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第七十六話:摩天楼の共犯者。終わらない狂騒と、愛の結末(恋愛ドラマ編・完結)

【嘘の前回のあらすじ】(※本編とは一切関係ありません)

 雨の川崎球場。リングのロープはすべて外され、5万ボルトの電流が流れる有刺鉄線が張り巡らされていた。

 『ノーロープ有刺鉄線・電流爆破デスマッチ』。挑戦者・淀殿(元カトリーヌ)は、南蛮渡来の高級化粧品を仕込んだ特製・爆破バットをフルスイング! ねねのボディに被弾し、夜空に鼓膜を破るような大爆発音が鳴り響く!

 黒焦げになりながらも、絶対王者・ねねの瞳の光は消えていなかった。「私の塩結びの硬さを舐めるな!」と絶叫し、渾身の有刺鉄線ラリアットが淀殿の首元に炸裂! 淀殿は有刺鉄線網へと吹き飛び、二度目の大爆発と共に夜空に散った。

 完全に灰となった淀殿からスリーカウントを奪ったねね。担架で運ばれる淀殿は、黒焦げの顔で「次は……ノーザンライト・ボムで……」と呟き、女たちの血で血を洗う抗争は、ついに次なる次元(宇宙)へと向かうのであった――(嘘)。


 無数のフラッシュが、まるで白昼のように大広間を照らし出していた。

 豊臣メガバンク本社ビルで開催された、年に一度の盛大なレセプション・パーティー。日本中の財界人、政治家、そしてメディアのカメラが、正面の巨大な金屏風の前に立つ一人の男に向けられている。

「我が豊臣メガバンクは、本日をもって日本経済の完全なる掌握(天下統一)の最終フェーズへと移行する。残る抵抗勢力も、我が絶大な資本力の前にひれ伏すことになるだろう!」

 マイクを握る豊臣秀吉の声には、一点の曇りもなかった。

 ねねの膝で涙を流した孤独な少年の面影は微塵もなく、そこには圧倒的なカリスマで世界を牽引する「絶対的CEO」の姿だけがあった。

 その隣で、彼に優雅に腕を絡ませているのは、目も眩むような真紅のドレスに身を包んだ淀殿である。

(……ええ、そうよ。これが、私の愛した『ひでちゃん』)

 淀殿は、フラッシュの瞬きの中で、誇らしく胸を張って微笑んでいた。

 彼女はもう、迷っていなかった。

 あの薄汚れた「お守り」の持ち主である、正室のねね。

 彼が本当に安らげる場所は、あそこなのだと思い知った時は、嫉妬と絶望で胸が狂いそうになった。

 しかし、淀殿は悟ったのだ。

 彼は、その「安らぎ」を自ら切り捨て、この冷たくて眩しい摩天楼の頂点を選んだのだと。

 ならば、自分は彼に「安らぎ」など与えない。誰よりも美しいドレスを着て、誰よりも甘い香水をつけて、果てしない欲望で彼の背中を蹴り飛ばし続ける。

 彼が立ち止まって過去を振り返りそうになったら、私がその手を引いて、さらに恐ろしい野望の果てへと引きずり込んでやる。

(私が、あなたを絶対に休ませない。天下人の隣に立つ『共犯者あくま』として、共にこの狂騒の中で焼け焦げてあげるわ)

 それは、ねねの「無償の愛」とは対極にある、強欲で、歪で、しかし間違いなく本物の「愛」の形だった。

「さあ、茶々。笑え。今夜の主役はお前だ」

 秀吉が、カメラの前で淀殿の腰を強く抱き寄せた。

「ええ、ひでちゃん。私たちは誰よりも輝いているわ」

 淀殿は、秀吉の首に腕を回し、世界中のカメラのフラッシュを独占するかのように、最も美しく傲慢な笑みを浮かべた。

 二人の瞳の奥には、頂点に立つ者同士にしか分からない、孤独と共犯関係の炎がギラギラと燃え盛っていた。

 ◆◆◆

 同じ頃。

 大坂の喧騒から離れた、閑静な日本家屋。

 ねねは、居間の小さなブラウン管テレビに映る、華やかなレセプションの様子を静かに見つめていた。

 画面の中の秀吉は、堂々と胸を張り、隣の淀殿と共に天下の頂点で光り輝いている。

「……ふふ。立派になりましたね、藤吉郎。あの頃の、泥だらけの笑顔も好きだったけれど、今のあなたも……とても素敵ですよ」

 ねねは、湯飲みのほうじ茶をゆっくりとすすると、テレビの電源をパチンと消した。

 薄暗くなった部屋には、初夏の虫の音だけが優しく響いている。

 ねねは、縁側へと歩み寄り、月明かりに照らされた紫陽花を見つめながら、穏やかな瞳で静かに微笑んだ。

 彼女の心に、後悔は微塵もなかった。

 愛する男の夢を支え切り、彼を空の頂点へと送り出した。その事実は、この静寂の庭で、彼女の胸を永遠に温め続けるだろう。

 光と闇。喧騒と静寂。

 大坂の空の下、天下人の心を巡る三人の愛の物語は、それぞれの居場所を見つけ、ここで一つの終わりを迎えたのだった。

 ――恋愛ドラマ編・完結――

 ◆◆◆

「うわああああぁぁぁぁッ!! ねね様ぁぁぁッ!! 切なすぎるけど美しすぎるぅぅッ!!」

 宇宙船『源内アパッチ』の艦内。

 送られてきた台本(第七十六話)を読み終えたクリノジが、滝のような涙を流して号泣していた。

「キュルルッ……! なんなんっすか、この完成された大人のメロドラマは!! 完全に直木賞狙いに来てる筆致じゃないっすか! 俺たち、4話連続で完全に存在を消されてたっすよ!」

 カピバラ・タナカが短い手足で台本を叩く。

「淀殿……カトリーヌさんに、こんな深い覚悟と愛情があったなんて……! アイドルとして、女として、勉強になりますッ!」

 前田○子もハンカチで目頭を押さえている。

「……本当に素晴らしい物語でした。私のボロボロの肛門も、この美しい愛の結末に涙しています」

 スーパー戦国人参(膝まで届く黄金の長髪・毛先は味噌と醤油の匂い)の宗次郎が、深く頷いた。

「よしっ! 作者の息抜き(ガチの恋愛執筆)も終わったことですし! 次回からはいよいよ、この感動の大坂城へ向けて、俺たちも旅を再開……」

「いえ、クリノジ。忘れてはいけません」

 宗次郎が、ドーナツクッションを抱え直しながら真顔で言った。

「大坂城に到着するのは『第97話』という絶対神(作者)との約束。我々は次回からまた、何事もなかったかのように、プロレス技とご当地グルメで尺を稼ぎ続ける元のワンパターンに戻るのです」

「嫌だぁぁぁッ!! この美しい余韻のまま大坂城に突入させてくれぇぇぇッ!!」

 艦内に、クリノジの絶望の叫びが響き渡った。

 感動の恋愛ドラマを(勝手に)見届けたカオス・パーティー。彼らの残された20話分の過酷な「尺稼ぎ」が、次回から再び幕を開けるのである!!

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