第九十二話:摩天楼の死闘! 究極の官僚(エリート)と夜叉の決断!
――大坂・豊臣メガバンク本社ビル(大坂城)。
天を衝くほどの威容を誇るその摩天楼は、狂王・秀吉の精神を具現化したかのように、黒い雨雲の中で不気味に歪んでそびえ立っていた。
一階の巨大なエントランスホール。
大理石の床を踏み鳴らし、伊達政宗を先頭にしたカオス・パーティー一行が、静寂のロビーへと足を踏み入れた。
「……静かすぎるな。歓迎のパレードは無しかよ」
政宗が二丁のオートマチック・ハンドガンを抜き、周囲を鋭く警戒する。
その時、広大なロビーの四方を囲む巨大モニターが一斉に点灯し、冷徹な目をしたエリート官僚――石田三成の姿が映し出された。
『……よくぞここまで辿り着いた、奥州の害虫ども。だが、貴様らの不法侵入(コンプライアンス違反)もここまでだ』
スピーカーから響く三成の声には、かつての秀吉に対する絶対的な忠誠心と、それを狂気に歪められたことへの深い絶望が入り混じっていた。
『これより先は、豊臣の心臓部。……最上階へのエレベーターを動かすには、私の発行する「絶対稟議書」と、この「承認印」が必要だ。むろん、貴様らのような不穏分子に押す印などない!』
三成がモニター越しに巨大な朱肉の印鑑を振り下ろした瞬間。
ズゴォォォォォォンッ!!!
エントランスの天井が開き、巨大な鋼鉄のブロック――『絡繰・超重力決裁印』が、一行を押し潰さんとばかりに落下してきた!
「チィッ! 天井から物理的なハンコが降ってきやがった!」
「俺に任せろォッ!! 大胸筋・絶対拒否ッ!!」
伊達成実が前に躍り出ると、自身の体長の何倍もある数トンクラスの巨大鋼鉄印を、両腕の筋肉を爆発させて下からガッチリと受け止めた!
メキャァァァッ! 大理石の床が成実の足の形に陥没する。
「……ハンコの押印速度、および落下軌道、解析完了」
片倉小十郎がそろばんを弾きながら、上空のプレス機の隙間を見極める。「右斜め前方、死角あり! 駆け抜けてください!」
(いやいやいやいや!!!!)
落下するハンコの隙間を縫って走りながら、カピバラ・タナカは心の中で滝のような涙を流していた。
(大企業のエントランスで、巨大な物理ハンコに押し潰されそうになるってどんなブラック企業っすか!! 官僚主義を物理攻撃に変換するセンスが狂ってるっす!!)
「雑魚の相手は私が!! 早送り(早回し)で処理しますッ!!」
ディレクターのクリノジが、今度は手元の『編集用ジョグダイヤル(コントローラー)』を猛烈な勢いで回転させた。
ギュイィィィィンッ!!
すると、周囲の空間の「時間軸」が映像のようにバグり始め、通路から湧いてきたメガバンクの防衛部隊が、超高速で壁に激突したり、お互いにぶつかり合って自滅していく。
(ついに時間を操作し始めたっす!! 映像編集の概念で現実の物理法則を破壊してるっす!! もうこのディレクターが一番ヤバい存在なんじゃないっすか!?)
タナカの心のツッコミが限界を迎える中、一行はついにエントランスの最奥――三成が待ち受ける、最上階直通エレベーターの前へと辿り着いた。
「……馬鹿な。私の究極の官僚システムを、ただの筋肉と算盤で突破しただと!?」
実体としてそこに立っていた三成が、信じられないものを見るように目を見開く。
彼の周囲には、チタン合金で紙のように薄く延ばされた『特注・斬撃稟議書』が、まるで刃の竜巻のように渦巻いていた。触れれば一瞬で肉体を切り刻む、三成の最終防衛ラインである。
「殿下の狂気は、私が守る! この書類の刃の前に、塵となって消えろォッ!!」
三成の叫びと共に、無数のチタンの刃が一行へと殺到する。
「……書類の整理は、終わりましたか」
――冷たく、静かな声。
渦巻く刃の竜巻の前に、一陣の黒い風が割り込んだ。漆黒の短髪と、すべてを射抜く夜叉の瞳。神堂宗次郎である。
ガキィィィィンッ!!!
宗次郎は、背中から大盾刀『玄武』を前面に展開し、殺到するチタンの刃をすべて弾き落とす。凄まじい金属音が鳴り響く中、彼は一歩たりとも引かない。
「『夜叉の歩み』」
宗次郎は盾の影から右腕を突き出し、特注の短筒を構えた。
ズダンッ! ズダンッ! ズダンッ!!
放たれた銃弾は、宙を舞うチタンの書類に次々と命中。だが、ただ撃ち落としたのではない。弾丸は強靭なチタンの表面で跳弾し、別の書類に当たり、さらに跳弾を繰り返す。
ビリィィィィィッ!!
わずか数発の銃弾が、巨大なビリヤードのように空中の書類を次々と連鎖的に打ち落とし、三成を護る「刃の竜巻」をわずか三秒で完全に沈黙させてしまった。
「なっ……!? 私の絶対防壁が……!」
三成が驚愕に硬直したその刹那。
「……夢想静水流・空の型」
宗次郎は玄武を畳み、床を滑るようにして三成の懐へと肉薄していた。
左手の短筒の銃口が、三成の心臓へとピタリと押し当てられる。
「『夜叉の裁き』」
カチャリ、と撃鉄が引かれる冷酷な音。
究極のエリート官僚は、完全に戦場の悪鬼の前に制圧された。
「……撃て。もう、すべて終わりだ」
三成は抵抗を諦め、力なく両腕を下げた。その瞳からは、張り詰めていた糸が切れたように、一筋の涙がこぼれ落ちていた。
「殿下は……あの御方は、もはや人間ではない。玉座に座る、ただの底なしの『恐怖』と『狂気』の塊だ。私がいくらシステムを作り上げても、殿下の御心を救うことはできなかった……」
宗次郎は無言のまま、短筒の銃口をゆっくりと下げた。
政宗が歩み寄り、三成の胸ぐらを掴み上げる。
「……泣き言は、あの世で言え。綺羅はどこだ! 俺の妹はどこに囚われている!」
「……最上階。殿下の玉座のすぐ隣……『黄金の鳥籠』の中だ」
三成が虚ろな声で答えると同時に、背後の重厚なエレベーターの扉が、不気味な電子音と共にゆっくりと開いた。
「行こうぜ、宗次郎。この狂ったメガバンクを、俺たちの手で完全に上場廃止させてやる」
政宗が、二丁のハンドガンをカチャリとリロードし、真っ直ぐにエレベーターへと乗り込む。
「……御意」
宗次郎もまた、熱を帯びた短筒を懐に収め、政宗の後に続いた。
成実、小十郎、クリノジ、そしてタナカと前田○子。カオス・パーティーと伊達家の総戦力が、決戦の箱へと乗り込んでいく。
大坂の夜景を見下ろす、狂王のペントハウス。
そこには、囚われの妹・綺羅と、すべてを破壊しようとする豊臣秀吉が待っている。
果てしなく続いたワンパターングルメ旅の果てに行き着いた、重厚すぎる10話シリーズの最終決戦が、今、最上階の扉の向こうで幕を開けようとしていた。




