第四十六話:究極の崩壊! 愛と至高を吹き飛ばす業火のミサイル!
――十分間の休憩が終わり、『東西大厨房』の熱気は最高潮に達していた。
「さあ、最終審査を始めよう」
審査委員長である至極万太郎が、厳かな声で宣言する。
「待てッ!!」
海原大山が、高らかに声を上げた。
「我が『至高のメニュー』は、まだ完成しておらん!!」
海原は懐から、神々しい光を放つ小さな壺を取り出した。
「これぞ我が海原家の秘伝……『幻の深海キャビアと黄金トリュフの熟成発酵ソース』! これを先ほどの伊勢海老に一滴垂らすことで、真の至高が完成するのだ!!」
海原がソースを一滴、エビの身に落とした瞬間――会場中に、脳の髄まで溶けるような芳醇な香りが爆発的に広がった。
至極が震える手でそれを口に運ぶ。
……ドサッ。
至極は白目を剥き、椅子から崩れ落ちて床に突っ伏した。
「ああっ……! う、美味すぎる……!!」
至極は床を這いずりながら、海原大山の足元にすがりついた。
「なんという深み! なんという完璧な調和! タナカくんのカニも素晴らしかったが、このソースの前ではただの茹でた虫に過ぎない!! 海原大山先生、あなたは食の神だぁぁぁッ!!」
他の審査員たちも次々と泣き叫びながら海原を称賛し始めた。
「至高だ!」「究極なんて最初からなかったんや!」「海原バンザイ!!」
会場全体が、海原大山への狂信的な賛美で包まれる。
「フハハハハハッ!! 見たか、タナカの小僧! これが血の差、歴史の差だ! 貴様のような下賤な舌で作ったカニなど、豚の餌にでもするがいい!!」
海原の嘲笑が響き渡る中、タナカは無言で俯いていた。
その額には、かつてないほど太い青筋がビキビキと浮かび上がっている。
「タ、タナカさん……」
クリ子が心配そうに駆け寄り、タナカの背中に手を添えた。
「負けちゃったけど、私にとってはタナカさんのカニが世界一美味しかったわ。さっきの味噌汁の約束……忘れてないよね?」
クリ子が乙女の顔で微笑みかける。
しかし――タナカはゆっくりと顔を上げ、底冷えするような声で呟いた。
「……クリ子。さっきのプロポーズ、やっぱりナシっす」
「えっ……?」
「俺の料理を豚の餌呼ばわりしたあのジジイ……絶対に許さないっす。料理の恨みは、料理で返す……いや、火力で返すっすよ!!」
タナカは胸ポケットからトランシーバーを取り出し、狂気に満ちた目で叫んだ。
「カトリーヌ! 上空待機してる『源内アパッチ』のコントロールをこっちによこすっす! 照準、美食倶楽部・海原大山!!」
直後、会場の天井のガラスがけたたましい音を立てて粉砕された。
バタバタバタバタッ!!
凄まじいローター音と共に、木造りの絡繰戦闘ヘリ『亜発知アパッチ』が厨房上空に降臨した。
「な、なんだあのカオスな乗り物は!?」
海原大山が驚愕して天を仰ぐ。
タナカは驚くクリ子を突き飛ばすと、驚異的なジャンプ力でアパッチの操縦席へと飛び乗った。
「味わうっすよ、ジジイ! これがタナカ流……『究極のメニュー(ミサイル)』っす!!」
タナカが赤い発射ボタンを力いっぱい叩き潰す。
シュゴォォォォォォォォォッ!!!
アパッチの両翼から、平賀源内特製の超高性能絡繰ミサイルが雨あられと発射された。
「女将を呼べェェェェェェェッ!!!」
ズドゴォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
海原大山の断末魔と共に、巨大な料理対決会場が、至極万太郎も、至高のエビも、究極のカニもろとも、業火の連鎖爆発に包まれた。
跡形もなく吹き飛ぶ会場。立ち昇る巨大なキノコ雲。
――数分後。
焦げ臭い黒煙が立ち込める瓦礫の山の中で、顔中煤だらけになった栗田クリ子が、チリチリに焦げたアフロヘアでポツンと座り込んでいた。
「ゴホッ、ゴホッ……な、なんなのよアイツ……。料理対決にミサイル撃ち込むなんて、人間のクズじゃない……」
パラッ……。
クリ子の頭に、黒焦げになったズワイガニの脚が虚しく落ちてきた。
タナカへの熱い恋心は、ミサイルの爆風と共に、木っ端微塵に消え去っていた。
「……見つけたっす」
瓦礫をかき分け、タナカが煤まみれのエプロン姿で歩いてくる。その手には、海原大山が座っていた玉座の跡地から転がり出た、黄金に輝く鍵が握られていた。
「なぜかジジイが持っていた『大阪城バリア解除キー・帝都版』……これで一つクリアっすね。でも、バリア解除にはまだまだ全国の鍵が必要みたいっす」
タナカは泣き崩れるクリ子を一瞥もせず、意気揚々とアパッチの縄梯子に掴まった。
料理の道も、純愛も、倫理観もすべてを破壊し尽くした、史上最低の「究極対至高」対決。
帝都を焼け野原にしたカオス・パーティーの果てしなきグルメとプロレスの旅は、何事もなかったかのようにまだまだ続くのである!!




