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第152話 モーディーさん

「落ち着いてください。盗まれたものがないか、確認した方がいいですよ」

 シメオンに阻止されて犯人を殴れなかった私を、モーディーが宥める。

 確かにそうだ、貴重品は持って避難したとはいえ、まだ部屋にものが残っていた。なくなっていないか、確認する必要があるわね。

 犯人が捕まる際に、地面に盗品を落とした。その中に私のものはなかったが、油断できない。

 落ちていたのは財布らしきもの、指輪やネックレスなどのアクセサリーなど。値段の高なものを選んで盗んでいる。それらは誰かが集めて、駆けつけた兵士に渡していた。

 ちなみに焚き火は煙を出して火事と勘違いさせるために犯人がおこして、家人が家から出るのを待って盗みを働いていた。宿の二階をあさっていてロノウェに気づかれて逃走、外に出たところであえなくご用となったわけだ。


 犯人は兵に引き渡され、火事だと思って外に出ていた人たちはそれぞれの家に戻った。これから余罪の追及と、返せるものは持ち主を探して返却だな。

 私は部屋が出た時と同じ状態なのを確かめて、何かなくなっていないか確認した。特に問題はないので、朝までもう一寝入り。

「……姉さん、よく普通に寝られますね」

「早く寝ないと夜が明けちゃうじゃないのよ。ラウラも休んでおきなさいよ」

「眠れませんよ……!」

 ラウラは繊細だなあ。私はそのまま眠ったけれど、朝はすぐにやってきた。ラウラはほぼ起きていたみたい。朝の光の中で、眠そうにあくびをしている。私は鼻がむずむずしてくしゃみが出そうよ。


 朝食を食べ、目的地に向けて出発する。村は深夜の逮捕劇の話で持ちきりだった。

 盗まれたものは持ち主の元へ無事に返され、犯人は他の村でも同様の手口で盗みを働いたと自供。私たちは何も盗まれずに済んだので、関係ない。

「ロノウェ様、逮捕に協力したお礼が出ていますよ」

 代表で目撃証言をしたモーディーが、ロノウェに金貨を渡した。謝礼がもらえるのか……! うわあ、手伝えば良かったわ……!

「私の為だったんだけど、臨時収入は嬉しいね」

「私の分は?」

「君は貢献してないんだから、ないに決まってるよ」

 ……くっ、シメオンなら分けてくれるのに。ガッカリだよ。


 馬車の車輪は規則的に回り、馬が小気味いい蹄の音を響かせる。たまにすれ違う人や馬車がいて、行程は平和にこなせた。

「なんかこう……問題がないのが一番なんだろうけど、飽きるわね」

 窓の外は遠くまで見通せるなだらかな道が続き、北側の川に沿って進んでいる。狭い木の橋がかかっていて、川辺では釣りをする人もいた。

「姉さんは活発ですから、じっとしていられませんものね」

「ヒマなら馬車の外を走ったらどうだ」

 シメオンの提案がひどい。せっかく馬車を使わせてもらえるのに、走ったりしたらもったいないではないか。


「はー、大きめの町とかない? そろそろ商売をしたいわね。せっかく商品を持ってきたし、新しく仕入れられたし」

 買って売るのが商売である。基本の原則に立ち返りたい。

「町でしたら、もう一日くらい進んだ先に西部最大の町があります。川に大きな橋が架かっていて、北の大国との行き来でみんなが町を通るんです。確か

行商人が広場でものを売っていたので、販売もできますよ」

「いいわね、寄りましょう!」

 多くの商人や旅人が立ち寄る町。いいねいいね、色々な人の目に留まれば、その分売れるチャンスがあるわ。

「皆様もそれでいいですか?」

 モーディーが尋ねると、三人は頷いた。嫌なわけがない、他国の人間が多ければ脳筋以外とも会えるぞ。


 その日はザ・田舎な村の宿に泊まり、名物イノシシ鍋を堪能した。

 宿の子にせがまれて、モーディーが弓を教えていたよ。使ってるのを初めて見たけど、全然外さない。さすが手先が器用な大家さんの娘だけある。

 移動中はちょっと魔物が出たものの、護衛が難なく倒した。

 道は川に沿うように伸びていて、巨大魚が川で跳び跳ねてるのを眺め、村でもらった手作りお菓子を食べながら、順調に旅が続く。

 緩い坂を上ると景色が広がった。遠くの空に雲が棚引き、太陽を半分隠している。川のずっと向こうに大きな橋が架かっていた。


「あの橋を渡った先が、本日泊まる予定の町です」

 近付くほどに、馬車や人が橋を渡る姿がだんだんと大きくなる。多くの馬車が、連なって南へ向かっている。

「みんなあっちへ行くけど、有名なものでもあるのかしら」

「あちらには鉱山と、武器や防具の工房が多く軒を連ねる町がありますよ。隣国からの買い付けとか、個人でオーダーメードに来たりとかして、いつも賑わっています」

 なるほど、さすが脳筋帝国。武術大会も開催されるのだ、武器の需要は多そう。

「へえ、私はあっちが気になるな。君たちは販売をするんじゃ、二泊はするよね? 明日の夜にでも合流するよ、目印にするからこれを預かっておいて」


 ロノウェは黒い輪郭の楕円模様がいくつも重なった、灰色っぽい石を渡した。あまり高価そうではないが、魔力がたちのぼっている。

「頼むね」

「ああ」

 受け取ろうとした私ではなく、シメオンに渡された。

「私が預かりますよ」

「君は返さないでしょう!」

 バレたか。さすが悪魔、鋭いな。

 馬車は橋に続く道で止まり、ロノウェはここで降りる。川の両側には田んぼが広がり、遠くまで見通せる。木の向こうに家が立っているよ。あそこが今日泊まる町だな。


「お気をつけて。敵を殴りやすいフライパンや、振り回すのにちょうどいい火かき棒なんかの日用品も売っていますよ」

「日用品に攻撃性を求めているの?」

 モーディーにツッコミを入れて、ロノウェの背中は遠ざかる。歩いて行くグループもあるから、きっと町まで遠くないんだろう。

 橋を渡って田んぼを越えると、ついに町に来た。馬車や人が行き交っていて、繁華街にはお店がたくさん並んでいる。

 宿は一足先に町へ行った人が確保してくれている。

 今日のお宿はなかなか大きく、一人一部屋を確保してくれていた。しかし行き違いでロノウェがいないので、一部屋空いてしまった。先回って確保したのが裏目に出たか。


「夕食と朝食は併設されているレストランで、好きな時間に好きな料理を頼んでください。部屋番号を伝えるだけで、お金は持っていく必要はありません。広場での販売許可も取ってあります、明日は広場で商品を売っていただけますよ」

 さすがモーディー、天下のレンフィールド侯爵家の従者だ。至れり尽くせりよ。

 ラウラとレストランでご飯を食べ、早く寝て次の日に備えた。

 朝食後、モーディーに案内されて広場に行くと、朝から出店がたくさん並んでいるではないか。出遅れた私は端っこの余った場所しかなかった。早い者勝ちか……!

 とりあえず出店していい区画に敷物を敷き、販売許可の札を見えるように飾って商品を並べる。周囲を見回しながら歩いているのは、きっとスタッフか何かね。お隣は食べものを売る人で、反対側は空いたまま。空いててもはみ出してはいけないらしい。


 早い人は朝食のスープやパンの販売を開始しており、お客が買っている。しかし目当てのご飯を買うと、他は見ずに去る人ばかりだ。まだ買いものする時間じゃないのだな。

「はあ……、ラウラのクッキーがあったらなあ」

「姉さん、ここは怪我を根性で治すゲルズ帝国ですよ。聖女のクッキーなんて銘打っても、響かないんじゃないですか」

 それもそうかも。広場の中央付近では催しものをやっているようで、人が集まっている。どうせまだお客は来ないだろうし、準備を終えた私もラウラに留守番を任せ、人混みに紛れた。

 壁際に的が用意されていて、どうやら的に矢を当てると景品がもらえるようだ。距離はそこそこある。


「ふう、あと一本か。お前はかすっただけかよ」

「うるさいな、調子が悪かったんだよ」

 競い合っているのかな、多く当てた男性が後から挑戦した相手に絡んでいるよ。 三回挑戦して、全部を丸い的の黒い枠内に収めれば成功らしい。なのでどちらも失敗である。

 的中部分はなかなか小さい。

 数人がチャレンジするのを眺めたが、誰も成功していない。

「景品って何が出るんだろ、知ってる?」

「さあ……? 大したものじゃないと思いますが、気になるならもらってみますね」

「もらうって確定?」

 モーディーは自信満々な言葉を残して、的当てに挑戦した。


 狙いを定めるというほどのタメもなく、さささっと三本続けて射ると、全部が黒枠内に刺さった。これには拍手喝采だ。

「すごいじゃん!!!」

「ええ……? 私はむしろ、遠くもなく動いてもいない的で、どうやって外すのかの方が疑問です」

 どうやってもなにも、本日初成功だよ、モーディーってば。

 二本が黒枠に入るか入らないかで威張っていた男性が、意気消沈している。自慢できないわな。

 そういえばモーディーは弓で四武仙に挑戦して、本戦まで残る実力者ではないか。この程度は楽勝なんだ! もっとこういうのないかなあ、どんどん景品を手に入れたい。


 ちなみに景品は煎った大豆と、筋トレ用の小さい一キロダンベル二個だった。両手に持って走り込みをすると、説明されたよ。

 脳筋帝国め、もっといいものを用意しなさい……!!!

お待たせしました、体調を崩したり文フリに参加したり、バタバタしてました。

ぼちぼちペースを戻していきたいです、よろしくお願いします。

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