行く年来る年15
「さて、明日もあるし」
二階の自室にて、悠は敷き終わった布団の上に立ち上がった。
布団を敷いていた時から出ていた欠伸がもう一度間抜けな音を立てる。昨夜の一件で寝不足なのは彼女も同じだ。
「妖刀ちゃん。大丈夫かなぁ」
そんな状態でも気になるのは下に寝かせてある同居人の事だ。
まさかあれだけの少量でああまで潰れてしまうとは思わなかった。時折一滴も飲めない人というものはいるが、恐らく彼女はそのタイプなのだろう。
(可哀想だけど、ちょっと惜しくもあるな……)
酔った時には本性が現れる。前に聞いた事があるこの言葉は、自身もほろ酔い時には口が軽くなる――普段から軽いと言われることもあるがそこは認めていない――事からも信憑性があると考えている悠だ。もしかしたら妖刀の本性が見られるかもしれないなどと考えたりもしたのだが、とてもそれどころではなかった。
流石にあんな風に弱り切ってしまわれると面白半分に飲ませてみようとも思えない。酒を飲むのは楽しいが、面白半分に飲“ませる”べきではない――彼女がこれまでの人生で身に着けた教訓だ。
「ま、酒乱とかじゃないだけましか」
それを結論にして考えを纏める。暴れられなかっただけ良かったと考えるべきだ。
そんな架空の話よりも明日の朝確実に訪れる問題――という程でもないが――を考えなければならない。
「納豆はまだあったよね。それと生卵も……それだけあれば十分か」
明日の朝食は期待しない方がいいだろう。あるもので適当に済ませよう。先程の皿洗いの際に感じた罪悪感を思い出す。
(今度、簡単な料理を教えてもらってもいいかもしれないな。祈祷を教えることになっていた訳だし)
そうすれば自分でもある程度の事が出来るようになる。最近は夫婦での家事分担がしきりに叫ばれたりもしているのだそうだ。夫婦でなくてもお互いの領域で代理ぐらいは出来た方がいいだろう。
「お……?」
そんな事を考えながら出入り口のふすまのすぐ横にある照明のスイッチを切ろうと手を伸ばした時、古い階段が軋む音が聞こえてきた。
キィ、キィと一定のペースで板張りが鳴き声を上げ、それが終わった後は小さな足音が近づいてくる。
(妖刀ちゃん?大丈夫なのかな?)
あの様子ではまだ下で寝ていた方がいいと思うが――そんな風に思いながらふすまに手をかけようとした瞬間、そのふすまが勢いよく逃げていった。
「わっ!?」
突然全開になる紙製の隔壁。その向こうに立っていた件の同居人。
「びっくりした……。妖刀ちゃん?」
確かに彼女だった。
だが、いつもと様子が違う。
「あ、あの……妖刀ちゃん?」
思わず視線を逸らす。
色白の頬には朱がさしたような赤さが残っている。
普段なら癖もなく腰まで伸びている見事な銀髪は所々跳ねてぼさぼさになっている。
これまたいつもならしっかりと隙なく正している胸元は大きく肌蹴け、同じく朱のさした豊満な乳房が僅かに覗いている。
一言で言えば艶っぽい。同性の悠ですらそう感じるほどに。
「えっと、あの……」
そしてその様変わりした同居人は、手に空になった酒瓶をぶら提げ、とろんとした目で悠を見据えていた。
(つづく)
今日はここまで
多分、あと数回で最後になると思います。
色々と至らぬ拙作ですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。




