第八十五話:地下港の死闘! 狂信の猛将と鋼鉄の黒船!
――名護屋城、地下巨大港湾。
狂王・豊臣秀吉が、大陸侵攻のために莫大な資金を投じて建造させたその空間には、海水の匂いと重油の臭いが立ち込めていた。
「……見ろ。あれが豊臣メガバンクの誇る、最新鋭の装甲輸送艦だ」
薄暗い通路を抜け、ドックを見下ろす足場に辿り着いた伊達政宗が、眼下を指差した。
そこに停泊していたのは、分厚い鋼鉄の装甲板で覆われ、巨大な外輪を備えた異形の黒船だった。玄界灘の荒波を強行突破するためだけに作られた、まさに海の要塞である。
「すげぇデカさだぜ……。だが、乗り込めばこっちのもんだ!」
伊達成実が大太刀を肩に担ぎ、ニヤリと笑う。
一行が足場からドックの甲板へと続くタラップに足を踏み入れようとした、その瞬間。
「――そこまでだ、奥州のネズミ共」
ズゥゥゥゥンッ……!!
タラップの前に、巨大な質量が空から降ってきた。
鋼鉄の甲冑に身を包んだ、身長二メートルを超える巨漢。その手には、禍々しい三日月型の刃を備えた長大な『片鎌槍』が握られている。
「豊臣メガバンク・特別警備隊長……加藤清正。殿下の命により、貴様らをこの地下ドックの底に沈める」
清正の目には、狂気へと堕ちた秀吉への疑問は微塵もない。ただ純粋で盲目的な、恐るべき忠誠心だけが燃え盛っていた。
「フン。メガバンクの番犬のお出ましってわけか。……成実、行けるか?」
「愚問だぜ、政宗様!」
政宗の問いに、成実が凄まじい咆哮を上げて飛び出した。
「オォォォォッ!! 上腕三頭筋、フルバーストッ!!」
バーベルのような大太刀が、清正の脳天めがけて振り下ろされる。
「甘い」
ガギィィィィィンッ!!!
清正は片鎌槍の柄だけで、成実の全力の一撃をあっさりと受け止めた。火花が散り、鋼鉄の床が二人の異常な筋力によってメシリと沈み込む。
「ぬぅッ!? なかなかの背筋力じゃねぇか……!」
「貴様こそ。だが、殿下の大義の前に、その筋肉は無力!」
(いやいやいや!!)
後方で前田○子を庇いながら、カピバラ・タナカは心の中で激しく突っ込んでいた。
(加藤清正って、歴史上だととっくに朝鮮に渡ってるはずじゃないっすか!? なんで地下ドックで中ボスやってるんっすか! しかも筋肉と筋肉の会話がIQ低すぎるっす!!)
清正の出現と同時に、ドックの四方に配置されていたメガバンクの重装狙撃部隊が一斉に姿を現した。
「政宗様。敵の狙撃手、三十。……甲板への道は、私が開きます」
静かに歩み出たのは、漆黒の短髪を濡らした『夜叉』――神堂宗次郎である。
カチャリ、と宗次郎の手に握られた特注の短筒が、冷たい音を立てた。
次の瞬間、宗次郎の姿がブレた。
「『夜叉の歩み』」
タァァンッ!! タァンッ!!
宗次郎は、遮蔽物のないタラップを滑るように駆け抜けながら、両腕を交差させ、見上げるような角度で短筒の引き金を連続で引いた。
「ぎゃあっ!?」
狙撃手たちが引き金を引くよりも早く、正確無比な銃弾が彼らの火縄銃の撃鉄を次々と粉砕していく。弾を撃ち尽くすと、宗次郎は空の銃を投げ捨て、懐から新たな短筒を流れるように引き抜き、跳躍。
空中で回転しながらの連射。防御の型と射撃の軌道を完璧に同調させた『銃闘術』の極致。
ほんの数十秒で、ドックの狙撃部隊は完全に沈黙した。
「宗次郎さんが道をこじ開けたぞ! 船の係留ロープを切断しろォッ!」
クリノジが、ディレクターズ・チェアを蹴り飛ばして叫ぶ。
彼はチタン合金製の『斬撃カチンコ』を構え、鋼鉄のワイヤーで編まれた極太の係留ロープへと飛びかかった。
「カァァァットォォォッ!!」
ギィィィィンッ!!
鋭い金属音と共に、船を固定していた太いワイヤーが火花を散らして切断される。
「計算通りです。機関部への侵入ルート、確保」
片倉小十郎がそろばんを弾きながら、船のコントロールルームへと向かう隔壁を、ROI散弾(そろばんの珠)で正確に破壊していく。
(もう何が何だか分からないっす……! ディレクターがワイヤーを斬り裂き、軍師がそろばんで隔壁を壊す……。このシリアスな空気の中で、やってる事の絵面がカオスすぎるっすよ!!)
タナカは己の毛皮を震わせながら、ただただ彼らの超人的(かつ意味不明)な戦闘力に戦慄するしかなかった。
「おのれ……! ネズミどもが、殿下の御船にィッ!!」
清正が怒り狂い、成実を強烈な蹴りで吹き飛ばして政宗へと突進する。
その巨大な片鎌槍が、政宗の首を刈り取ろうと空を切る!
「遅ぇな」
政宗は不敵に笑い、身を沈めて槍を紙一重でかわすと、両手のオートマチック・ハンドガンを清正の甲冑の隙間――両膝の関節へと突きつけた。
「『起業家連弾・投資回収』ッ!!」
ズドォォンッ!! ズドォォンッ!!
ゼロ距離からの強烈な銃撃。防弾仕様の甲冑ごと、清正の両膝が完全に砕かれた。
「ぐわぁぁぁッ……!!」
巨漢の猛将が、ついに鋼鉄の床に膝をつく。
「悪いが、俺たちは海外市場に用があるんでね。この黒船、伊達コーポレーションでM&A(買収)させてもらうぜ!」
政宗が二丁拳銃をクルリと回してホルスターに収める。
すでにカオス・パーティーと伊達家の面々は、黒船の甲板へと乗り込んでいた。
「出航だッ!! 動力炉、最大出力!!」
小十郎の号令と共に、巨大な外輪が重々しい音を立てて回転を始める。
ゴゴゴゴゴゴォォォッ……!!
「ま、待て……! 行くな、伊達政宗ェッ!!」
這いつくばりながら、清正が血を吐くように叫んだ。
「あの海を……玄界灘を甘く見るな! そして、太閤殿下の『怒り』を甘く見るな……! 貴様らは必ず、狂気に飲まれて海の底へ……!!」
清正の呪いのような警告を背に、巨大な黒船は地下ドックの水門をぶち破り、荒れ狂う外海へと躍り出た。
ドザァァァァァァッ!!!
窓を叩きつける冷たい暴風雨と、山のようにそびえ立つ漆黒の波。
狂王・秀吉の陰謀から逃れるため、そして伊達家を救うため。宗次郎たちの乗る鋼鉄の船は、死と隣り合わせの海路――玄界灘越えへと、ついにその舵を切ったのである。




