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第九十一話:大坂湾の死闘! 鉄壁のリスク管理と夜叉の死角!

 ――玄界灘を折り返し、伊達の黒船はついに本州へと帰還を果たした。

 しかし、彼らが目指す大坂の海は、かつての活気ある商人の海ではなかった。

 大坂湾の入り口を完全に封鎖するように、海面からそびえ立つ鋼鉄の巨大防波堤――『豊臣メガバンク・大坂湾洋上ゲート』が、黒い雨の中に禍々しいシルエットを浮かび上がらせていたのである。

「……見ろ。海上が完全に要塞化されてやがる」

 伊達政宗が、甲板で潮風に濡れるレザージャケットの襟を立てながら舌打ちをした。

 巨大なゲートには無数の砲門が並び、海面にはおびただしい数の機雷(水雷)がプカプカと浮遊して、文字通り「鉄壁の防衛線」を築いている。

「狂える太閤の足元を護る、最後の関所というわけですか……。機雷の配置パターン、解析中。しかし、密度が高すぎます」

 片倉小十郎が、そろばんを弾く手を止めて険しい顔をした。

「――解析など無駄だ、奥州のネズミども」

 要塞の最上部、強大なサーチライトに照らされた防弾ガラスの向こうに、一人の男が立っていた。

 豊臣メガバンク・最高リスク管理責任者(CRO)、島左近しまさこんである。

 彼は分厚いデータファイル(和紙の束)を片手に、冷徹な視線で伊達の黒船を見下ろしていた。

「殿下の狂気が生み出した『予測不能のバグ』……それが貴様らだ。だが、この島左近の『究極のリスク管理』の前に、万に一つの確率バグも通用せん。すでに貴様らの船の推力、風向き、そして『銃闘術』の射線に至るまで、すべてのデータは計算済みだ」

 左近が指を鳴らすと、要塞の砲門が一斉に伊達の黒船へと照準を合わせた。

「リスクは、事前に完全に摘み取る。……一斉掃射。塵一つ残すな」

 ズドドドドドドォォォォンッ!!!

 数百門の大砲が火を噴き、海面を埋め尽くす機雷の群れが一斉に起爆スイッチをオンにする。上下左右、完全に逃げ場のない死の弾幕が黒船に迫る!

「フン……! データで俺たちベンチャーの勢いが測れるかよッ! 成実!!」

「応ッ!! 大胸筋・スクリュー・パドルッ!!」

 伊達成実が、黒船の巨大なアンカーを海中に深く突き立て、なんと己の凄まじい膂力だけで船を強引に旋回ドリフトさせた!

 ザザザザァァァッ!! 巨大な黒船があり得ない挙動で機雷の網の目をすり抜ける。

「な、なんだあの物理法則を無視した旋回は……!? 計算にないぞ!」

 左近が目を見開く。

「今です!! クロマキー合成、セットォォォッ!!」

 さらに甲板から、ディレクターのクリノジが巨大な『緑色のグリーンバック』を空中に向けて展開した。特殊な絡繰の凧で吊るされた数百メートル四方のグリーンバックが、黒船全体をスッポリと覆い隠す!

「リアルタイムCG処理、実行!! 船の映像を、背景の海と完全に同化(透過)させます!!」

 クリノジが手元のコンソール(カチンコ型)を叩くと、黒船の姿が景色に溶け込み、大坂湾の海上からフッと「消失」した!

 (いやいやいやいや!!!!)

 船室の窓から見ていたカピバラ・タナカが、己の毛皮をむしりながら心の中で絶叫した。

 (グリーンバックで光学迷彩!? 映像編集の技術を現実の海戦に持ち込むなっすよ!! しかもCG処理って、戦国時代のどこにそんなパソコンがあるんっすか!! 時代考証も科学も完全にバグってるっす!!)

「ば、馬鹿な! 船の質量反応が消えただと!? どこへ行った!!」

 左近の計算(リスク管理)が、完全に崩壊した瞬間だった。

「……お前のデータの、死角だ」

 ――ヒュンッ。

 左近の背後。要塞の司令塔の防弾ガラスが内側から砕け散り、濡れた漆黒の短髪を揺らす『夜叉』――神堂宗次郎が、いつの間にか音もなく着地していた。

 グリーンバックの影に隠れ、宗次郎は一人、ワイヤーを使って要塞の壁面を駆け上がり、左近の背後へと回り込んでいたのである。

「チィッ……! 夜叉か!!」

 左近は瞬時に手元のデータファイルを投げ捨て、腰から二振りの特殊合金製『絡繰十手からくりじゅって』を引き抜き、交差させて構えた。

「貴様の『銃闘術』のデータは、生き残った兵士たちの証言からすべてシミュレーション済みだ! 防御からの近接射撃、そして跳弾の軌道……! リスクはすでにゼロだ!!」

 左近が十手を構えて突進する。

 宗次郎は無言のまま、両手から特注の短筒を引き抜き、引き金を引いた。

 ズダンッ! ズダンッ!

 放たれた銃弾を、左近は十手の刃で見事に弾き落とす! さらに跳弾を狙った壁への射撃も、左近はわずかな首の動きだけで完全に回避してみせた。

「読み切ったぞ! 貴様の攻撃パターンは、完全に私の計算の内にある!!」

 左近の十手が、宗次郎の首元に迫る。

「……ならば、計算の『外』へ行くまで」

 宗次郎は、迫る十手を大盾刀『玄武』で弾き返すことなく、あろうことか両手に持っていた短筒を、そのまま左近の顔面めがけて全力で「投げつけた」。

「なっ……!? 銃を捨てただと!?」

 予想外の物理攻撃(投擲)に、左近が思わず十手で銃を弾き飛ばす。

 その瞬間。

 宗次郎の姿が、左近の視界からフッと消えた。

「『夢想静水流・無の型』」

 宗次郎は、投げた銃が弾かれた一瞬の「瞬き」の死角に潜り込み、床を滑るようにして左近の足元へと肉薄していた。

 そして、彼の両手には、マントの裏に隠し持っていた「予備の新たな短筒二丁」が、すでに握り締められている。

「『夜叉の影』」

 ズドォォォォンッ!!!

 銃口が左近の甲冑の腹部にめり込み、至近距離から両手同時の破甲弾が放たれた。

「がはァァァッ……!!」

 究極のリスク管理を誇った男が、計算を完全に超越した「戦場の悪鬼の直感」の前に、血を吐いて吹き飛んだ。

「……戦場に、絶対のデータなど存在しない」

 宗次郎は硝煙を吹く短筒をゆっくりと収め、崩れ落ちた左近を冷酷に見下ろした。

「ば、馬鹿な……。私のリスクヘッジが……」

 左近が白目を剥いて意識を失うと同時に、洋上ゲートの巨大な鋼鉄の扉が、重々しいサイレンと共にゆっくりと開き始めた。

「ゲート・オープンッ!! やったぞ宗次郎ォォッ!!」

 海上の黒船から、政宗の歓喜の声が響き渡る。

「……政宗様。道は開きました。真っ直ぐに、あの大坂城の玉座まで」

 宗次郎は要塞の頂上から、黒い雨の向こうにそびえ立つ、異様に巨大で歪な摩天楼――豊臣メガバンク本社ビル(大坂城)を鋭く見据えた。

 狂気の太閤・秀吉が待つ、悪意の中心地。

 そして、政宗の妹・綺羅が囚われている巨大な鳥籠。

 すべての決着をつけるための、カオス・パーティーと伊達家の「最終決戦」の地・大坂へと、黒船はついにその舳先を滑り込ませたのである。

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