行く年来る年11
「あ~美味しかった。やっぱり妖刀ちゃんは料理上手だね」
勿論おせちの多くは買ってきたものだが、中には妖刀の手によるものもある。
その多くは年末の忙しい中に仕込んでいたもので、まめまめしく動き回りながらしっかりと仕上げているのが悠には不思議だった。
「そう言ってもらえると嬉しいな。ああそうだ。せっかくだし餅でも焼こうか」
言われた時、丁度悠は半分ぐらいだけ残ったグラスを置いていた。
「あ、じゃあお願い。……フフッ」
「ん?なんだ?」
悠の楽しそうな吹き出しに妖刀は小首をかしげる。
「なんかさ、夫婦みたいだね。私達」
夫婦。仲良し。良い嫁になる――いくつもの言葉が妖刀の脳に急浮上する。
「なっ、何言っている!?」
その脳内が外に出てしまったような錯覚を覚え、慌てて夫婦湯呑みよろしく並んだ二つのグラスに手を伸ばす。
――同じようなグラスに同じぐらい注がれた同じような飲み物。慌てていて分からなくなっても無理はない。
「ごふっ!?」
「あっ、お酒の方飲んじゃったの?」
気付いた時には後の祭り。半分ぐらい注がれていたそれを一気に干した。
「げほっ、げほっ……す、済まない……」
「アハハ、慌てるからだよ。大丈夫?」
「あ、ああ……」
空になったグラスを笑いながら受け取ってもう一杯作る悠。
妖刀のそれは慌てただけと処理――何故“むせた”のかはその通り。何故“慌てた”のかまで巡らないところが悠の悠たる所だろうか。
「済まない。その……ああ、餅だったな。焼いてくる」
「あ、うん。お願い」
逃げるように立ち上がる妖刀。
その頬が僅かに上気していた理由は、恐らく本人も分からないだろう。
「結構勢いよくいったなぁ」
残された悠は新たに作ったもう一杯を舐めながら、思い出し笑い気味に一人呟く。
飲めないと言っていたが、中々どうして一気に行くものだ――案外、本人がそう思っているだけでいける口かも知れない。
「ま、無理強いはしないけどさ」
飲めない相手に無理に飲ませるのは褒められた行為ではない。
その果てにある悲惨な結果を、彼女はフリーター時代に何度も見ていた。
チェーン店の居酒屋。酒の席では様々な人間関係が見えてくるものだ――もっとも、働いている側からすればそんな事のんびりと観察している暇なんかないのだが。
「……もし、妖刀ちゃんが飲めたらどんな風だろう?」
なんとなく考える。
一日の終わりに二人でさしつさされつ、ちびりちびり。
「なんか、本当に夫婦みたいだ」
実家の両親を思い出す光景。
もし自分が男だったら、父は一緒に飲もうとするのだろうか――不意にそんな事を考える。
「……やっぱりたまには、実家に顔出そうかな」
この時期を乗り切ったらそうしてみるのもいいかもしれない――そんな考えが頭をよぎった時、壁一枚向こうの台所でどさりと音がした。
「……妖刀ちゃん?」
返事はない。
不意に妙な予感が悠に腰を上げさせた。
「妖刀ちゃん?どうしたの?」
呼びかけながら台所へ。
「妖刀ちゃ――」
そしてそこで、倒れて動かなくなっている彼女を発見した。
(つづく)
今日はここまで。
続きは明日に。
明日も20時頃の投稿を予定しております。




