第九十八話:崩壊のカウントダウン! 決死の炉心突入と夜叉の散華!
『自己崩壊システム、臨界まで残り一八〇秒……』
無機質なアナウンスが大坂の夜空に響き渡る。
赤く明滅するオオサカゲリオンの巨体から、周囲の雨を瞬時に蒸発させるほどの凄まじい熱気が放たれ始めた。
大坂城というメガバンクの象徴が、今や西日本全土を吹き飛ばす超巨大爆弾へと変貌しようとしているのだ。
「くそッ! なんでロボットのお約束である自爆機能まで完備してやがるんだ!」
伊達政宗が、熱風に煽られながら二丁のハンドガンをギリッと強く握りしめる。
「……政宗様。被害予測が出ました」
片倉小十郎が、熱で焦げ始めた木製そろばんを弾きながら、絶望的な声を絞り出した。
「地下の地脈エネルギーを逆流させて爆発を起こす気です。……大坂はおろか、西日本全体がクレーターと化します」
「冗談じゃねぇ! 止めろ、小十郎! なんとかならねぇのか!?」
伊達成実が、黒船の錨を地面に叩きつけて吠える。
「……外部からのハッキングは不可能です。止めるには、巨神の最深部……『地脈炉心』に直接侵入し、三本のメインケーブルを同時に物理切断するしかありません。しかし、炉心内部の温度はすでに数千度。人間が立ち入れる領域では……」
その絶望の言葉を遮るように、通信用トランシーバー(糸電話型)から、ノイズ混じりの静かな声が響いた。
『……私が、行きます』
「宗次郎!?」
綺羅姫が、ハッとしてトランシーバーを両手で包み込む。
「ダメよ、宗次郎! あなたの体が灰になってしまうわ! 早く戻ってきて!」
オオサカゲリオンの胸部コアの亀裂に突き刺さったままの神堂宗次郎は、熱で赤熱し始めた大盾刀『玄武』を足場に立ち上がり、深々と息を吐いた。
『……姫様。私は伊達の剣術指南役。そして、あなたの影です。影は、光が生き続ける限り、決して消えはしません』
宗次郎の漆黒の瞳に、迷いはなかった。
彼はボロボロになったマントを脱ぎ捨てると、両手に特注の短筒を構え、亀裂の奥――灼熱の炉心へと向かって、躊躇うことなく自らの体を投じた。
(いやいやいやいや!!!!)
地上で震えるカピバラ・タナカの心のツッコミが、涙声になって響く。
(自己犠牲エンド!? 絶対ダメっすよ!! これ完全にハリウッドの隕石爆破映画のラストじゃないっすか! プロレスのプの字もない、純度100%の悲劇っすよ!! ヨーロッパ旅行はどうするんっすか!!)
『自己崩壊システム、残り六〇秒……』
灼熱の地獄。
オオサカゲリオンの体内を落下しながら、宗次郎の服が発火し、皮膚が焼け焦げていく。
しかし、彼の眼光は研ぎ澄まされた刃のように、炉心の最深部に蠢く「三本の極太の光のケーブル」だけを捉えていた。
「……『夢想静水流・散の型』」
落下速度が最高潮に達した瞬間。
宗次郎は、右手の短筒の引き金を引いた。
ズダンッ!!
一本目のケーブルが、銃弾によって粉砕される。
しかし、その反動で姿勢が大きく崩れる。下から突き上げる凄まじい熱気流が、宗次郎の体を激しく吹き飛ばそうとする。
「『夜叉の……!』」
宗次郎は空中で強引に体を捻り、左手の短筒を放った。
ズダンッ!!
二本目のケーブルが断ち切られる。
『残り……一〇秒……』
熱波で視界が完全に白く染まる。銃は二丁とも撃ち尽くした。
だが、宗次郎にはまだ、最強の相棒が残されていた。
「玄武ッ!!」
彼は背中の大盾刀を引き抜き、残る全生命力を両腕の筋肉(と伊達の魂)に込めて、最後の一本へと大上段から振り下ろした。
「『絶華』!!!」
ガァァァァァァァンッ!!!!!
凄まじい金属の断末魔と共に、三本目のケーブルが完全に切断された。
同時に、炉心へ流れ込んでいた地脈エネルギーが遮断され、オオサカゲリオンの赤い光が、フッと明滅を止めた。
『システム……停止……。おやすみ、なさい……』
巨神が、完全に沈黙した。
「やった……! 止まったぞォォッ!!」
成実が歓喜の雄叫びを上げる。
しかし。
ゴォォォォォォォォンッ……!!!!
自爆は止まったものの、エネルギーの行き場を失った巨大な炉心が、内部で強烈な「縮退」を起こし始めたのだ。
オオサカゲリオンの巨体が、内側からグシャリとひしゃげ、崩れ落ちていく。
「宗次郎ッ! 宗次郎ォォォッ!!」
綺羅姫の悲痛な絶叫が大坂の夜空に響く。
崩壊する装甲の隙間から、一筋の強烈な閃光が噴き出したかと思うと、巨神は完全にその形を崩し、大坂湾の冷たい海へと、凄まじい水柱を上げて沈んでいった。
後に残されたのは、静かな雨の音だけだった。
「嘘だろ……。あの夜叉が……」
政宗が、二丁拳銃を力なく下ろし、暗い海を見つめる。
すべてを終わらせた代償は、あまりにも大きかった。
全100話の物語は、最大の犠牲と共に、残り2話の真の結末へと向かうのである。




