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あやしの神社の反魂さん  作者: 九木圭人
行く年来る年
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行く年来る年2

 「それで?結局あの時どうやって断ったの?」

 その時有耶無耶になってしまった事を再び問いただす悠。

 貰った時には初めての、それも想定外の事態に随分と取り乱していた妖刀だったが、その翌日にはしっかり話をつけていた。

 その答えがイエスだったかノーだったか、この一年で暮らしに何の変化もなかったことが物語っている。


 「う、うるさいな!秘密だ、秘密!」

 一層頬を赤らめ、白い巫女装束の上と合わせてマッチみたいになりながら話を切り上げる妖刀。その一環として話題を逸らす。

 「そ、それより!酒だのなんだのの準備は出来ているのか?この後すぐ来るぞ」

 「大丈夫。その辺はもう終わった」

 零細神社は零細神社なりに忙しい。

 特に綾篠神社は氏子の他にも諸々の関係で人づきあいが多い――それも、大多数は老人である。

 毎年大晦日の夜にはそういった人々が集まり、日付が変わる頃までその集会が続く事になっている。

 要するに隣近所が集まる忘年会のような物だが、それへの応対もここの巫女の役目でもあった。


 田舎特有の煩わしい人間関係――そう言えばその通りなのだが、かといってそれを欠かしてやっていける所でもない。ついでに言うと、悠も面倒とは思いながらも、許容できない訳ではなかった。

 酒出しておけば勝手に盛り上がっておいてくれると言うのもあるが、巫女になる前、フリーター時代のバイト先という経験によるものだ。


 この時期、酒を提供する飲食店は地獄である。それに比べれば随分と可愛いものだ。


 「よし、それでOK」

 「ありがとうございます」

 それから暫くして、普段は反魂に用いる境内の隅の建屋の中で、妖刀はバイトたち相手に巫女装束の着付けを指導していた。

 相手にとっては初めての経験だ。本当は妖刀が着せてしまった方が早いのだが、それではトイレに行く時などに困る。このためバイト二人にそれぞれ着付けを教えているのだが、バイトの物覚えがいいのか、教え方が上手いのか去年といい今年といいスムーズに進められている。


 「それじゃあ、さっき説明した通りにお願いします」

 「「はい」」

 特設の授与所――実情に沿って言えば販売所。

 普段は反魂用のこの場所を臨時に用いるこの時期だけのもの。

 部屋の奥側半分を陣幕で隔て、更衣室にしている奥側から授与窓口のある普段の出入り口側に出る。


 忙しくなるとは言え、まだその時までは少し時間がある。

 人のいないこの時間ならバイトだけに任せておいても問題はあるまい。そう考えて妖刀は二人の席近くの柱を指で示した。

 「ちょっとの間外しますね。何か分からない事があったら内線してください。受話器を上げて1で繋がりますから」

 一年でこの時しか使わない内線電話。普段は存在すら忘れられているそれの使い方は、昨日思い出して確認した。


 「それと、足元にこれを。寒いでしょうから」

 「あ、すいません」

 「ありがとうございます」

 電気ストーブのコードを限界まで伸ばすと、二人用の窓口の両方の席に当たる位置まで持ってくる事が出来た。


 一通り準備を終えると、本殿を横切って社務所へ。

 酔っぱらい特有の加減の効かなくなりつつある大声が渡り廊下からもかすかに聞こえてくる。

 その声の方向に進み、ちょうど接待の隙間だったのだろう、奥に戻ってきた悠と鉢合わせした。

 「お疲れ様。そっちは大丈夫そう?」

 「ああ。社務所の方代わるよ。今のうちに夕食にしておけ」

 妖刀が腕によりをかけた年越しそば。これから酔っ払いたちが出来上がってくる。バイトのフォローもあると考えると、年内に味わって食べられるのはこれが最後のチャンスだろう。

(つづく)

新年早々投稿大変遅くなってしまい申し訳ございません

少量でも物を書く前に酒を飲んではいけない(体験談)

今回は二本立て

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