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第八十話:奥州ベンチャーの決断! 絶望の召集令状と悪臭の帰還!

 ――奥州・仙台。

 革新的なIT技術と筋肉で急成長を遂げたベンチャー企業、『伊達コーポレーション』の巨大な会議室は、かつてないほどの重苦しい静寂に包まれていた。

「……生存確率、並びに生還時の想定利益率(ROI)は……限りなくゼロ、いや、マイナスです」

 南蛮渡来の伊達メガネを押し上げながら、片倉小十郎がタブレット端末(木製そろばん)を弾く手を止めた。その声には、平時ではあり得ないほどの焦燥が滲んでいる。

「ふざけんな!! なんで俺たち伊達家が、豊臣メガバンクの海外進出プロジェクトの『先陣』を切らなきゃなんねぇんだよ!」

 伊達成実が、巨大なバーベルを床に叩きつけて吠えた。

「予算ゼロ、補給線サプライチェーンも未確定! こんなもん、プロジェクトに見せかけた『伊達家潰し(リストラ)』の罠じゃねぇか! いますぐ大坂の本社に殴り込んで、秀吉の首を大胸筋で挟んでへし折ってやる!!」

「……やめろ、成実」

 上座で目を閉じ、静かに腕を組んでいた男――伊達コーポレーションCEO、伊達政宗が、低く鋭い声で制した。

 黒いレザージャケットに、特注の眼帯。奥州を束ねる若きカリスマの顔には、隠しきれない疲労と苦悩が刻まれていた。

「俺たちが大坂に逆らえば、メガバンクの強大な資本力で奥州は焦土と化す。……それに、大坂城の地下深くには、俺のたった一人の妹、綺羅が『人質』として囚われたままだ」

 政宗が、机の上に投げ出された『黄金の召集令状』を睨みつける。

「秀吉の野郎……完全に狂っていやがる。天下を手に入れた途端、今度は海を渡って大陸プサンの市場まで独占しようというのか。しかも、その無謀な進軍の矢面に俺たちを立たせ、玄界灘の荒波と大陸の最前線で、伊達家を合法的に消し去る腹積もりだ」

 会議室に、絶望的な空気が満ちた。

 逆らえば、妹の命と奥州の未来が消える。

 従えば、異国の地で全滅の運命が待っている。

 八方塞がり。伊達家は、豊臣という巨大すぎる狂気の前に、完全に追い詰められていた。

 ――その時である。

 会議室の重厚な扉が、バーンッ! と勢いよく蹴り開けられた。

「お待たせいたしました、政宗様ァァァッ!!」

「な、なんだッ!? 敵の刺客か!?」

 成実が大太刀を構え、小十郎がそろばんを盾にする。

 しかし、そこに立っていたのは、刺客ではなかった。

「……むせ返るようなガーリックの匂い。鼻を刺す燻製の香ばしさ。そして、奥底から漂う味噌とたまり醤油と豚骨のハイブリッドな悪臭……!! ま、まさか……!」

 小十郎が、あまりの異臭に鼻をつまみながら驚愕する。

「お久しぶりです! 伊達家が誇る剣術指南役、神堂宗次郎……ただいま、過酷なグルメ旅(尺稼ぎ)から帰還いたしました!!」

 逆光を背に立っていたのは、スーパー戦国人参(膝まで届く黄金の長髪・眉毛なし)へと変貌を遂げた宗次郎と、エプロン姿のカピバラ(タナカ)、クリノジ、前田○子のカオス・パーティーの面々だった!

「そ、宗次郎……なのか?」

 政宗が、変わり果てた(そして臭すぎる)かつての部下の姿に、思わず後ずさりする。

「お前、なんだその髪の毛は! しかも、なぜそんなに食欲をそそる……いや、暴力的な匂いを放っているんだ!」

「キュルルッ! 色々あって、全国のB級グルメの業をすべて髪の毛に背負い込んだっす! カピバラのタナカっす!」

「絶対的センターの前田○子です! 伊達家のピンチと聞いて、ライブをすっぽかして駆けつけました!」

 宗次郎は、悪臭を放ちながらも、政宗の前に静かに膝をついた。

「政宗様。すべて聞いております。豊臣の狂気……そして、海外への死の行軍。私としたことが、イタリアでパスタを茹で、四国で石段を登っている間に、事態がここまで悪化していたとは……指南役として、一生の不覚!」

 宗次郎が、床に額をこすりつける。

「……宗次郎。お前、その姿で戦えるのか? 愛刀の『玄武』はどうした?」

 政宗が問う。

「……質屋です」

「質屋!?」

「はい。しかし、安心してください。剣を失い、痔を患い、髪が伸び、悪臭を放つようになった代わりに……私は『プロレス技』という、最強の肉弾戦の極意を手に入れました!」

 宗次郎はバッ! と立ち上がり、自信に満ちた(眉毛のない)顔で政宗を見据えた。

「我々カオス・パーティーが、伊達家の『先陣の、さらに先陣』を務めます! 九州の名護屋城を経由し、釜山プサンの地へ上陸するまで……豊臣が差し向けるいかなる刺客も、私がこのシャイニング・ウィザードで粉砕してみせましょう!」

 その言葉には、かつて「夜叉」と呼ばれた頃のシリアスな決意と、数々のワンパターングルメ対決を乗り越えてきた謎の説得力が宿っていた。

 政宗の口角が、ニヤリと吊り上がった。

「……フッ。ハハハッ! 相変わらず、お前という奴は規格外のバグ野郎だぜ!」

 政宗は立ち上がり、レザージャケットを翻した。

「いいだろう! 予算ゼロ、補給ゼロの死の行軍! だが、伊達の意地と、この悪臭放つ最強の護衛がいれば、メガバンクの罠など食い破れる気がしてきたぜ!」

「政宗様! データによれば、この悪臭が敵の戦意を削ぐデバフ効果を生む確率は89%です!」

 小十郎がそろばんを弾き直す。

「うおおおッ! 筋肉とプロレスのコラボレーションだ! 行くぞぉぉッ!」

 成実が雄叫びを上げる。

 絶望に包まれていた伊達コーポレーションの会議室に、再びベンチャー企業としての熱き炎が灯った。

「目指すは前線基地・九州名護屋城! そしてその先、荒れ狂う海を越え、決死の釜山プサン上陸作戦だ!」

 政宗が、天高く拳を突き上げる。

「我ら伊達家とカオス・パーティーの、命を懸けたドサ回り! 豊臣の狂気になど、屈してなるものかァァッ!!」

「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!!」」」」」

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