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第153話 トラブル発生

 景品としてもらった、煎った大豆を食べる。ほんのり甘くて大豆の味が凝縮されており、なかなかおいしい。口一杯に頬張ると、リスになった気分がする。

 小さいダンベルは商品として売るか。筋肉村でも見かけたぞ、筋肉好きのマストアイテムか?

 他には腕相撲大会が開かれているくらいで、特に気になる催しはなかった。

 シメオンって真祖の吸血鬼だし、腕相撲も強いのかな。まだ宿から出てこないけど、合流したら参加してもらおうかなあ。挑戦を受けるのは、なかなかの筋肉の持ち主だ。護衛の連中は自信がないそうだ。


 販売スペースに戻ると、数人が広げた商品の前にいる。留守番のラウラが絡まれて、護衛が対応しているのだ。

「新入りは俺たちに挨拶に来るモンなんだよ!」

「こちらは正規の料金を支払って、場所を借りている。そのような謂れはない」

 どうやら地元のごろつきのようだ。隣のスペースは怯えて支払ってしまっている。周囲の通行人は、関わりたくないとばかりに離れてしまう。

「そんなに治安が悪い町ではないはずなんですけど……、数年前に代替わりした領主が無能なんでしょうか」

 モーディー、わりと辛辣やな。

 護衛とごろつきは一触即発。しかし帯剣した護衛なので、ごろつきも迂闊には手を出せないでいた。


 人が離れて空間ができた場所に、一人の男性が歩いて近づく。痩せて目付きが悪く、人相も悪い。腰には剣を差している。

「どうした」

「こいつら逆らうんです、やっちゃってください!」

 ごろつきの用心棒か!??

 用心棒が無言で剣を抜き、合わせてこちらの護衛三人も剣を構える。二人だったごろつきは人数を増やし、金棒や切れ味の悪そうな剣を向けて威嚇している。

 ついに戦闘が始まり、ごろつきの用心棒は目の前の一人をあっという間に倒してしまった。勢いに乗ったごろつきが迫り、護衛はラウラを必死で守る。

 私は目の前に集中しているごろつきの背後からそーっと近づき、思いっきりメイスを振り抜いた。


「んどりゃーーー!!!」

「ん? うおおお!???」

 直前で気づき顔をガードするものの、腕がおかしな方向に曲がってよろけて倒れた。

「おい、大丈夫か!??」

「いてえいてえ、ぐわああああ!!!」

「一人目ぇ~はい次~!」

 駆け寄った仲間に狙いを定め、メイスを再び大きく振った。

「そんな大振り、当たらねえよ!」

 ごろつきは盾を構え、メイスは盾にぶつかった。

 結果どうでしょう、盾は砕けて、腕からは木材が割れたような小気味のいい音が。私のメイスは粗雑な盾では防げないのである。

 二人目が地面にごろごろと転がる。


「……危険な武器だな、当たれば防具でも防げず簡単に骨が折れる」

 用心棒がこちらを見ている。

 ちょっと、アイツの相手は護衛の仕事でしょ! 本職と戦えないわよ、隙を突いたり頭脳戦しかできないんだからね!

「強欲様、お下がりください」

 モーディーが私を庇う。だが、彼女の専門は弓なのだ。こういう場面では部が悪い。おおお下僕、下僕はどこよ!

 用心棒が踏み込み、一気に間合いを詰める。モーディーは護身用の短剣で辛くも防ぐが、長くは持たないだろう。

 万事休す、番茶に急須!

 勢いに押されてよろけたモーディーに、用心棒が無情にも切りかかる。


 不意にモーディーの前に霧がかかり、刀が止まった。

 霧は人の形になり、手で用心棒の腕を押さえている。やっと来たぞ我が下僕!

「……吸血鬼……!」

 さすがに格の違いを理解できたか、用心棒はシメオンを睨んだまま、後ずさって剣を握り直している。

「シメオンさん、遅い!」

「私は基本的に、朝は出歩かないのだ。君はなぜ、他国まで来て揉めている?」

「私じゃないわよ、ソイツらが言いがかりをつけて私のお金を巻き上げようとしてるの! さっさと倒して、迷惑料に身ぐるみ剥いでちょうだい!」

「どちらが悪人だか分からない」

 分からないわけがない、女神様に認められた私が常に正しいのだ。


「……敵う相手ではない。その女を人質にしろ、退却する」

「絶対に阻止するのよ!!!」

 用心棒がラウラを狙っているわ。モーディーもラウラの方へ駆け寄る。

 ごろつきだけならまだしも、用心棒はこちらの護衛より確実に強いのだ。シメオンはもっと強い。

 足元を見れば、ごろつきや護衛が暴れて商品が踏まれている。レースのハンカチは台から落ちて汚れ、細工ものも幾つか壊れたような。

「……よくもうちの商品を……っっっ! 全員死罪よ、即刻首を刎ねなさい!!!」

 シメオン霧になって用心棒の前に現れ、ラウラへの攻撃を阻止している。護衛たちは防戦一方である。


 乱闘になったら商品が潰れる! どうしたら早く落ち着くのか、気持ちが焦る。不意に人々が後ろを向き、なにか指差しているのが視界に入った。

 ダダダッという複数の足音、場所にそぐわない蹄の音。これは警備の兵とかでは?

「こちらです」

「おお、あそこに……ん?」

 立派な馬に乗った男性は、異変を察して言葉を止める。すぐ前で案内している従者は気づかないのか、そのまま話を進めた。

「先ほど弓で、素晴らしい精度で的中させた女性はあなたですか?」

 ……弓? もしかしてスカウトとかか?

 誰かの通報とかじゃないのか、よくもまあこんなタイミングで来るなあ。

「そうですけど……、今は立て込んでおりまして」

「……確かに。怪我人が出ている模様です、乱闘ですね」

 兵は指示を仰いで、馬上の人物へ視線を移した。

 軽装で赤茶色の髪の若い男性がいる、リーダーかな。


「我らはレンフィールド侯爵家の従者です。客人を送迎中、こちらで一日商売する許可を受けております。それをあの連中が、さらに使用料を払えと言い、襲いかかってきました!」

 モーディーがリーダーに、必死に訴える。

 ラウラを守る護衛は怪我をしていて、金棒が当たった腕は痛そう。

「なるほど、万事理解した! そやつらを捕らえよ、陳情書にあった者たちであろう!」

「は!!!」

 やはりこちらの味方! 立派である。陳情書ということは、過去に誰かが訴えて、それを受けて来ているに違いない。


 兵はすぐに散らばって、用心棒やごろつきを逃がさないように取り囲んだ。

 用心棒は切り抜けて逃げようとするが、目の前にシメオンがいるので叶わない。逆に剣を落とされている。

「あはははは、やった……あ?」

 兵の一人が私の手を縛ろうとするんですが。

「危険な武器を持っているな、おとなしくしろ!」

誰に言っとるんじゃい(どなたにお言いですの)わりゃあ(ボク)!!!」

「姉さん! 姉さんは悪人の仲間じゃありません、単独の悪い人です!」

「いやラウラもなに言ってるの?」


 聖人たる私に対いて悪い人とは。ラウラも混乱しているわね。

 兵は素直に手を止めて、怪我人の介抱に向かった。腕を骨折して大げさに痛がっているのは、ごろつきである。腕が痛いなら頭を殴ればいいのに。それが帝国民の生き方だろうよ。

「伯爵様、腕が折れています」

「死者が出ていないのが幸いだな。応急処置だけして連行しろ」

「はい」

 兵は持っていた棒で腕を固定し、布を巻きつけた。棒は犯人を殴る用途のものと思われる。ごろつきも用心棒も捕縛されて安全になったこともあり、ラウラが慌てて駆けつける。

「私はプレパナロス自治国の聖女です、怪我の重い方から治療します」

「一人銀貨三枚です」

「姉さん!!!」

 ラウラってば、すぐに無償労働しようとするんだから。本当に私がついていないとダメね。


「自治国の聖女様? ゲルズ帝国へようこそ、ダンジョン攻略の際にはいつもお世話になっております」

 そうだ、脳筋帝国の貴族はダンジョン攻略が趣味だっけ。馬上のリーダー、つまり伯爵は馬を下りて、ラウラに挨拶をした。

 ラウラは軽く会釈して、治療に取りかかっている。

「……君は治療をしないのか? 怪我をさせた本人ではないか」

 シメオンが私にまで治療をさせようとする。

 怪我をさせて自分で治療するんじゃ、自作自演みたいではないか。相手は悪人だし、そもそもこの程度、私が手を下すまでもないのだ。


「私が治療するには、まだ傷が浅いわね。追加で足、折る? 指だとやる方も楽だぞよ。今なら三本セットでお得です」

 ただし治療は得意ではないので、骨がちゃんとくっつくかは未知数である。私は知識の探求者。

「ひいい、このヤベエ女から守ってくれ!」

 ラウラの治療を待つごろつきが、半泣きで兵の足にすがりつき助けを求めている。情けないなあ。

「……ええと、こちらの方はどういった人物? かな? 人ではあるんだな?」

 伯爵はクエスチョンマーク満載で質問した。目が悪いのか。


「こちらは当家のお客人で、呪術師の強欲様です」

「シメオンさんは吸血鬼だけど、私は人間に決まってるでしょ」

 モーディーの紹介に続き、私は呪術師である紫レタス老師にもらった、準会員の会員証を提示した。呪術師協会の認定相談員と書かれていて、呪術師の証になるからね。早くも使う場面がきたな。

「呪術師様でしたか。私はこの広場の販売スペースで不当に使用料を徴収したり、商売の邪魔する悪質な者がいると陳情を受け、見回りにきたんだ。ここは我が領地の中でも最も栄える重要な町だから、警備体制を見直そうと思ってね」


 なるほどなるほど、ちょうどお探しの犯人だったわけね。

 これは女神ブリージダ様の巡り合わせである。女神様、感謝いたします。商品が壊れた損害は、必ずや賠償させます。倍返し、いや倍返されだ!

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