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第八十三話:関門海峡の死闘! 豪雨の砲撃と夜叉の銃闘術!

 ――本州の最西端、長門国・下関。

 九州へと続く関門海峡は、吹き荒れる暴風雨と、鉛色の荒波によって完全に閉ざされていた。

 伊達家の装甲馬車が海岸線に差し掛かったその時、暗雲を切り裂くような轟音が轟いた。

 ズドォォォォォォンッ!!!

 馬車のわずか数メートル先の地面が吹き飛び、巨大なクレーターが穿たれる。巻き上げられた泥と岩の破片が、バラバラと馬車の装甲を叩きつけた。

「敵襲ゥゥッ!! 前方の崖上、大砲(カルバリン砲)多数ッ!!」

 片倉小十郎が、揺れる馬車の中で絶叫する。

 崖の上に陣取っていたのは、西国を牛耳る『五大老』の一角、毛利家が誇る「鉄甲砲兵大隊」であった。重厚な鋼の鎧に身を包んだ砲兵たちが、次々と巨大な大砲の砲門を伊達家の馬車へと向けている。

「ヒィィッ!? た、大砲!? ガチの大砲っすか!?」

 馬車の隅で、カピバラ・タナカが短い両手で頭を抱えて震え上がっていた。

 (いやいやいやいや!! おかしいっすよ! ちょっと前まで、敵の武器は「電子レンジ」とか「シュレッダー」とかだったじゃないっすか! なんで急に本格的な戦争映画の火器になってるんっすか!? ご当地グルメの紹介コーナーはどこに消えたんっすか!!)

 タナカが心の中で必死に突っ込みを入れるが、現実は無情である。

 崖上の指揮官が、冷酷に剣を振り下ろした。

「狂える太閤殿下からの絶対命令である! 伊達のネズミどもを、塵一つ残さず木っ端微塵に吹き飛ばせェッ!!」

 ズドォォォォン!! ズドォォォォォンッ!!!

 十門の大砲が一斉に火を噴いた。漆黒の砲弾が、雨を切り裂いて馬車へと殺到する。

 直撃すれば、馬車ごと全滅は免れない。

「……政宗様、止まらずに進んでください。道は、私が開きます」

 馬車の屋根の上に、静かに立つ影があった。

 雨に濡れた漆黒の短髪。冷たく研ぎ澄まされた双眸。伊達家剣術指南役――『夜叉』に覚醒した神堂宗次郎である。

「頼んだぞ、宗次郎! 全速前進ッ!!」

 伊達成実が手綱を握り、馬車を限界まで加速させる。

 宗次郎は、迫り来る砲弾の雨を見据え、背中の布包みから絡繰大盾刀『玄武』を抜刀した。

「展開」

 ガキィィィィンッ!!!

 柄の隠しボタンが押し込まれ、分厚い刀身が巨大な扇状の大盾へと変形する。宗次郎は身を屈め、馬車の前面を覆い隠すように『玄武』を構えた。

 ガガァァァァンッ!! ゴォォォンッ!!!

 直撃した砲弾が、玄武の極厚の装甲に弾かれ、火花を散らして海へと落ちていく。宗次郎の足元の装甲がひしゃげるほどの衝撃。しかし、彼は一歩たりとも引かない。

「な、なんだあの盾は!? 砲弾を弾き返しただと!?」

 崖上の砲兵たちが驚愕に目を見張った瞬間。

「……夢想静水流・裏の型」

 宗次郎は玄武の盾を解除し、身を翻して崖の斜面へと跳躍した。

 風を切り、雨を蹴り、垂直に近い崖を人間離れした速度で駆け上がっていく。

「撃て! 撃ち落とせェッ!!」

 砲兵たちが慌てて火縄銃を構えるが、遅い。

「『夜叉の舞』」

 宗次郎の両手に、黒光りする特注の短筒が握られていた。

 ズダンッ! ズダンッ! ズダンッ!!

 空中で体を捻りながら放たれた弾丸が、砲兵たちの火縄銃の銃身を的確に撃ち砕いていく。

 着地と同時。宗次郎は敵陣のど真ん中へと滑り込んだ。

 右手の短筒で目前の敵の肩を撃ち抜き、左手の短筒の銃把グリップで背後の敵の顎をカチ割る。撃ち尽くした銃を空中に放り投げ、マントの下に隠し持っていた新たな短筒を瞬時に抜き放ち、さらに連射。

 それはまさに、死の舞踏。

 防御の剣術と、計算し尽くされた射撃を融合させた『銃闘術』の極致であった。

 (いや、だから!! いつからそんなジョン・ウー監督みたいなガンアクション習得したんっすか!! シャイニング・ウィザードはどうしたんっすか!? プロレスへの愛は嘘だったんっすかァァッ!?)

 タナカの心の叫びも虚しく、崖上の戦闘はわずか数分で終結した。

 五十名近い砲兵大隊が、一人も殺されることなく、全員が両手足を撃ち抜かれるか骨折させられ、戦闘不能となって泥の中に転がっていた。

 硝煙が雨に流されていく。

 宗次郎は、熱を持った短筒をゆっくりと懐に収め、崖下を走り抜ける伊達の馬車を見下ろした。

「……障害は排除しました。政宗様、海峡を越えましょう」

 氷のような声で呟き、宗次郎は崖を飛び降りて馬車の屋根へと舞い戻った。

 ◆◆◆

 馬車は砲撃の雨をくぐり抜け、ついに関門海峡を渡るための輸送船へと乗り込んだ。

「よくやった宗次郎! これでついに、九州上陸だ!」

 政宗が、濡れたレザージャケットを拭いながら豪快に笑う。

「しかし政宗様。我々が向かう『名護屋城』は、現在、豊臣メガバンクの最前線軍事基地。狂気に満ちた秀吉本人が陣頭指揮を執る、まさに魔宮です」

 小十郎が、そろばんを弾きながら険しい顔で告げた。

「この先陣部隊だけで乗り込めば、それこそ飛んで火に入る夏の虫。……何か、策はあるのですか?」

「策だと?」

 政宗は、眼帯の奥の瞳をギラリと光らせた。

「俺たちは奥州のベンチャー企業だぜ? 大企業のシステムに正面から突っ込むようなバカな真似はしねぇ。……裏口バックドアからハッキングして、内部から食い破ってやるのさ」

 政宗の視線の先。

 荒れ狂う玄界灘の向こうに、要塞化された巨大な城――名護屋城の禍々しいシルエットが、雷光と共に浮かび上がっていた。

 (……もう完全に、誰もギャグのノリに戻ろうとしないっす。このまま釜山まで、このシリアスな命の削り合いが続くっすか……?)

 タナカは震えながら、クリノジと前田○子の方を見た。二人もまた、緊迫した空気に飲まれ、ごくりと息を呑んでうつむいている。

 狂王・秀吉の待つ名護屋城。

 伊達家と宗次郎の、海を越えるための決死の作戦が、今まさに始まろうとしていた。

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