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第四十五話:なんちゅうもんを! 涙の審査と、嵐の前のプロポーズ!?

 ――『東西大厨房』の審査員席。

 中央に座るのは、日本美術界の重鎮であり、希代の美食家として知られる『至極しごく 万太郎』である。

「まずは、海原大山氏の『至高のメニュー』……幻の皇帝伊勢海老の石焼きから頂こう」

 至極が、立ち昇る香草の煙ごと、赤々と焼け焦げたエビの身を口に運ぶ。

 その瞬間、至極の目から滝のように涙が溢れ出した。

「な、なんちゅうもんを食わせてくれたんや……なんちゅうもんを!!」

 至極は机をバンバンと叩きながら号泣した。

「これまで私が食してきたエビは、ただの消しゴムに過ぎなかった! 灼熱の石がエビの水分を極限まで閉じ込め、噛んだ瞬間に弾け飛ぶようなプリプリの食感! そして香草が海原の凄まじい執念を体現している! これぞまさに至高ッ!」

 他の審査員たちも、あまりの美味さに次々と白目を剥いて卒倒していく。

「フハハハハッ! 当然だ! 我が海原の血の神髄、とくと味わうがいい!」

 海原大山が扇子を広げ、勝ち誇ったように笑う。

「タ、タナカさん……相手の評価、満点みたいよ……」

 クリ子が不安げにタナカの袖を掴む。

「……慌てることはないっす。俺たちのカニは、ここからが本番っすよ」

 タナカは全く動じず、自らの『究極のメニュー』……黄金カニしゃぶを至極の前に差し出した。

「ふむ……タナカくんの『究極のカニ』か。頂こう」

 至極が、透き通るようなカニの身を、特製の黄金出汁にサッとくぐらせて口に入れる。

 ――ピタッ。

 至極の動きが止まった。そして、静かに天を仰いだ。

「……あぁ、見える。荒れ狂う冬の日本海が。しかし、その冷たい波の下には、こんなにも優しく、温かい甘味が眠っていたとは……!」

 至極は震える声で語り始めた。

「海原氏のエビが『剛』ならば、タナカくんのカニは『柔』! 舌の上で淡雪のように溶ける繊細な身! そして、この出汁! カニの殻を徹底的に焼き上げ、日本海のミネラルウォーターで抽出したこの黄金の液体が、カニの旨味を何百倍にも増幅させている! これぞ究極の優しさッ!」

 会場が割れんばかりの拍手に包まれる。

「なっ……馬鹿な! この海原大山が、あんな落ちこぼれの血筋に並ばれただと!?」

 海原の顔から余裕が消え、ギリッと歯を食いしばる。

 審査は完全に互角。

 至極ら審査員たちは頭を抱え、最終的な判断を下すための「十分間の休憩」を宣言した。

 ◆◆◆

 控え室の裏の、人気のない廊下。

「タナカさん、すごかったわ! 海原先生と互角に渡り合うなんて!」

 クリ子が、興奮冷めやらぬ様子でタナカを見つめる。

「……クリ子」

 タナカが、真剣な眼差しでクリ子の肩に両手を置いた。

「タ、タナカさん……?」

 クリ子の心臓が、早鐘のように打ち始める。

「俺が今日ここまで来れたのは、お前が一緒に冷たい日本海で震えながら、最高のカニを探してくれたおかげっす」

「そんな……私なんて、ただついて行っただけで……」

「クリ子」

 タナカの顔が、ゆっくりと近づいてくる。

「この勝負が終わって……俺が究極のメニューを完成させたら……」

 タナカはクリ子の耳元で、甘く、そして力強く囁いた。

「俺の毎日の味噌汁に、究極のカニで出汁を取ってくれないっすか?」

 ドッッッッッカーーーン!!!(クリ子の胸の内で爆発する恋のビッグバン)

「タナカさんっ……はいっ!! 喜んで……!!」

 クリ子の目から、嬉し涙が溢れ出す。二人のシルエットが、夕日に照らされて一つに重なろうとしていた。

 最高の料理、そして最高の伴侶。タナカの人生は今、絶頂を迎えようとしていた。

 だが、二人はまだ知らない。

 休憩明けの最終審査で、海原大山が恐るべき「真の至高の隠し味」を放つことを。

 果たして、究極と至高、勝利の女神はどちらに微笑むのか。運命の最終審査が、今、幕を開けようとしていた――。

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