33 闇夜の潜入
俺は周囲解析をしながら、暗い夜道をバイクで走る。
今日は雲が厚いらしく、月明りも届かず周囲は真っ暗だ。
「月が出てへんとほんまに真っ暗やな。ユウっち、前、見えてるか?」
「ああ、むしろ前しか見えてないな」
バイクのライトが照らした範囲しか視界が開けない。
突然視界に現れるがれきや岩を器用にかわしながら、俺たちは一路、『クロイワ連合』を目指して走っていった。
◆◆◆◆◆◆
ビシィッ
「……ぅぐっ!」
「お姉ちゃんっ!」
お頭の平手がアリサの顔を弾き飛ばす。
『クロイワ連合』 に着いたアリサとミナは、お頭のいるプールサイドに連れてこられていた。
辺りは真っ暗だが、松明の灯が2本、頼りなさげに周囲を照らしている。
「なにするのよ! 早くタケルくんを呼んできなさいよ!」
「相変わらず威勢のいいやつだなぁ。で、食いもんはどうした」
ミナは後ろ手に持っていたビニル袋をお頭の足元に放り投げた。
横に立っていた側近の一人が袋の中を確認する。
「お頭、やりましたぜ、食いもんがいっぱいだ」
「おい、お前、食ってみろ」
「え?」
「こいつらのことだ、毒でも入れられてたらたまらんからなぁ」
呼ばれた下っ端の一人が渡された魔獣肉の燻製を恐る恐る口に入れる。
「毒なんか入れるわけないでしょ!? 今日食べようと思ってたものを持ってきたんだから!」
「おい、ちょっと黙ってろ」
「きゃっ!」
髪の毛を引っ張り上げられ、短い悲鳴を上げるミナ。
「う、美味いです……っていうか肉、久しぶりだ……」
「大丈夫そうだな、先に飯にするか。おい、そいつらはひん剥いてそこに閉じ込めておけ」
「了解」
「え!?」
そう言うや否や側近の男がアリサとミナの服を裂いた。
ビリィィィィッ
「ちょっと、乱暴にしないで!」
「やだ! お姉ちゃんっ!」
下着姿になった二人をプールサイドに隣接する用具倉庫に押し込め、外から鍵を掛ける。
「腹が減っては戦はできぬってやつだぁ。あいつらを襲うのその後だ」
その場に下卑た男どもの笑い声がこだました。
◆◆◆◆◆◆
「あそこが『クロイワ連合』なんや……」
ジュエリが50mほど離れた場所からうっすらと見える鉄門を見て言った。
そばには門番らしき人物が松明を持って敷地内を右往左往している。
「ああ、この暗さなら住民はすでに寝静まってる時間だ。松明を持って歩いている奴は全員、クロイワ一派だから注意な」
「了解、大丈夫や、無理はせんって」
振り返ったジュエリは俺の腰についている布袋に気付いた。
「それ、なんなん?」
「ああ、これか? 一応武器だな。まだ使ったことはないけど」
「え、武器なんか持ってるん?」
実は以前持ち帰ったキングバードの羽を何枚か保管しておいたのだ。
鉄でできたY字のスリンガーショットで射出すれば、かなりの威力を出せることがわかっている。
試し打ちでコンクリートの壁に突き刺さったのにはびっくりした。
「ジュエリに持たせてやりたいが、扱いが難しいからな」
「ああ、いらへんいらへん、ウチはこれがあれば十分やわ」
そう言ってさっき渡した鉄パイプを掲げた。
この世界で目覚めてからずっと持ち歩いている、いわば相棒だ。
棒だけに。
「さて、どうやって潜入するん?」
「ちょっとジュエリにも手伝ってもらおうかな」
俺はジュエリに門の反対側へ回るよう指示し、俺はもう少し近くへ距離を詰めることにした。
こういう時にこの暗さは助かるな。
俺は月が出ていないことに感謝すると、その辺にあった小石を拾い、スリンガーに装着した。
スーッとジュエリらしき黒い塊が鉄門のそばへ寄っていくのがわかる。
俺は一呼吸置くと、引き絞った小石を鉄門めがけて放った。
カンッ
「ん? 何の音だ?」
門番が持つ松明の明かりが鉄門に近づいていく。
特に何も異変がないことを確認し、戻ろうとするタイミングでもう一度小石を放つ。
カンッ
「ああ? なんなんだよ……」
少しいら立ちを覚えながら門番はストッパーを外し、鉄門をガラガラと開けた。
外へ出て松明を構えながら遠くを見渡そうとした時、後ろから黒い影が門番に近づいた。
「ほい、ご苦労さん」
「え!?」
ゴンッ
後ろから鉄パイプの一撃を食らった門番は音もなく崩れ落ちた。
それを見たジュエリは俺に向かって大きく腕で丸を作った。
正直暗くて何をしているのか見えてなかったが、俺はゆっくりとジュエリのいる位置まで移動した。
「潜入成功やな、で、このあとどうするんや?」
「とにかくタケルくんの場所を探そう。あと先に来ているはずのアリサとミナもどこかにいるはずだ」
「そうやな、今のところ静かで不気味やけど……」
俺は異空間ポケットからUSB充電式懐中電灯を二つ取り出した。
「暗いからこれを渡しておくよ。ジュエリは校舎の1階部分を探ってみてくれるか? 職員室や図書室もあるから結構広いと思うが……」
「わかった、ユウっちはどうするん?」
「俺は校舎の外周を見回ってから2階を探ってみるよ。渡り廊下の先に体育館があるから、そこで落ち合おう」
「了解、何かあったら大声を出すんやで、ユウっち!」
「それは俺のセリフだ」
俺はジュエリが校舎内に入るのを見送ると、懐中電灯をつけて辺りを見回した。
不自然な黒い染みが地面のいたるところにある。
「……まさかな」
少し門から進むと、目の前に石像の台のようなものが鎮座していた。
台の上にはむき出しの鉄骨が飛び出た、人の両足を模した石の塊。
よく見ると地面には上半身部分が粉々に砕け散って散乱している。
「魔獣でも入り込んで突っ込んだのかな……」
俺は地面に落ちていた、人差し指を伸ばした手の部分らしき石を拾い上げた。
おそらく、どこかの方面を指さした偉そうな石像だったのだろう。
Boys Beなんとか、とか言ってる博士みたいな。
俺はそのまま校舎裏に回り辺りを散策する。
さっきから嫌な予感がしていたが、早くも的中してしまった。
「やっぱり……最悪だ」
そこには、ビニールシートに覆われた小山があった。




