第九十七話:絶対結界の崩壊! 算盤の演算(ハッキング)とアイドルの共鳴(レゾナンス)!
――大坂の夜空を覆う、漆黒の巨大要塞『オオサカゲリオン』。
その胸部コアを包み込む「絶対独占結界」は、狂王・秀吉の底知れぬ不安と独占欲が生み出した、難攻不落の黄金の壁であった。
『ヒッ……ヒッヒッヒッ! 無駄じゃ、無駄じゃァァッ!! 誰にもワシの黄金は渡さん! ワシの心は、この黄金の壁で完全に守られておるのじゃ!!』
コアの内部から、秀吉の幼児のように狂った笑い声が大音量で響き渡る。
「……物理的な衝撃をすべて『無効化』にする結界。厄介極まりないですね」
片倉小十郎が、額の汗を拭いながらそろばんを激しく弾く。
「しかし、あれが『メガバンクの独占欲』によって構築されているのであれば、破る方法は一つだけあります」
「なんだ小十郎、出し惜しみしてねぇで言え!」
伊達政宗が、熱を持った二丁拳銃をリロードしながら叫ぶ。
「……敵対的買収(TOB)です。あの結界の波長を解析し、外部から『過剰な情報』を流し込んで、システムの処理能力を強制的にパンク(ハイパーインフレ)させます」
小十郎の冷徹な声に、ディレクターのクリノジが眼鏡をギラリと光らせた。
「なるほど、情報量の飽和攻撃ですね! ならば、音響チーム(私)の出番です!」
クリノジは背負っていた巨大なトランクをこじ開け、中から無数のスピーカーユニットとアンプを瞬時に組み上げ始めた。
「大坂中の通信網をジャックし、オオサカゲリオンの環境音入力回路に、最大出力の『特定の周波数』を叩き込みます! ……前田○子さん、出番ですよ!」
「えっ……私!?」
瓦礫の陰に隠れていた前田○子が、驚いて顔を上げる。
「そうです! アイドルであるあなたの『歌声』こそが、最も複雑で情報量が高く、そして人の心を揺さぶる(システムを狂わせる)究極の周波数なのです! センターの意地、見せてください!」
クリノジが、チタン製の特注マイクを○子へと手渡した。
「わ、わかったわ! 私の歌で、あの巨神の心を打ち砕いてみせる!」
○子がマイクを握り締め、瓦礫のステージ(お立ち台)へと駆け上がる。
(いやいやいやいや!!!!)
その様子を見ていたカピバラ・タナカは、心の中で特大のツッコミを炸裂させていた。
(歌で巨大ロボットを倒すって、完全に『マ〇ロス』じゃないっすか!! 侍ものって言ってたのに、SF映画どころか星間飛行ロボットアニメになっちゃったっすよ!! 著作権の地雷原をタップダンスしてるっす!!)
「ミュージック、スタートォォォッ!!」
クリノジの怒号と共に、大坂中に設置されたスピーカーから、爆音のイントロが鳴り響く。
「……聴いてください! 『フライング・ゲット(物理)』!!」
前田○子が、戦場のど真ん中で完璧なアイドルステップを踏みながら、魂の咆哮(熱唱)を始めた。
『な、なんじゃァァッ!? この耳障りな音はァァッ!?』
オオサカゲリオンの胸部コアで、秀吉が頭を抱えてのたうち回る。
○子の歌声は、小十郎のそろばんによって計算された「結界の波長と完全に反発する周波数」に変換され、クリノジの音響兵器を通じて結界へと直接叩き込まれていた。
ピキッ……! ピキピキピキッ!!
絶対の防御を誇っていた黄金のバリアに、蜘蛛の巣のような亀裂が走り始める。
秀吉の「恐怖」という閉じた経済圏に、アイドルの「情熱」という過剰な情報量が流れ込み、処理能力が崩壊を起こしたのだ!
「よし! 結界が剥がれかけてるぞ! 成実、ブチ開けろォッ!!」
政宗が二丁拳銃で亀裂に向けて『起業家連弾』を放ち、一点を集中攻撃する。
「応ッ!! 大胸筋・強制執行ッ!!」
伊達成実が跳躍し、亀裂に巨大な錨の爪をねじ込み、凄まじい膂力で結界の裂け目を強引にこじ開けた。
「……道が開いたか」
剥き出しになったオオサカゲリオンの胸部装甲。
その前方に、漆黒の短髪を揺らす『夜叉』――神堂宗次郎が、すでにワイヤーの先端で跳躍の姿勢に入っていた。
「宗次郎さん! 決めてください!!」
○子の歌声がクライマックスを迎えると同時に、宗次郎は弾かれたように宙を舞った。
「『夢想静水流・絶の型』」
宗次郎は空中で、大盾刀『玄武』を鞘ごと右腕のガントレットに固定し、巨大な『槍』のように構えた。
そして、左手には特注の短筒。しかし、銃口は敵ではなく、自らの背後へと向けられていた。
「『夜叉の彗星』」
ズドォォォォンッ!!
空中で短筒の引き金を引く。その凄まじい「反動」を推進力に変え、宗次郎の体はまるで本物の流星のごとき超音速で、オオサカゲリオンの胸部めがけて突撃した!
『銃闘術』の反動を利用した、防御不能の超高速突進打撃である!
『ヒィィッ……! く、来るなァァァッ!! ワシの……ワシの黄金に触れるなァァァッ!!』
秀吉の悲鳴が響き渡る。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
宗次郎の放った『玄武』の先端が、オオサカゲリオンの五十メートルの極厚装甲に激突。
銃の反動と、夜叉の全筋力を乗せた一撃は、鋼鉄の装甲を紙のように貫き、ついにその奥にある「黄金のコア(純金のデスク)」へと到達した!
「……これで、終わりだ。狂王」
宗次郎の冷酷な宣告と共に、コア内部の制御システムが完全に沈黙。
オオサカゲリオンの巨体が痙攣するように震え、その両目(天守閣の窓)から発せられていた狂気の光が、フッと消え失せた。
「やった……! 巨神が止まったわ!」
綺羅姫が、涙を浮かべて歓喜の声を上げる。
政宗も、成実も、小十郎も、安堵の息を吐きながら崩れ落ちるオオサカゲリオンの姿を見上げた。
(……終わったっす。ついに、長かったメガバンクとの戦いが終わったっす……!)
タナカも瓦礫の陰から這い出し、感動に毛皮を震わせていた。
――しかし。
グォン……!!
沈黙したはずのオオサカゲリオンの巨体が、再び、不気味な重低音を響かせ始めた。
消えたはずの両目には、今度は血のように赤い『非常用』の光が灯っている。
「……なっ!? コアは破壊したはずだぞ!?」
政宗が驚愕に目を見開く。
『……警告。最高経営責任者(CEO)のバイタル消失を確認』
大坂の空に響き渡ったのは、秀吉の声ではない。
感情を一切持たない、冷徹な機械音声だった。
『これより、豊臣メガバンクは「最終清算モード」へと移行します。……自己崩壊システム起動。半径五十キロ圏内の全生命体及び資産を、物理的に焼却します』
「自爆機能だと!? ふざけるな!!」
小十郎がそろばんを叩きつける。
秀吉の狂気は、己の死と同時にすべてを道連れにする「最悪の置き土産」を用意していたのだ。
胸部コアの装甲に突き刺さったままの宗次郎は、赤く発光し始めた巨神の内部から、恐るべき熱量が膨張していくのを感じ取っていた。
全100話完結まで、残り3話。
大坂の街を道連れにしようとする巨神の「自爆」を止める手立ては残されているのか。カオス・パーティーの真の最終決断が、今、迫ろうとしていた!




