後編 未来時 第三話 遊園地
「おお、でかい。」
「こんなに広い建造物は初めてです。」
僕の町から三駅くらい飛ばして、都心に近い市にはそれなりのテーマパークというものが存在する。
その名もジンジャーランド。別に作者がネタで付けたとかそういうことじゃないよ?…語呂が良いだけ。
「今からこの中に入るんですよね。楽しみです。」
彼女の機嫌も戻ったようで本当に良かった。僕もシトミをシバいてから機嫌がいい。軽いチョップかましただけだけどね。
「まあ、見とれるのも構わないけど中に入ろうか。」
「はい♪」
癒されるわー、なんなの小動物の類いなのかこの子。先祖にウサギとかいんじゃねーの。
ニコニコとしたカレンは新鮮で名残惜しいけれども、日陰に彼女を残し、チケット売り場に向かう。入場チケット売り場は受け付けみたいになっており、同時に案内とかも行っているようである。
時は11時。皆さんお昼時なのか、チケット売り場は結構空いていた。
その中でも、一際少ない列に入る。
順番は直ぐに回ってきた。どうやら、ここの列の受け付けの人は対応が早いらしい。
「すいません。大人二枚で。」
そういうと、受付の人は、眼鏡の場所を整える。
「すいません。もう完売でないんですよー。」
「遊園地にチケット完売とかあるか!!売れてるミュージシャンのライブかここは!!」
反射神経でつっこんでしまったけれど、なんだか聞き覚えのある声だったような。
「……というか、シトミじゃん。なに、働いてんの、ここで?」
道理で仕事が早いわけだ。
「大人二枚ですねー、1300円です。」
「いや、話聞けよ、それとあったのかよチケット!!」
すると、彼女の顔は一変、小馬鹿にしたような顔になる。
「なにいってんすかお客さん。売れてるミュージシャンのライブじゃないんですからー。ウケるー!」
「笑えねぇよ!!あと、人のツッコミをパクるな!!」
さっさと1300円をきっかり出して、チケットを奪う。本当にこの時間空いてて良かった。
このままじゃあ、アイツのペースに乗っ取られたままかもしれないな。
やっぱり、自分でやってかないと。
その後……
――絶叫系のアトラクションにいった。あの長蛇の列に並ぶひとたちはこれのなにがおもしろいのでしょう……
ガタガタガタガタ……
「ぎゃあああああああぁっ!!」
「きゃああああああああっ!!♪♪」
耳だけが、幸せ。
股間が寒いです。
あれ、まだ続くの……?
えぇー…
「いやーしかし、あれの何が面白いのか。」
ベンチに座って吐き気に耐えながら休憩中であります。カレンも一緒。
こんなタイトルの子供番組あったらいいなぁ……絶対深夜枠飛ばされるわ。この可愛さは子供には毒だからなー。毎日のお便りがラブレター公開処刑式に変わるからなー。
とか、思ってると、カレンはあははと苦笑いをした。
「そういう、スリルが楽しめる人もいるんですよ。私も最後の一回転はちょっとキツかったですね。どうでした?」
そう、このテーマパークの目玉。デンジャラスコースター。名前からして危険コースターなので要注意。
最後に一回転する。ちなみに横ではなく縦に。斜めだと、……なんか凄い。
「あー、あれね。いやー、どうだろうね。」
最後の方は完全に意識が飛んじゃってるからね。
「もう一回行きます?」
何故っ!?……とツッコミたかったが、ここでツッコむとビビっているように見えるのでなんとか押しとどめる。
違うやつを提案してそれに変えてもらおう。
「い、いやいや、次は違うやつ行こうよ。ほら、あれ、メリーゴーランドとか。」
と言うと近くの草むらからまたカンペがヒョイと飛び出した。
『いきなり穏便になったなー。ジェットコースターからのメリーゴーランドて。』
いいんだよ。僕は穏便な方が……、てかまだいたのかよアイツ……
絶叫系とかわざわざ絶叫させるのが目的のアトラクションとか乗らんでいいだろ。
間髪いれずに答えが返ってくる。
「じゃあ、そのメリーゴーランドに行きましょう。」
あの回るだけで金をとられる場所に、ただ休憩するために。行きますかね。
「おっし、じゃあいこう!」
「はい!…」
「トイレ行ってくるね。」
「あ、はい、いってらっしゃいです」
その後……
「おい、こら。……おのれ、おい。」
「……はい、なんか、すいません。」
おかしいなぁ、ここ男子トイレなんだけどなぁ、なんでうちの妹は……こう、アクティブなんだろうな。
僕、トイレで土下座なんて初めてしたよ。
「お前さ、もうちょっと場所のこと考え…」
「黙れ、この愚兄が!!」
怒りの表情。片手を振り上げ、僕の頭上に落とす。
ペチン、とはたかれる。
「……………。」
……どうしたんだ。訳がわからない。なんでこんなに取り乱してるんだ。
「あのさぁ……、僕が何をしたって言うんだよ。」
「うるさいアホ!お前の母ちゃん出べそ!!」
お前の母ちゃんと僕の母ちゃん同一人物なんだけど!?
「カス、クソ、ゴミ、ミソ、ソバ、バカ、海洋生物!!」
――ペチン
ペチン、ペチン、ペチン、ペチン、ペチン
と言葉を重ねるごとに頭を叩かれる。全く痛くない。だけど、それ故に何処か体に響いてくるような。
「聞いてんのか、おらぁ!?」
頬を両手で挟まれ顔を上にあげられる。目を合わせられる。
……彼女は、今にも泣きそうだった。
「ああ、そうだよ。なにも悪いことなんてしてねぇよ!!カレンちゃんだって納得してたよ!!……兄さんの事が好きだから!!……でもさ……消えちゃうんだよ!?」
この彼女との最後の一日で一番に彼女のことを考えていたのは、シトミだった。
「………」
「ノルマで満足するなよ。お前が選択肢を選んでどうするよ。ちゃんとクリアさせてやれよ。出来るだろうが!それくらい簡単だろうが!お前がしゃんとしたらいけるんだよ!ハッピーな、エンドに!」
その点、僕はどうだ?
自分の都合が悪いからって選択肢を、奪った。
楽しいかもしれない、でもそれはそいつにとって一番にやりたいことじゃなかったんじゃないか?
それを僕は考えてやれなかったんじゃないのか?
――ペチン!!
一際、強い一撃。
彼女は叫んだ。
「――なのに!!」
―――なのに、なのになのになのになのに、
「あの子はまだ、なにもできてないよ……っ??」
結局、僕は、悪いことはしなかったようだ。失敗も、何も。
けれど、それを抜きにしてもしなければならない目的が、僕にはあったんじゃあなかったか?
「あいつのしたいこと、をやらせてやる」
ノルマじゃ終わらせられない。
クリアを目指せ。
あいつはまだなにもできてない……ね
……確かにその言葉は心に響いた。
戻ると、一人で立ち尽くすカレンがいた。
そりゃそうか、初めてだもんな。どうすりゃいいかなんて、考えがつかないかもな。
「おまたせ……、」
「あ、おかえりなさい。」
そして、言った。
「次は何処に行きます?」
と、今ではそんな笑顔作ってるようにしか見えない。別に楽しむつもりでいるのだろう。でもそれは何処か、消化不良というか、完全に楽しめていない。
僕が今から「君のしたいようにしろ」と言っても、彼女は戸惑うかもしれない。合わせようとするかもしれない。
だから、選ぶ言葉は、
「帰る。」
しーん
「えぇっ!?」
一息おいて、彼女はすっとんきょうな声をあげた。
「どどどどど、どうしてですか!?なんでですか!?」
あたふたあたふた、手をわちゃわちゃしながら僕に撫でるような抗議をする。
どどどどど、どうしてだろうねー
「……いや、面倒だから。」
面白そうなところも無さそうだし、と苦笑いで呟く。あまりの棒読みセリフに、つくづく僕は俳優に向いてないなー、とか思った。なる気ないけど。
「ありますよ!何処かに、きっと!……」
「じゃあ、何処?」
えーと、えーと、えーと……、
まるで救急車のサイレンのように大きくなったり小さくなったりする声。
まず、彼女はパンフレットを一度も見ていない。それでどう選ぼうというのか。
「だったら、パンフレットと金。自由に使って、選んでくれていい。お前が楽しそうだと思う場所に僕を連れてってくれ。」
そして、パンフレットと財布を渡そうとポケットに手を伸ばす。
「え、いいんですか、それ。」
僕の財布を指差す。中には数千円と、一枚のカードが入っている。一枚の黒いカード、勘の良い方はもう気づいたろうな。
僕は吐き捨てるように言った。
「構わん。好きに使え。」
裏戸が全額負担してくれるらしいからなー(非公式)
「それは、マジですか?」
マジだよ、マジ(非公式)
「無論。……だが、使いすぎるなよ。」
僕の良心がね、磨り減っていくから。ごっそりと。
「了解しました!じゃあですね、ここなんか良いんじゃないでしょうか!……」
そうか、こういうことだったのか。なんだ、楽なもんじゃないか。
僕の視線の先にはあるひとつのカンペが置いてあった。
―――『GJ』
御丁寧にふりがな付きで、
バカ、それくらいわかるよ、




