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時々  作者: こいこい
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中編 現在時 第6話 夢落ち





シトミを駅まで送ってから(あいつは他県の実家に住んでるから電車で登校してる。じゃあ、なんで僕は一人暮らしで登校してるのかって、僕には何故わざわざ他県から登校してるのかわからん。)僕はいつものように自分の家に帰っていたのだが、そこで、あることを思い出す。

「今日裏戸の家行ってないじゃん。」

ということをね。あんなに忘れちゃいかんと思っていたのになんで忘れてたんだろう。人って忘れちゃいかんと思ったことほど忘れちゃうから不思議。

そして、現在。裏戸邸前。

さっきから、インターホンを連打しまくってるのに返事がない。うんともすんとも帰ってこない。いや、『うん』とか『すん』とか返されてもそれはそれで嫌だけども……

「なんでだよ……もう。」

約束したのはそっちだろ。時計を見れば5時3分。約束は5時ぴったりだが、3分くらいの遅刻は謝ればどうにかなるかと思っていたのだが、裏戸がいないんじゃしょうがないか……

と思い直し、帰路へ引き返す。

後ろで山のようにたたずむ豪邸を少しだけ振り返り、眺めてやはり変わりないことを悟り、歩を進め直す。

そのまま、幾分か歩いていると前から同じように歩いてくる人影があった。

その人影は随分と疲れた様子で息も荒々しかった。

「あ、あの大丈夫ですか?」

いてもたってもいられず、僕はその人に話しかける。

白いワンピースを着たその人は、顔には隈が出来ていて、苦しそうに歪ましている。不意に何故かその顔を裏戸に似ているなと思ってしまった。いや、思い違いか……

今にも倒れそうなその体を支えようと僕は手を伸ばすが、その手は平手で払われる。

「私、は急いでるから……」

出てきた声は蚊の泣くような声で、なんとか女性の声だと判断できるくらいだ。ぜーはーぜーはーとさらに息を荒くしながら、よろよろと歩き出す。

「お、おい!」

なんのためにそこまで必死になるのかはわからないが、このまま放っては置けない。

僕は汗がたらたらと流れる小さな手をつかんだ。

「くそ…、離せ…!!」

と僕の手は彼女に振り払われてしまう。見た目でも完全に疲れきっている筈なのに彼女の力は強かった。

そのまま、また歩き出す彼女の背中は何者も寄せ付けないようなオーラがあった。

僕は何がなんだか訳がわからず、彼女を見送るしかなかった。

呆然と立っていると、後ろから「おい、君」と声をかけられる。しわがれた老人のような声だ。

「あ、はい。」

返事をして、後ろを振り向くとそこにはサングラスをかけた背の高い白髪混じりのおじいさんが立っていた。身長は僕の1.5倍くらいあった。つまり僕の上半身をもう一つ重ねればやっと彼の背に追い付く。なんだその例え、グロいわ。

外国人だろうか。それにしては悠長な日本語だけれども。

「僕に何か用でしょうか?」

「いや、君くらいの背の女の子を探しているのだが、髪の長い、色白な子だ。」

直ぐに思い浮かんだのはさっき通りかかったあの子だが、その子とこの人物に関わりがあるようには思えない。

一応どんな関係か聞いてみることにした。

「娘さんですか?」

「あ、いや、……親戚の子だよ。私の風貌が苦手なのか逃げられてしまってね。」

自分の身体を指差しながら、あっはっは…と苦笑いする。

やけに詰まった返事。怪しいな。場合によっては誘拐犯のようにも見える。

『私、は急いでるから』というのはあの老人から逃げているから言ったのではなかろうかということである。

ここは彼女が通った道を教えない方がいいだろう。

「あ、そうですか。それならあっちを通っていきましたよ。」

「そうか、ありがとう。」

老人は少しだけ頭を下げて、僕の指差した方向へ行ってしまった。つまり、全然違う方向である。

僕は老人の歩いていく方を眺める。

何故か、老人の遠ざかっていく背中が寂しげに見えた。






ガチャリ、と自分の部屋のドアを開ける。すると同時に蒸し暑い熱気がもわっと僕の顔を直撃し、僕の汗を増殖させる。

「あっちー。」

顔を自分の手でパタパタと扇ぎながら、エアコンと扇風機を付ける。

直ぐに涼しい風が僕の頬を撫でる。

「すずしー。」

学校指定の鞄を肩から退けて、ちゃぶ台の上へドンと置く。

すると鞄の側に二枚の封筒が入っているのが目に入る。

「あ、なんだこれ?」

昨日の記憶を逆再生させる。あー、そうだ。ポストに入ってたんだった。

シトミの相手してたからすっかりその存在が抜け落ちてた。

一つ目は裏戸可憐から、二つ目は差出人が書いてない。

まずは、危険性が薄そうな裏戸からの手紙を開くことにした。というかアイツどこで俺の住所を見つけたのか。

これが「全力でアンタのことを調べあげて、ネットに情報垂れ流してやるからっ!!」作戦の一端か。やかましいわ。

まあ、そんなこと言ってもしょうがないかね。

「さてと、開けますか。」

ビリッと遠慮なく破り中身を取り出す。

入ってたのは『お米券』だった。

そして、小さなメモが一枚。『これだったら、お金じゃないし、受け取っときなさいよね』とのこと。

「バカかアイツは……、」

……なんだよ、普通に可愛いじゃないかよ。

返すって訳にもいかないし、『お米券』ありがたく受け取っときます。一キロ分が五枚なのでお米五キロ頂きました。やったね、お米には困らないね。だけど絶対おかずが欲しくなってくるよね。くそ、なんで僕ん家の冷蔵庫にはごは●ですよしかないんだよ。

「……で、これなんだが……」

差出人不明。はっきり言って捨ててしまいたいくらいなのだが、一応、見ていておくくらい、いいよな……?

ビリッ。中身は、お米券やビール券ではなく手紙だった。

小さな文字の羅列が続いている。達筆でありながら、言葉遣いも丁寧だ。

「誰だ、これは?……いや、それよりも……」

書いてあったのは僕にとっては、信じられないような出来事であり、これも裏戸からの手紙であった。






『名も知らぬ、あなたへ

失礼ですが、そうそうに忠告させて頂きます。貴方はもう可憐に近づかない方がいい。

私はカレンと言います。

私は裏戸可憐でありながら裏戸可憐ではなく。要するに私は彼女の別人格なのです。裏戸可憐は可憐とカレンが織り成す二重人格という認識を受けてもらえれば助かります。

私という人格が生まれたのはつい三日前の夜です。

突如といっていいほど、カレンが生まれたことにはなんの脈絡もありませんでした。そして、テレビやインターネットといったマスメディアにより私は色んなことを学び、この世界のことを知り、自分が二重人格であることを知りました。そして、カレンが意識を保てるのは可憐が眠ってから朝起きるまでということを理解しました。

調べたことによると、この二重人格というのはストレスや大きなショックを伴って生まれるらしいのです。

ですが、この豪邸に設置された監視カメラでカレンが生まれる前後の時間帯の可憐が映る映像を全て確認したのですが、ショックを与えられた様子も、ストレスを溜め込んだ様子もありませんでした。

なら、カレンが生まれたのは何が理由なのでしょうか。

それが気になり、カレンは外へ出ることにしました。変な話ですよね。そうすれば分かるかもなんて、希望を持ってしまったんです。しかし、勝手にカレンが外へ出たら可憐にカレンの事がバレてしまうので、セキュリティの電源を切って外へ出ました。

私の存在が分かると可憐は私というもう一つの人格に接触しようとするかもしれません、なんとなく私の存在を可憐にはバラしたくなかったのです。

そして、私は外に出ました。それは見たことがあるような光景で、何故か私はその辺りの道を知っていたのです。

頭の中にゆらゆらと残るおぼろげな何かを手繰り寄せながら、歩いていると大きな公園へ出ました。

見覚えのあるものでした。それを理解すると同時に怖くもなりました。今まで外に出たことがなかった私が公園に見覚えがあったら、私は生まれてから三日間以外の記憶を持ち合わせていることになるのです。

その日はそこで記憶は途絶えています。多分、そこで可憐が目覚めたのでしょう。

その日から、徐々に私はない筈の記憶が頭の中に入ってきました。

私が人造人間であること。

そして、黒いスーツにサングラスをかけた長身の男性に追われていたこと。しかも、それは私を殺すためにです。

一人の少年に助けを求めたこと。

思い出す記憶は変なものばかりでした。しかも、生まれて三日か四日の私にはあり得ない記憶です。

そこで私は一つの仮定を立てました。

それはその記憶が可憐の前世の記憶だというものです。

つまり、可憐の前世が私。カレンであり、その前世の記憶を可憐が受け継いでいるのかもしれない。

…ということです。

それなら、私が変な記憶を持っているのも頷けます。そして、問題なのが最近可憐が外に行くときに長身の黒いスーツにサングラスをかけた男性を見かけることです。そして、その男性を見かけると動悸が荒くなるのです。

もしかしたら、なのですが……、その男性に私を追っていた男性の前世の記憶があったとしたら、それは大変なことになるかもしれません。

だからなるべく可憐には近づかないことを……ああ、すみません。眠くなってきました。これをポストに放り込みます。次はいつ私が起きれるのかわかりませんので。

……では。』


手紙はここで終了している。






これは……、どうなんだろうか。

最初、『可憐に近づかない方がいい』とか言われたときはびっくりしたけど、近づかない方がいい理由はあったからな。

黒いスーツにサングラスをかけた長身の男性。

今考えてみれば、昼に会ったあの二人、あの子はこの可憐の別人格のカレン。あの老人は前世のカレンを追っていた男性じゃないか?

フツーに逃げてたし。

空似にしちゃあ、似すぎているし、この話を聞いてあの老人があの子を追っていた理由に筋が通るとはな。

「どーしたもんかねー。」

近づくな。それはカレンの心配から出された結論だし、無下にしたくないというのも事実ではある。

いや、会うか会わないかの問題は後回しにするとして、この前世の記憶の話。僕の夢の話とマッチするところがある。

いや、ところどころじゃない。話の大体が僕の見た夢と噛み合う。そしてその夢の中では僕も少女と同じように殺される。

そうだとしたら、僕もあの老人に狙われる可能性は十分にある。

ならば、僕はこれからどうしようかなんて、直ぐに決断できた。



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