない!」
憤怒の咆哮と共に蜘蛛怪人が攻撃を仕掛けると、サマロヒは「おっと、危ない 危ない」と逆に怪人の腕を取り、その勢いのままにその場でクルクルと回り始めた。
遠心力で怪人がふらついた隙を見逃さず、サマロヒは"意味不明な足払い"を繰り出す。
その一撃は、まるで道端の小石を蹴るような軽い動作だったが、重心を崩された蜘蛛怪人は、盛大に地面を転げ回ることになった。
「おのれ! この小癪な人間めが!」
蜘蛛怪人が八つの眼を血走らせて吠える。サマロヒは余裕の表情で、懐から「折り畳み傘」のような物体を取り出した。それが何であるか理解する間もなく、彼がそれを振りかざすとソレからオレンジ色のレーザー光が発生した。
「サンソード!」
サマロヒが叫ぶと、どこからともなく重厚なBGMが鳴り響いた。壮大なオーケストラが奏でるヒーローのテーマソングだ。しかし、そのメロディの裏で、なぜか夕方のスーパーのタイムセールを想起させるような、哀愁漂うハンドベルの音が聞こえるのは気のせいだろうか。
「これでおわりだ! 無礼打ちスッパークゥ!!」
サマロヒは、オレンジ色のレーザーソード?折り畳み傘?で大上段から斬りかかる、
あまりに意味不明、かつ殺傷力がヤバそうなその技名に、蜘蛛怪人は本能的な危機感を抱いたのか、慌てて後ろへ大きく跳躍して避けた。
――だが、それは悪手・・ここは山中の崖の上だ。
蜘蛛怪人は空中で大きく体勢を崩し、その重たい巨体はなすすべなく崖の下へと消えていった。「ギャアアアアッ!」という断末魔が山にこだまする。次の瞬間、崖下から「ポン」という、まるでシャボン玉が割れるような乾いた音が響き、怪人は光の泡となって霧散した。
「・・・あ」
直樹は、膝の力が抜けて地面に倒れ込んだ。
雄太もまた、何が起きたのか理解できず、口をあんぐりと開けたまま空を仰いでいる。
勝った。確かに勝ったのだ。だが、この圧倒的な釈然としない気持ちは何だろう。先ほどの緊迫感はどこへ行ったのか?
そんな二人の冷めた視線にも気づかず、サマロヒは太陽のエンブレムを胸で輝かせ、高らかに勝ち名乗りを上げた。
「事件解決! 太陽の下に影なしだ!」
ポーズを決める彼の背後で、夕日が山々を黄金色に 染め上げていく。
かっこいい・・・ような気がする。でも、やっぱりどこか「ひどくダサい」その二つの感情が、直樹と雄太の頭の中で交互に点滅し、二人はただただ、呆然とサマロヒの背中を見つめ続けるしかなかった。
次回予告
蜘蛛怪人を見事に撃破したサマロヒ。
次に待つのは、果たしてなにか?
新たな拠点を得て、いよいよ本格始動!




