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第七十九話:漆黒のモノリスと三足のわらじ! 狂気の太閤と海を渡る謀略!

 ――宇宙空間を漂う、漆黒の空間。

 そこには円卓を囲むように、巨大な黒い石版モノリスが4基、静かに浮かんでいた。石版にはそれぞれ『SOUND ONLY』という赤い文字だけが、不気味に明滅している。

『……事態は深刻です』

 モノリス02(クリノジの声)が、重々しく口を開いた。

『我々の創造主(作者)が、現在3つの作品を同時進行で執筆しています。新しく始めた「密室考察系小説」、本気で取り組んでいる連載『バグ俺』……そして、我々のこの作品です』

『な、なんだと……!?』

 モノリス01(宗次郎の声)が戦慄する。

『三足のわらじだと!? 聖徳太子でも過労死するレベルではないか!』

『しかも、本気連載の『バグ俺』の執筆が行き詰まっているストレスから……この、ご当地グルメを食べてプロレス技で締めるだけのワンパターンな本作を、「もう面倒くさいから打ち切ろう」と考え始めているという極秘データが送られてきました』

『キュルルッ! 冗談じゃないっす! まだ日本全国の美味いものを半分も料理してないっすよ!』

 モノリス03(タナカの声)が激しく抗議する。

『センターの私が卒業コンサートもせずにフェードアウトなんて、アイドル史上最大の不祥事だよ! 何か、強烈なテコ入れ企画を出さなきゃ!』

 モノリス04(前田○子の声)が叫ぶ。

『……では、私が』

 宗次郎(01)が重々しく提案する。

『敵の支店長全員を一直線に並ばせ、私が10時間連続で「閃光・黄金魔術シャイニング・ウィザード」を決め続けるというのはどうでしょう。ギネス記録に挑戦です』

『キュルルッ! なら俺は、木星のガスを全部使って、太陽系サイズの超巨大たこ焼きを焼くっす! 宇宙規模のワンパターンっす!』

『私はブラックホールで握手会! 吸い込まれるファンとの永遠の絆!』

『……全部即座にボツです。そんな脳筋ギャグのインフレでは、作者の知的な執筆脳を引き留めることはできません。もっとこう、斬新な……! 斬新なアプローチは……!』

 クリノジ(02)が必死に思考を巡らせる。

 しかし、ご当地グルメを食べてプロレス技をかけることしかしてこなかった彼らの脳味噌から、都合よく画期的なアイデアなど出るはずもなかった。

『……』

『……』

『……で、どうしますか?』宗次郎が恐る恐る尋ねる。

『……何も思いつきません。とりあえず、なるようになるのを待ちましょう。本日の会議は終了です。解散!』

 カチッ。

 漆黒の空間から、四つのモノリスの通信が、何の結論も出ないまま無情にも切断された。打ち切りの危機は、完全に放置されたのである。

 ◆◆◆

 一方、その頃。

 大坂城、豊臣メガバンク本社ビル。

 薄暗いCEOオフィスで、豊臣秀吉は黄金のデスクに突っ伏すようにして、一枚の古い「極東アジアの地図」を指先でなぞっていた。

「……海を渡る。そうだ、唐天竺からてんじくまで、我が豊臣の金庫メガバンクにするのだ。手始めに、あの生意気な伊達の小倅どもを先陣に送れ。玄界灘の荒波で、資金も兵糧もすべて海の藻屑にしてくれるわ……ヒッヒッヒ」

 その笑い声は、どこか虚ろで、焦点が定まっていなかった。

「ひでちゃん……。そんな暗い顔をして、どうしたの?」

 背後から、淀殿(元カトリーヌ)が不安そうに声をかけた。最近の秀吉は、明らかに様子がおかしい。夜も眠らず、ブツブツと独り言を繰り返すことが増えていた。

「おお、茶々か。ちょうどいいところに来た。……おい、三成を呼べ。小田原の北条攻めの軍議をせねばならん。信長様はまだ到着されぬのか?」

 秀吉の言葉に、淀殿の背筋がスッと冷たくなった。

「ひ、ひでちゃん……? 何を言っているの? 北条はとうの昔に買収したわ。それに、織田信長様は……何十年も前に、本能寺で亡くなっているじゃない」

「……あ?」

 秀吉は、首をギギギと奇妙な角度で曲げて淀殿を見た。その瞳には、知性溢れる天下人の光はなく、まるで濁った泥水のようにドロドロとしていた。

「信長様が……死んだ……? 誰が殺した!? 光秀か!? おのれ、ハゲネズミめぇ!!」

 ガシャァァァッ!!

 秀吉は突然激昂し、デスクの上の純金のパソコンやグラスを床に叩き落とした。

「ひ、ひでちゃん! 落ち着いて!」

「うるさいッ!! ワシの黄金の茶碗はどこだ!? 誰かが盗んだ! お前か!? お前がワシの金を盗んだのか、ねねッ!!」

 秀吉は淀殿の肩を強く掴み、ギリギリと締め上げた。

「痛いっ……! 違うわ、私はねねじゃない! 茶々よ!!」

 淀殿が悲鳴を上げると、秀吉はハッとして手を離し、自分の両手を見つめてガタガタと震え出した。

「……茶々……? ああ、そうか、茶々か。……すまん。最近、頭の中に霧がかかったように……ワシは、何を怒っていたんだったか……?」

 秀吉は力なく椅子に座り込み、今度は子供のようにポロポロと涙を流し始めた。

「ワシの城が……ワシの集めた黄金が、全部砂になってこぼれていく……。怖い……怖いよ、ねね……」

 その姿は、冷徹なメガバンクCEOでも、カリスマ溢れる天下人でもなかった。

 自らが築き上げた巨大な権力と重圧に精神を蝕まれ、記憶と時間を少しずつ失いながら、狂気の深淵へと沈んでいく哀れな老人の姿だった。

(ひでちゃん……あなたの心は、もう……)

 淀殿は、震える秀吉を背後から抱きしめながら、絶望的な恐怖と悲しみに唇を噛み締めた。

 天下人・豊臣秀吉の精神の崩壊。

 その狂気が引き金となって発令された「海外進出(朝鮮出兵)」という無謀極まりないプロジェクトと、それに乗じた「伊達家完全粉砕」の陰謀。

 漆黒の会議室で何の結論も出せなかったカオス・パーティーの面々は、この後、己の主君である伊達政宗の絶体絶命の危機を知り、釜山プサン上陸への過酷な護衛任務へと、強制的に巻き込まれていくことになるのである。

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