俺の名はサマロヒ!
「ほう、戦闘員を倒したのか?」
聞き慣れない、低く、かつ金属を擦り合わせるような声が響いた。
視線の先には、先ほどの戦闘員とは明らかに格の異なる男が立っていた。黒いマントを翻し、顔を仮面で覆ったその男から放たれる殺気は、先ほどまでの比ではない。
「お前らもここまでだ。アークは目撃者を許さない!」
男がそう宣言した瞬間、その場が凍りついた。
男の体から「バキバキ」という骨が軋むような異音が鳴り響く。それは、成長や変身という言葉では片付けられない、おぞましい「崩壊と再構築」の音だった。
男の四肢が不自然に折れ曲がると、背中から節くれだった巨大な蜘蛛の脚が、皮膚を突き破って次々と生え出た。
仮面が割れ落ちると、そこには無数の単眼がぎらつく蜘蛛の頭部が現れる。衣服は切り裂かれ、その下からは黒い毛に覆われた悍ましい甲殻が露わになった。
「ひっ」
雄太が力なく地面にへたり込む。
直樹もまた、膝の震えを隠すことができない。
これが、健たちが相手にしてきた連中の正体なのか。
ただの「悪党」だと思っていたものが、現実に生物の理を外れた「怪異」へと変貌していく姿を目の当たりにし、二人の心は完全に折れかけていた。
健はといえば、先ほどまでの余裕たっぷりの笑顔を消し、その蜘蛛怪人を眺めていた。
しかし、その瞳には恐怖の色はなかった。
「随分と立派な変身だな。お前のそれ、何カロリー消費するんだ?」
健のその場違いすぎる質問に、蜘蛛怪人は苛立ちを露わにし、八本の脚を鳴らして咆哮を上げる。
「ふん、変身できるのはお前だけと思うなよ!」
健は蜘蛛怪人に向かって一直線に駆け出した。
「転生!!」
裂帛の気合と共に、健の全身から眩いばかりの閃光が放たれた。光が収束し、周囲の空気が振動する。
「グワッ!」
光の塊は勢いそのままに蜘蛛怪人を吹き飛ばし、近くの家の屋根に降りる。
光の中から姿を現したのは、先ほどまでの「少し残念な健」とは別人のような、圧倒的な威厳を纏った戦士だった。
頭部には歌舞伎の唐獅子を思わせる、燃えるように赤く長い髪が揺らめいている。
胸許には、大いなる希望を象徴するかのように、輝く太陽がデザインされたエンブレムが刻まれていた。
「太陽探偵!サマロヒ!!」
健が名乗りを上げると、周囲に謎のトランペットのファンファーレが鳴り響いた。
どこから聞こえているのかは不明だ。
しかし、直樹と雄太は、息を呑んでその姿を見つめながら、 同時に違和感に気づき始めていた。
「アレ、かっこいいのかな?」
雄太が震える声で呟くと、直樹は必死に冷静を装って答えた。
「少なくとも、太陽探偵という響きには、僕たちの理解を超えた何かがあるはずだ。たぶん」
直樹も雄太も、この圧倒的な変身シーンに感動したいという思いと、どうにもこうにも湧き上がってくる「なんか違う」という感覚の間で、激しく葛藤していた。
変身した健の胸には、なぜか誇らしげに揺れる太陽のエンブレム。その威容は間違いなく「ヒーロー」のものだが、その設定の妙な癖に、二人の心臓は戦いとは別の意味で早鐘を打っている。
だが、健はそんな二人の内心など気にも留めない。
彼は太陽探偵サマロヒとして、蜘蛛怪魔に対してポーズを決めたのだ。
「悪い蜘蛛には、真実の光を見せてやる!」
果たしてこれが、この絶体絶命の危機を救う一手となるのか。二人は、神妙な面持ちでその結末を待つしかなかった。
次回予告
遂に、ヒーローとしての真の姿を見せた健。
アーク第一の刺客・蜘蛛怪人を倒すことは出来るのか?
次回 無礼打ちスパークが悪を断つ!




