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第150話 森のティーパーティー

「ゴブリンの王が、何のご用でしょう」

 モーディーが気丈に尋ねた。ゴブリンに弱気を見せてはならぬのじゃ。糸の一本たりとも、無料ではやらぬという気概が必要である。

「……こちらの馬車に立派な方が乗ってますな? ごあいさつまで」

 あらあら、立派だなんてよく分かってるわあ。意外と知的だな、ゴブリン。レース編みって立派な趣味よね、脳筋には理解されないだけで。

 しかし護衛は馬車から出ないようにと言っている。ゴブリンって、あまり人と仲良くするタイプではないからねえ。

「では歓迎の歌を歌おうではないか。皆の者、せーの」


「ヨウコソヨウコソ、僕ラノォ~森へェ。ココハ黒イ森、オ前ノ墓場~イエーイ。苦イオ茶ヲアゲヨウネ、最後ノ晩餐ナニ食ベルルル~」


 ルルルじゃねえよ、歓迎どころか墓場にされてたまるか。

 全員で体を左右に揺らし、肩を組んで楽しそうに歌う。とんでもないな、ゴブリン。

「……出発しましょ」

「そうですね……」

 歓迎の歌の途中ではあるが、ラウラも納得してくれた。御者に出すよう伝えると、ゴブリンの王エールケニッヒが慌てて両手を振っている。

「お待ちください、ぜひ森に寄ってください。ティーパーティーをしましょう」

 ティーパーティー?

 あやつ、私を淑女と知って招待しておるな。やるな、さすがゴブリンの王。

 淑女たる者、パーティーに誘われて断るワケにはいかぬのじゃ。仕方がない、今しばらくゴブリンに付き合ってやろう。動こうとしていた馬車を止めさせ、扉を開けた。おいしいものが食べられるかな。


「……本当に行くのか」

「魔と人を繋ぐのも聖女の役目なのよ。行ってみるわ。シメオンさんは留守番なの?」

「……君だけだと不安があるからな。……行く」

 軍師はおとなしく私の護衛をしていればいいのだ。

 私の神々しい姿に拍手喝采……かと思いきや、ゴブリンたちはあから様にガッカリしたような表情を浮かべる。

「違う違う、お前は呼んでいない。立派な方をお誘いしている」

 首を左右に振るエールケニッヒ。私よりも立派な人物がこの場にいるというのか。

「姉さん、ゴブリンにとっての立派な方ですよ。シメオンさんかロノウェさんじゃないんですか?」

 なるほど、立派な魔性か。シメオンの登場には、おーっという軽い反応だった。本命はロノウェの方か。


 当のロノウェはまだ馬車の中で、窓越しに面倒くさそうに髪を掻き上げる姿が見える。

「ゴブリンのティーパーティー? あんまり興味ないなあ」

「まあまあ、無料でおもてなししてもらえますよ」

 仕方なくという風に馬車から降りてきたわ。ゴブリンたちは拍手喝采で迎えていた。

「……強欲様、本当に行かれるんですか? ゴブリンのティーパーティーなんて、聞いたことがありませんよ」

 モーディーが心配して、私を止めようとする。私もゴブリンのティーパーティーは、初耳である。

「知らないままでは前に進めないわ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、よ」

「なるほど、さすがです! 私どもは馬車を守っております、問題がありましたらお呼びください」

「はいよモーディーさん」

 適当な理由で納得してくれるから、脳筋って気楽でいいわ。


 私とラウラ、シメオンとロノウェの四人で、黒い森に入った。エールケニッヒはロノウェをうやうやしく案内している。私たちはその後ろを歩いた。

 ゴブリンは周囲を囲み、軽快にステップを踏む。なんか獲物にされた気分だけど、大丈夫よね……?

 辿り着いたのはゴブリンの集落で、木造で家とギリギリ言えるかなくらいの、小屋との間のような粗雑な建物が間隔を空けていくつも立っていた。中央の広場には、焚き火の後が黒く残っている。

「ティーパーティーを開催するぞ」

「ティーパーティー! オ湯沸カス!!」

 家から多分女性のゴブリンが出てきて、嬉しそうに手を叩いた。ここのゴブリンはティーパーティーが好きなようだわ。

 すぐに準備に取りかかっている。


 焚き火の跡の場所に再び薪をセットして火を点け、どこからともなくテーブルや椅子を抱えてくる。

 テーブルには繊細なレース編みのテーブルクロスがかけられていた。四角い模様や孔雀の羽根に似た模様、花のような可愛い形のものなど、バリエーションが豊か。もしかしてこれが、ゴブリンの手作り……?

「ふおぅ、細かい模様ですなあ」

「ほんの手慰てなぐさみです」

 謙遜までしおったわ。刺繍やレース編みをするゴブリン、ゲルズ帝国の脳筋と知性が逆になってないか?


「エールケニッヒ様、今日ノ紅茶ハだあじりんノ、ファーストフラッシュデス」

 ファ……ファーストフラッシュ?

 よく分からないが、必殺技に違いない。光る? 光るのかな?

 恐ろしいゴブリンである。

 火の側に置かれた大きなテーブルには、焼き菓子やカットされたリンゴ、皮を剥いたミカンなどの食べものが次々と並べられる。サンドウィットやパンもきたよ。パンの横には、黒っぽいのを詰めたビンが。なんだこりゃ。

「この黒いのはなに? タール?」

「どう見ても違うだろう、そもそも食卓に並べない。ジャムではないか?」

 シメオンの解説を、エールケニッヒが肯定する。

「左様、ブラックベリージャムです。黒い森でよく採れる」

 ほほう、黒い森特製のブラックベリージャムとな。瓶のフタを開け、指ですくって舐めてみる。味見をしないとね。


「濃厚で酸味があって、おいしいわ」

「姉さん、勝手に食べちゃダメですよ! しかもスプーンが横にあるのに、指で取るなんて」

「気にする必要はない、お嬢さん。我々ゴブリンにとっては“おいしそうで待ちきれない”という意味がある、好意的なジェスチャーだ」

 エールケニッヒ、意外と温厚だな。

 ゴブリンは笑顔で行き交い、準備をしている。ティーパーティー好きなのかな。私たちには椅子を勧め、座って待っていろと言われた。

 食器も家具も全て木で、もしかしてこれもこの森の材料でゴブリンが作ったんだろうか。こいつら、有能だな。

 近くにいれば新たな仕入れ先にできたのになあ……。

 木のカップが渡され、ゴブリンが鉄瓶で紅茶を注いで回る。私のカップからも、ダージリンが湯気をくゆさせた。


 短い時間で、準備は整った。エールケニッヒが音頭をとり、ついにティーパーティーが始まる。

「では、これよりティーパーティーを開催します」

「カンパーイ!!!」

 ゴブリンたちがカップを顔の高さに上げ、口々に叫ぶ。ティーパーティーの始まり方って、これだっけ?

 テーブルは限られた数しかないので、席がないゴブリンはシートを敷いてテーブル代わりの木箱を置き、地面に座っていた。食べものは目の前のお皿に、勝手に持ってくるスタイルだ。だからティーパーティーって、これじゃないだろ。


 とりあえず皿に盛れるだけ盛り、パンにブラックベリージャムをたっぷりと塗って小皿に置いた。

「姉さん、変わったティーパーティーですけど、楽しいですね」

「ホントねえ、どれもおいしいわ。肉もあるし」

 肉の串焼きもあるぞ、さすがゴブリン。

 ゴブリンたちは食べて飲んで、自作品の自慢大会をしていた。

 レースや刺繍はさすが立派。私が見込んだだけあるわ。木製雑貨を見せているゴブリンは、食器なんかを作ったヤツなのかな。

「んー、これ商品になるよ。売ってるの?」

 ロノウェは毛糸のコースターを持ち上げ、マジマジと眺めている。やっぱり売れそうよね。やたら手先の器用なゴブリンよのう。


「売るあてもないので、たまに他の種族と物々交換に使うくらいですね」

「オ金ナイ、糸トカ布トカ奪ッテ手ニ入レル」

 買えないから奪う、なるほどゴブリンも必死で生きているのだ。私に被害がなければどうでもいいのだが、商品になるなら話は別。

「……この私、強欲が買い取りましょう!」

「おお、買ってくれるか!」

 ゴブリンの王エールケニッヒは配下に未使用の品物を集めさせ、シートに並べさせた。たくさんあるぞ、しめしめ。

「全部で……銀貨二枚でいかがでしょう」

「……このレース編みは大作だ、これ一つでその値段はする」

 シメオンが勝手にバラすんだから!


「アノ人間ヒドイ」

 ゴブリンたちのジトッと眺める視線が刺さる。結局シメオンに隣で監視されて、それなりの値段で買わされた。

「君は本当にとんでもないねえ」

 ロノウェは呆れた口調なわりに、どこか楽しそうだわ。

 森のお茶会は終わり、最後に参加の記念に刺繍入りハンカチを一枚ずつもらえたよ。

 ラウラがお礼に怪我をしていたゴブリンを治療して、喜ばれていた。

 大分予定より遅れちゃったな。早く馬車に戻らなきゃね。

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