第九十三話:黄金の鳥籠! 摩天楼の寵姫と全方位(オールレンジ)ブランド兵器!
――大坂城(豊臣メガバンク本社ビル)、最上階ペントハウス。
重厚なエレベーターの扉が、冷たい電子音と共に開いた。
伊達政宗と神堂宗次郎たちが足を踏み入れたその空間は、まさに「狂気」そのものだった。
純金と大理石で彩られた豪奢な部屋。しかし、床には最高級のワインが血のようにぶちまけられ、破かれた国宝級の絵画や、数え切れないほどの小判がゴミのように散乱している。
「……兄様ッ! 宗次郎ッ!!」
部屋の最奥。
天井から吊るされた、巨大な『純金製の鳥籠』の中から、悲痛な叫び声が響いた。
ドレスをボロボロに引き裂かれながらも、その気高き瞳の光を失っていない美しい少女――伊達政宗の妹にして、宗次郎が命を懸けて守り抜くと誓った主、綺羅姫である。
「綺羅!! よく無事で……!」
政宗が鳥籠へ駆け寄ろうとした、その時。
「――おやめなさい。ひでちゃんの『お遊戯』の邪魔は、私が許さないわ」
影の中から、真紅のドレスに身を包んだ妖艶な美女が姿を現した。
豊臣秀吉の寵姫、淀殿(元カトリーヌ)である。
彼女の背後にある純金のデスクでは、かつて天下人と呼ばれた男・秀吉が、政宗たちの侵入に気づく様子もなく、虚ろな瞳で小判を積み木のように積み上げては崩し、ケタケタと幼児のように笑っていた。
「淀殿……! てめぇ、狂った秀吉を操って、メガバンクを自分のオモチャにする気か!」
政宗が二丁のハンドガンを構え、鋭く睨みつける。
「操る? 冗談じゃないわ。私はただ、ひでちゃんの狂気を誰よりも近くで愛しているだけ。……泥水のようなこの大坂の摩天楼で、共に焼け焦げると誓った『共犯者』としてね!」
淀殿が優雅に指を鳴らす。
すると、彼女の周囲に浮かび上がったのは、南蛮渡来の超高級ハイブランド・バッグの数々だった。しかし、ただのバッグではない。バッグの口が自動で開き、中から不気味な銃口が覗いている。
「行きなさい! 『全方位浮遊兵装』ッ!!」
淀殿の叫びと共に、数十個の高級バッグが反重力で宙を舞い、政宗たちを取り囲むように滞空して一斉に火を噴いた!
(いやいやいやいや!!!!)
銃弾の雨から身を隠しながら、カピバラ・タナカの心のツッコミが炸裂する。
(ついにファンネル兵器まで出てきたっすよ!? しかもそれが全部、ウン百万円するハイブランドのバッグってどういうセンスっすか!! 恋愛ドラマ編のあの重厚な愛の結末が、完全に物理兵器として魔改造されてるっす!!)
「チィッ! 死角から四方八方に撃ってきやがる!」
政宗や成実が弾幕に押し込まれ、反撃の糸口を掴めない。
全方位からの立体的な射撃。それがメガバンクの資金力と南蛮の技術が融合した、淀殿の恐るべき武力だった。
「……宗次郎! お願い、みんなを助けて!」
鳥籠の中から、綺羅姫が叫ぶ。
その声が、戦場の悪鬼のスイッチを完全に押し込んだ。
「……御意」
銃弾の嵐のド真ん中へ、神堂宗次郎が静かに歩み出た。
一切の感情を排した漆黒の瞳。彼は絡繰大盾刀『玄武』を背に負ったまま、両手から特注の短筒を抜き放つ。
「死になさい、夜叉! あなたのその薄汚れた姿、ハイブランドの光で蜂の巣にしてあげる!」
淀殿の指揮で、すべてのバッグ(ファンネル)が宗次郎へと一斉に銃口を向け、全方位からのレーザーのような一斉射撃を放った。
「『銃闘術・円の型』」
宗次郎は、その場から一歩も動かなかった。
ただ、両手の短筒を信じられない速度で回転させ、弾丸をバラ撒く。
ズダンッ! ズダンッ! タァンッ! タァンッ!!
放たれた宗次郎の弾丸が、淀殿のバッグから撃ち出された銃弾と「空中で正面衝突」し、次々と火花を散らして相殺されていく!
「なっ……!? 空中の弾丸を、弾丸で撃ち落としただと!?」
淀殿が驚愕に目を見開く。
「『夜叉の星屑』」
宗次郎は空中で弾丸を相殺させた直後、撃ち尽くした短筒を真上に放り投げ、マントの下から新たな二丁を引き抜く。
そして今度は、宙を舞う数十個の高級バッグの「留め具」だけを、一寸の狂いもなく正確に撃ち抜いた!
バチンッ! ガシャァァンッ!!
ロック機構を破壊されたブランドバッグたちは、パカッと情けなく口を開いたまま機能停止し、次々と大理石の床へとボトボト落下していった。
「私の……私の特注ファンネルが……!」
淀殿が崩れ落ちたバッグに気を取られた一瞬。
宗次郎は床を滑るように肉薄し、熱を帯びた銃口を淀殿の額へとピタリと押し当てていた。
「……綺羅姫に恐怖を与えた罪、その命で購え」
宗次郎の指が、撃鉄に掛かる。
「やめて、宗次郎!」
鳥籠からの綺羅姫の声に、宗次郎の指がピタリと止まった。
「その方は、愛する人の狂気に付き添う道を選んだだけ……。命まで奪う必要はありません」
「……ハッ。甘い主君だこと」
淀殿は額に銃口を突きつけられたまま、自嘲気味に笑い、そしてゆっくりと床に膝をついた。
「すごいぜ宗次郎!」
政宗が駆け寄り、鳥籠の純金の鍵を銃弾で破壊して綺羅姫を救い出す。
「兄様……! 宗次郎……! 本当によく、ここまで……!」
綺羅姫が涙ぐみながら、二人と固く抱き合う。
ついに果たされた、主君との再会。
(……よかったっす! ついに感動の再会っす! これで後は、あのボケ老人(秀吉)を大人しくさせるだけ……)
タナカが安堵の息を吐きかけた、その時だった。
「……あ? あああ……?」
部屋の奥。
床に散らばった小判で遊んでいた秀吉が、ギギギ……と首を不気味に曲げて、政宗たちを振り返った。
「ワシの……ワシの鳥が逃げた。……ワシの、ワシの城から……ワシの黄金が……」
秀吉の両目からは、黒い泥水のような涙がとめどなく溢れ出していた。
彼の狂気は、ついに臨界点を突破したのだ。
「許さん……許さんぞォォォォォォッ!! 何もかも、ワシのモノだ! ワシの黄金の城で、全部踏み潰してやるゥゥッ!!」
秀吉は絶叫と共に、純金のデスクに隠されていた『巨大な真紅のボタン』を、血が滲むほどの力で叩き潰した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォッ!!!!
瞬間。
大坂城(メガバンク本社ビル)全体が、マグニチュード9クラスの凄まじい大地震に見舞われたかのように激しく揺れ始めた。
ペントハウスの防弾ガラスが次々と砕け散り、黒い雨が室内に吹き込んでくる。
「な、なんだ!? ビルが崩れるのか!?」
成実が綺羅姫を庇いながら叫ぶ。
「チガウワ……」
床に座り込んだ淀殿が、震える声で呟いた。
「ひでちゃんが、最後のシステムを起動させたのよ。……この大坂城は、単なるメガバンクの本社ビルじゃない。世界を終わらせるための、究極の兵器なの……!」
ズギャァァァァァァァァァンッ!!!!
淀殿の言葉を証明するかのように、巨大な摩天楼の外壁がバキバキと音を立てて剥がれ落ち、その内部から、禍々しい「巨大な鋼鉄の骨格」が姿を現し始めた。
城が、ビルが、形を変えていく。
それはまさに、大坂の街そのものを喰らい尽くし、天を衝くほどの巨大な人型へと変形していく、絶望の胎動であった。
「汎用決戦兵器……『オオサカゲリオン』……!!」
クリノジが、絶望のあまり持っていた斬撃カチンコを取り落とした。
全100話の物語は、ついに最終局面。
狂気の権力者が生み出した、究極の巨大ロボット(大坂城)との、文字通り天地を揺るがす最終決戦の幕が、絶望の産声と共に上がったのである!




