行く年来る年17
「えっ……ちょ、ちょっと……」
そんな妖刀とは対照的に、脳が状況に追い付いていない悠はただ間抜けな――そしてうわずった――声を上げるのが精一杯だ。
「悠。好きだ」
畳みかけるような告白。
それが告白であって、相手は今自分に告白しているのであって、恐らくは酔っているが故である――そこまで導き出すまでに、妖刀は抱きしめた悠を押し倒していた。
「きゃっ!」
掛け布団がばふっと音を立てる。
その上に仰向けになった悠の早鐘を打ち続ける胸の少し上、彼女の顔の左右に妖刀が手をつく――所謂壁ドンというものの、90度俯角を取った姿。
「あ、あの、妖刀……ちゃん?す、好きって……その……わ、私……?」
しどろもどろな問いかけに、妖刀は酔っ払いとは思えない真剣な眼差しで見つめ返し頷く。
「で、でもそんな……そんな突然……」
「――去年の事だ。告白された時、私は断った」
その話は悠も知っているし、なんならつい昨日それをネタにしてからかった。
だが、今はそんな事蒸し返す余裕はない。当の本人の口からその話が再び発せられているのも、ただ黙って聞いているしか出来ない。
「『他に好きな人がいる』そう言ったんだ、私」
「そ、そ、そう……」
その断り文句、この状況、その断り文句をこの状況で話す意味。
特別勘がよくなくとも明確に理解できる。
「その好きな人が……悠だ」
垂れ下がった銀色の髪が悠の肌に触れる。
それを先触れのようにして妖刀の身体が一気に近づく。
どくん、と悠の心臓が一際大きく音を立て、咄嗟に両手が妖刀を押し返す。
「だ、駄目っ!」
言いながら目を逸らす――見続けていたら断れる自信が無い。
「どうして?」
その問いかけにも行き場のない視線を持て余しながら応じる。
「そ、その……、それやっちゃったら、もう私妖刀ちゃんを……今まで通りに見られなくなっちゃう」
自分で何を言っているのか分からなくなりながらの抵抗。
だが、今まで通りの目で見られないのは恐らく事実だ。
妖刀を意識してしまう。
自分に好意を抱いている相手であると分かってしまったが故に。
これから今まで通り暮らしていけるのか、今までの関係に戻れるのかは分からない。だが、今ここで受け入れてしまえば100%後戻りできなくなってしまうだろう。
――悠自身、きっぱり拒絶するのは難しいぐらいの感情はもっている。
「だ、だから……」
だから、どうしても断りきれない。
そういうのもありか――心のどこかでそんな声が上がり始めている。
「だからまだ……、まだ……心の準備が……」
心の準備が出来ない=準備が出来たら受け入れる。
肯定する訳ではないが、きっぱりと否定するでもない。ただ先延ばしにするだけのやんわりとした否定に留める。
それを受けた妖刀の動きがピタリと止まった事の理由は、悠には分かりかねた。
「よ、妖刀ちゃん……?」
ピタリと止まってしまった妖刀。
その呼びかけに答えることなく、ゆっくり、ゆっくりと悠に体を近付け――しかし軌道を逸らして彼女のすぐ隣に崩れ落ちた。
「え……?」
妖刀は再び動かなくなった。
幸せそうな寝息を立てながら。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に。




