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第八十八話:焦土の市街戦! 強制執行の商将と夜叉の弾雨!

 ――釜山プサン市街。

 海岸線の防衛網を突破した伊達家とカオス・パーティー一行の眼前に広がっていたのは、黒煙を上げて燃え盛る異国の街並みだった。

「ひでぇ有様だ……。市場の制圧シェアかくとくどころじゃねぇ、ただの破壊活動テロじゃねぇか」

 伊達政宗が、燃える瓦礫を踏みしめながらギリッと奥歯を噛み鳴らす。

 豊臣メガバンクの先遣隊は、すでにこの街を制圧していた。しかし彼らは統治するわけでも略奪するわけでもなく、ただひたすらに、目につく建物を端から大砲と松明で灰に変えていたのである。

「……計算が合いません。この無差別な焦土作戦は、経済的にも戦略的にも、莫大な赤字マイナスを生むだけです」

 片倉小十郎が、そろばんを弾きながら冷や汗を流す。

「フフフ……赤字だと? 奥州の田舎ベンチャーには、太閤殿下の『壮大なビジョン』が理解できんようだな」

 炎の向こうから、黄金の装飾が施された豪奢な甲冑を纏った男が姿を現した。

 豊臣メガバンク・海外市場開拓本部長、小西行長こにしゆきながである。彼は巨大な黄金の筒――『絡繰・大判機関砲ガトリング・コインガン』を肩に担いでいた。

「殿下はこう仰ったのだ。『ワシの記憶にないものは、すべて燃やしてしまえ。煙が目に沁みれば、ワシはまだ生きていると実感できる』と。……もはや領土も黄金も関係ない! 我らメガバンクの使命は、殿下の御心を安らげるために、この世界すべてを焼き尽くすことにある!」

 行長が狂気に満ちた笑い声を上げ、巨大な黄金の筒を構える。

「狂ってやがる……! 経営トップの認知の歪みが、何万の命を焼き捨てようってのか!」

 政宗が二丁のオートマチック・ハンドガンを抜き放つ。

「死ね、伊達政宗! 『強制執行・大判乱れ撃ち』ェェッ!!」

 ガガガガガガガガッ!!!

 行長の機関砲から、弾丸の代わりに「純金の大判」が秒間数十発の超高速でばら撒かれた! 黄金の質量弾が瓦礫を粉砕し、火花を散らして政宗たちへと殺到する。

「させねぇッ!! 大胸筋・絶対防壁マッスル・イージスッ!!」

 伊達成実が前に飛び出し、釜山の海岸から引きずってきた黒船の『巨大な錨』を盾にして黄金の雨を受け止める。

 カンカンカンカァァンッ!!

 分厚い鋼鉄の錨に大判が食い込み、凄まじい衝撃音が響き渡る。

「……資金力(物理)の無駄遣いですね。ROI散弾、射出!」

 小十郎がそろばんを弾き、超高速の珠を放って敵の弾幕を相殺していく。

 (いやいやいやいや!!!)

 燃え盛る荷車に隠れながら、カピバラ・タナカは震え上がっていた。

 (敵の武器がお金(物理)ってどういうことっすか!! しかも純金の大判をマシンガンみたいに撃ち出すって、コスパ最悪の兵器っすよ!! そしてそれを受け止めるのが筋肉とそろばんって、このシリアスな世界観のどこにそんな物理法則が隠れてるんっすか!!)

 タナカの悲痛な心のツッコミをよそに、行長の背後から数十名の豊臣の重装兵が、長槍を構えて一斉に突撃してきた!

「きゃあっ!」

 前田○子が悲鳴を上げる。

「――カーーット! 演者の動線にエキストラが入り込んでいますよ!!」

 ブォンッ!!

 重装兵たちの横っ腹を、巨大な黒い鉄骨のようなものが薙ぎ払った。

 チタン製の『斬撃カチンコ』や『超高感度ガンマイク』に続き、映像ディレクター・クリノジが持ち出した新たな兵器――それは、映画撮影用の巨大なクレーン機材『特注・暗殺用ジブアーム』であった!

 クリノジは、本来カメラを吊るすための長さ五メートルを超える強靭なアームを、まるで巨大な薙刀なぎなたのように軽々と振り回している。

広角ワイドで一掃します! パンアップッ!!」

 ドガァァァァァンッ!!!

 ジブアームの凄まじい遠心力によって、重装兵たちがまとめて宙高く弾き飛ばされ、燃える家屋へと突っ込んでいった。

 (……もうダメっす。ディレクターが撮影機材で無双する絵面が完全に定着しちゃったっす。私はただ、美味しいご当地ラーメンのスープを仕込みたかっただけなのに……!)

 タナカは己の無力さと、世界観の崩壊インフレに涙した。

「チィッ……! 雑魚どもめ、役立たずが!」

 行長が舌打ちをし、大判機関砲の銃身をクリノジたちへと向け直そうとした、その時。

 ――炎の影から、音もなく『夜叉』が這い出た。

「なっ……!?」

 行長が気づいた時には、すでに遅かった。

 漆黒の短髪を揺らす神堂宗次郎が、炎と煙の軌跡を縫うようにして、行長の懐スレスレにまで肉薄していたのである。

「……夢想静水流・旋の型」

 宗次郎は、右手の短筒で機関砲の銃身を強引に跳ね上げさせると、そのまま体を独楽こまのように回転させた。

「『輪廻りんね』」

 タァンッ! タァンッ! タァンッ!!

 回転の遠心力を乗せた超至近距離からの三連射。

 第一弾が、大判機関砲の給弾ベルト(大判の束)を正確に撃ち抜いて粉砕。

 第二弾が、行長の右肩の関節を撃ち抜き、機関砲を地面へと落下させる。

 そして第三弾が、行長の顎をかすめ、彼の黄金の兜を吹き飛ばした。

「がはァッ……!!」

 防御すら許されない、流れるような『銃闘術』の暴風。

 行長は血を吐きながら、背中から瓦礫の山へと倒れ込んだ。

「……無用な浪費は、死を招く」

 宗次郎は、熱を帯びた短筒の銃口を行長の眉間に突きつけ、氷のように冷たい声で見下ろした。

 その瞳には、プロレスを愛したコミカルな男の欠片もない。ただ、主君の敵を確実に排除する暗殺者の冷酷さだけが宿っていた。

「ひ、ひぃぃ……! 撃つな、降伏する! ワシの個人資産を半分くれてやるから、命だけは……!」

 先ほどまでの狂気はどこへやら、行長は無様に命乞いを始めた。

「……資産など不要だ。だが、お前たちのその『狂気』だけは、ここで完全に清算してもらう」

 政宗が歩み寄り、冷たく言い放つ。

 炎上する釜山の街並み。

 行長の部隊を制圧したことで、一時の静寂が訪れた。しかし、空を覆う黒煙は、秀吉の病んだ心が日本海を越えてこの大陸にまで深い影を落としていることを明確に示していた。

「……政宗様。秀吉の狂気は、もはや一つの国を焼き尽くすまで止まりません。我々は、どこへ向かえば……?」

 小十郎が、そろばんを握りしめながら沈痛な顔で問う。

「決まってる」

 政宗は、眼帯の奥で燃える街を見据えた。

「大陸に上陸したメガバンクの拠点を一つ残らず潰し、この狂った海外進出プロジェクトを物理的に頓挫させる。……そして、大坂城の本丸へカチ込み、あの狂王の首を獲って、綺羅を連れ戻す!」

 奥州ベンチャーの若きCEOが下した、究極の決断。

 それは、巨大すぎる権力と純粋な悪意に対する、絶望的な反逆の宣戦布告であった。

 カオス・パーティーと伊達家の、血塗られた異国の行軍は、さらなる地獄の深淵へと続いていく。

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