行く年来る年14
「ぅ……」
それから程なくして、暗闇の中で布団が動いた。
目を覚ます妖刀。瞼の向こうと同じ闇が広がっている事に一瞬戸惑い、それから状況を理解する。
「悠……?」
口を突いた同居人の名前は慣れ始めた暗闇に消える。
返ってくるのは自分の動きに合わせてすれる布団の音と、遠くから聞こえてくる酔っ払いの笑い声だけ。
「そうか……」
ここで認識が完全になった。
続いて自身の状況にも意識が回る。
目覚めたはいいがまだ頭はぼうっとしている。恐らく酒のせいだろうが、ひどい寝不足の時のように何かをしっかりと考えようとしても脳が働いていないのが自分でわかる。
それに妙に口の中が粘ついている。というか、乾ききっているような気がしている。そう言えば悠が水を置いていってくれたはずだ。
「えっと……」
枕元をまさぐるが、指先が洗面器を往復するだけで確かにあったはずの水には触れられない。
灯りをつけようかという考えも一瞬浮かんだが、それには及ばないと考え直した――かかった時間からすれば素直につけていた方が早かっただろうが。
「あった、これだ」
ようやく触れた洗面器以外のもの。暗がりに慣れ始めた目にも、それが何らかの容器であるというシルエットが見えてきていた。
(駄目だなぁ私は)
突然、自虐が発作のように襲い掛かった。
(あれだけの酒でここまで木偶の坊になってしまうのか)
情けない姿。
昨日の夜から今日の朝まで、一晩中見てきたそれを今自分がやってしまっている。それも、その人達よりも遥かに少ない、飲んだうちにも入らないような少量の酒で。
酒の強弱で人の良し悪しを判断することなどできない――そんな事は彼女だって分かっている。だが、感情が常に理性に忠実とは限らないこともまた実感として分かっている。
これも酒の影響か、よく分からない考えが、良くまとまらないうちに次々に脳内に浮かび上がってくる=まるで漏電。或いは短絡。
(悠は凄いな。こんなもの飲んでも平気でいる)
自分が飲むだけでなく、他人がそれで潰れてしまっても手慣れた様子でフォローしている。酔っ払いの相手も慣れたものだった。
本人は『昔取った杵柄』と大したことでもないように言ってはいたが、妖刀にしてみれば素面の状態で彼らの相手をするのが精一杯の自分など到底及ばない存在に思えてくる。
(悠……)
悠。同居人。巫女長。ここを一人で切り盛りする予定だった若い巫女。反魂さん。
彼女の沢山の顔が妖刀の中に浮かび上がって、これまでの暮らしのハイライトが同時上映されている。 その殆どは笑った顔で、その半分ぐらいは妖刀に向けられたものだった。
(私は悠を――)
どう思っているのだろう?
何故か動悸のする胸に問いかけても、早鐘が激しくなるだけだ。
それが妙に苦しくて、もやもやとした感触が胸にこびりついているようで、それを洗い流してしまおうと拾い上げた容器のふたを開ける――スクリュー式だった筈だがいじっているうちに外れた。
(……多分、酔っているからだ)
自分に言い聞かせてその口を唇に当てて一気に煽った。
(つづく)
今回も二本立て




