行く年来る年12
「妖刀ちゃん!?」
駆け寄り抱き起す悠。
俯せのままピクリとも動かなかった妖刀を抱き起すと赤く変色している顔を自分の方に向ける。ぐったりと力が抜けた身体は見た目以上に重い。
「ぅ……」
「妖刀ちゃん大丈夫?聞こえる?」
白い歯が綺麗に並んだ口が僅かに開かれていて、照明の光を入れるようにしながらその中を覗き込む。
幸い吐しゃ物が詰まって気道を塞いでいる様子はない。
それを確かめながら、閉じられた瞼が僅かに痙攣するのに気付く。
「ぁ……ぅ……」
「大丈夫?気持ち悪い?」
霞がかかったような視界で悠を捉えた妖刀の目。
意識を失って数秒だが、その事には気付いているようだ。
「私……」
「お酒かなぁ。吐き気は?」
弱々しく横に首を振る。
「じゃあトイレは?」
もう一度。
「だ、大丈夫……だ」
その答えを証明するように自身の身体に力を入れる妖刀。抱き起された姿勢から自分で上体を起こす。
「暑い……」
「お酒だな」
息が上がっている姿に、悠は少し笑いながらそう結論付ける――安心が漏れた笑い。
「そんなに弱かったのか……お水飲む?」
「あ、ああ……。大丈夫……自分で出来る」
「駄目です。まだ動かないで」
立ち上がろうとする妖刀の両肩に手を置いてその場に座らせる悠。いつもには無いきっぱりした口調だ。
そうしておいて自らは台所に向かい、その間妖刀は近くの椅子に上半身を預けていた。
椅子の背もたれに頭をつけて、喘ぐように天井を見上げる。倒れた時ほどではないが体の感覚が戻りきっておらず、体の内側からの熱と合わせてこの前病に伏せていた悠はこんな気持ちなのだったのだろうかなどと考えながら。
「はい。飲める?」
「ありがとう……」
その本人から受け取ったコップの中身を一気に煽る。
冷たい水が熱い体の中に流れ込んでいく。
「もともと弱かったのと、睡眠不足も祟ったのかもね」
空いたコップを受けとりながらそう言うと、手の中のそれを机に置いて妖刀の脇の下に自分の首を密着させた。
「さ、立てそう?」
「大丈夫だよ。一人で……」
「駄目!酔っ払いの大丈夫は一番信用できません」
きっぱりと言い切りながら腰に手を回してゆっくり立ち上がると、そのまま介護のように連れだって居間に戻り、畳の上に彼女を座らせる。
「今布団敷いちゃうから、今日はここで寝て」
「いや、自分の部屋に戻――」
「階段で倒れたら危ないでしょう。トイレにもこっちの方が近いからそうして」
「そんなにしなくても――」
「いいから!」
言い争う体力もなく――その現状が悠の正しさを示していると理解するぐらいには回復した頭もあって――言われるままにする事にした妖刀の横で、悠は床に十分なスペースを作ると、先程しまったばかりの布団をもう一度そのスペースに広げた。
(こういう時は頼もしいな……)
いつもとは正反対な構図に自嘲的な笑いが漏れる。
同時にそうやって手を焼いてもらえるのがひどく嬉しくもあった。
「はい、お待たせ。さ、こっちに横になって」
「済まない。ありがとう」
どうしてそれが嬉しいのか、いつかそれが分かる日が来るのだろうか。
そんな風にぼんやりした頭のどこかで考えながら、言われた通りに布団に倒れ込んだ。
(つづく)
今日も二本立ていきます




