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第八十七話:釜山上陸の死闘! 異国の地と鋼鉄の防衛線!

 ――玄界灘の暴風雨を突破した漆黒の装甲輸送艦は、ついに大陸の最前線、釜山プサンの海岸線へとその巨体を現した。

 しかし、彼らを待ち受けていたのは、未知の海外市場などではない。

 海岸を埋め尽くすように展開された、豊臣メガバンクの『海外事業部(先遣隊)』による、幾重にも連なる鋼鉄の防衛線であった。

「……三成からの通達通りだ。名護屋の包囲を抜け、本当に海を渡ってきおったか。伊達の亡霊どもめ」

 巨大なバリケードの上で、海外事業部長・黒田長政が冷たく吐き捨てた。

 彼の背後には、最新鋭の兵器である『絡繰式連装火縄銃ガトリング・マッチロック』を構えた重装歩兵がズラリと並んでいる。

「狂える太閤殿下の勅命である。伊達のネズミどもは、海外進出のいしずえとして、この釜山の砂浜で一匹残らず挽肉に変えろ。……全門、掃射開始!!」

 ドドドドドドドォォォォンッ!!!

 海岸線から一斉に放たれる、雨あられのような鉛の弾幕。

 海を進む伊達の黒船の装甲に弾丸が着弾し、凄まじい火花と轟音が鳴り響く。

「政宗様! 着岸前に船体が持ちません! 弾幕が厚すぎます!」

 操舵輪を握る片倉小十郎が、そろばんを弾きながら叫んだ。

「フン。なら、船ごと陸に乗り上げるまでだ! 機関部、限界レッドゾーンまでブチ回せェッ!!」

 伊達政宗が、眼帯の奥で獰猛な笑みを浮かべる。

 黒船は減速するどころか、さらに外輪を激しく回転させ、釜山の砂浜めがけて全速力で突進した。

 ズドォォォォォォォォォンッ!!!

 凄まじい地響きと共に、黒船が砂浜に乗り上げ、豊臣軍の第一防衛線のバリケードを船首で豪快に粉砕する。

「上陸だァァァッ!! 奥州ベンチャーの営業力、見せてやるぜ!!」

 政宗が甲板から砂浜へと躍り降り、両手のオートマチック・ハンドガンを連射する。

 『起業家連弾ベンチャー・バレット』が、混乱する黒田軍の急所を的確に撃ち抜いた。

「俺に続けェッ!! 大胸筋・抜錨アンカー・リリースォォォッ!!」

 続く伊達成実は、あろうことか黒船の『巨大な鋼鉄のアンカー』とそれに繋がる極太の鎖を素手で引きちぎり、それを巨大なモーニングスターのように振り回しながら砂浜へと飛び降りた。

 ドゴォォォォォォンッ!!!

 数百キロの錨が竜巻のように振り回され、重装歩兵たちが盾ごと宙高く吹き飛ばされる。

「データ収集、完了。射角調整……行きます」

 小十郎は甲板に残ったまま、特殊な絡繰のドローンを上空へ放ち、それを経由して索敵データをそろばんにリンク。弾き出された『投資利益率(ROI)制圧散弾』が、空からの誘導弾のように敵の連装火縄銃の銃身を次々とピンポイントで破壊していく。

 (いやいやいやいや!!!)

 上陸の衝撃で砂浜に転がり落ちたカピバラ・タナカは、木箱の陰に隠れながら心の中で絶叫していた。

 (船の錨を武器にする筋肉バカに、ドローンとそろばんを連動させる軍師って、もう時代考証もクソもないっすよ!! しかも、上陸した海外で身内メガバンク同士でガチの殺し合いをしてるって、どんな地獄のプロジェクトっすか!!)

「そこの毛玉! 伊達のペットだな、死ねェッ!」

 タナカが隠れていた木箱が吹き飛び、黒田軍の兵士が槍を突き出してきた。

「キュルルッ!? 終わったっす!」

 タナカが短い両手で頭を抱えた瞬間。

「……音声オーディオチェック、入りまーす!!」

 ビュンッ!!

 細長い棒状の物体が槍を弾き飛ばし、そのまま敵兵の顎をカチ上げた。

 そこに立っていたのは、ディレクターのクリノジである。彼が槍のように構えているのは、映画撮影で音声を拾うための『超高感度ガンマイク』だった。

「音響ノイズは、私の作品には不要です!!」

 クリノジはガンマイクの先端を敵の顔面に押し当て、手元のスイッチを入れた。

 ピィィィィィィィィンッ!!!

 極限まで増幅されたハウリング(超高周波)が直接脳を揺さぶり、敵兵は白目を剥いて倒れ伏した。

 (……ディレクターの撮影機材が、ついに音響兵器にまで進化したっす。なんで裏方のお前がそんなフロントラインで無双してるんっすか!! ご当地グルメを食べてたあの平和な日々はどこに行ったんっすかァァッ!!)

 タナカの心のツッコミは、もはや涙声になっていた。

 乱戦の最中。

 黒田長政は、後方から大型の絡繰大筒バズーカを構え、暴れ回る政宗の背中へと狙いを定めていた。

「……死ね、独眼竜!!」

 長政が引き金を引こうとした、まさにその刹那。

 雨と硝煙を切り裂いて、一陣の黒い風が長政の懐へと滑り込んだ。

「なっ……!?」

「……夢想静水流・絶の型」

 氷のように冷たい声。

 黒田長政の視界に映ったのは、濡れた漆黒の短髪と、すべてを射抜くような『夜叉』の瞳――神堂宗次郎であった。

 宗次郎は、展開した大盾刀『玄武』で長政の大筒の砲口を強引に跳ね上げさせると同時に、右手の短筒の銃口を、長政の鎧の隙間――首筋の動脈へとピタリと押し当てた。

「『夜叉の裁き』」

 カチャリ。

 撃鉄が上がる冷酷な音が、戦場の喧騒を切り裂いて長政の耳に響く。

 ほんの数ミリ指を動かせば、長政の命は終わる。その圧倒的な「死の気配」の前に、歴戦の将である長政の全身から一瞬にして汗が噴き出した。

「……狂気の大義に殉じるか、ここで砂を噛むか。選べ」

 宗次郎は、感情の一切こもっていない声で告げた。

 彼が駆使する『銃闘術』は、ただの殺戮の技ではない。相手の戦意と命を完全に掌握し、圧倒的な力の差で制圧する、まさに悪鬼(夜叉)の武術であった。

「く、くそォォッ……!! 武器を捨てろ!! 降伏する!!」

 長政が屈辱に顔を歪めながら叫ぶと、黒田軍の兵士たちは次々と武器を砂浜へと投げ捨てた。

「……賢明な判断です」

 宗次郎は短筒をゆっくりと引き、玄武を鞘に納めた。

「さすがだぜ、宗次郎。これで釜山の橋頭堡きょうとうほは俺たちのものだ」

 政宗が、硝煙の上がる二丁拳銃を回しながら近づいてくる。

「……政宗様。喜んでいる場合ではありません」

 宗次郎は、血と硝煙の匂いが立ち込める釜山の空を見上げた。

「秀吉の狂気は、もはや大坂にとどまらず、この大陸まで完全に覆い尽くそうとしています。……真の地獄は、これからです」

 暗雲立ち込める異国の地。

 上陸部隊を制圧したものの、それは豊臣メガバンクが放った無数の刺客の、ほんの先触れに過ぎない。

 正気を失い、ただ世界を燃やし尽くそうとする狂王・秀吉の悪意から、伊達家は生き延びることができるのか。

 プロレス技とB級グルメを封印したカオス・パーティーの過酷な防衛戦は、さらなる絶望の淵へと進んでいくのである。

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