行く年来る年1
年の瀬。神社にとっては最大の繁忙期。
吹けば飛ぶような零細神社でもそれは変わらない。
終戦記念日翌日に発症した悠の風邪もその後すぐに治まったが、病み上がりの彼女を待っていたのは年末に向けての膨大な準備作業だった。
各所の掃除、年末年始に向けた準備、お焚き上げやお札納めの受け入れと言った表向きの業務の他、今やめっきり数を減らした氏子の総代への事務連絡や納入されたお札やおみくじの作成もこの時期に行われる。
こうした品々は毎年業者に発注しているものの、納入時に完成している訳ではない。札に綾篠神社のものであると示す判を押し、箱詰めされているおみくじの用紙を一枚ずつ折りたたんでいくのは全て悠と妖刀の手仕事によるものだ。
毎年心が壊れるような気がしてくる――作業中の悠の言葉。
無理もない。机に向かってただひたすら決まった場所に判を押し、決まった形に紙を折りたたみ続けるのだ。
向かい合って同じく作業している妖刀から「辛いのはうちだけじゃないぞ。頑張れ」と――自分に言い聞かせるように言われながら何とか完成したのは、既にクリスマスの騒ぎも終わり、本格的に年末ムードが漂い始めた頃だった。
ちなみに、妖刀が言う「うちだけじゃない」の根拠は他の全国の神社――ではなく、毎年この時期に東京の展示場で行われているイベントのニュースを見てだが。
そして、遂に迎えた大晦日当日。
数時間後に始まる一年最大の繁忙期を前に、社務所の前に人だかりができていた。
「それでは、良いお年を」
寒そうに背中を丸めた氏子たちを見送る悠。
年末の挨拶やら様々な人間関係は年末においては業務と呼べるほどに頻繁に起きる。
「……さて」
無人になった境内を一瞥して一息。
既に一年最後の日が沈み、空は紫から濃紺に変わりつつあった。
不意に吹き抜けた寒風に思わず身を縮ませて社務所に戻ると、奥の台所からは軽やかな包丁の音が聞こえてくる。
「みんな帰ったよ」
「ああ、お疲れ様」
台所に入り、年越しそばの準備をしている妖刀の背中に声をかける。
茹でる蕎麦は三人分。この時期は短期バイトを雇うが、彼女達の分も一緒に用意している。さながらまかない飯と言ったところか。
それを用意しながら時計に目をやる妖刀。
「バイトの子達が来るまでには間に合うな」
昨年から、この日の蕎麦には妖刀は密かに力を入れていた。
そんな彼女の心を知ってか知らずか、悠は思い出したように小さく笑って語りかける――少しからかうように。
「今年は貰えるかな~?ラブレター」
「なっ!!?」
思わず振り返る妖刀。
その頬はぽっと赤く染まっている。
「も、もういいだろう!?その話は!」
去年。いや、今年の話か。
隣町の女子高の生徒を臨時の巫女として雇った時の事だった。
主にバイトの役目はお札やおみくじの頒布――つまり販売担当で、悠と妖刀の手が空いた方がそれぞれ指導したり、一緒に仕事に当たったりしていたのだが、雇った二人のうちに一人が三が日の、そしてバイトの最終日に妖刀にそれを渡したのだった。
当然、妖刀は面食らった。
そんなものを貰ったことは初めてであったし、そもそも同性から貰うものではない。
だが相手はごく真面目でそういう冗談とは思えなかったし、第一人気のない場所に呼び出して真っ赤になって差し出してくる姿は、とても冗談という様子ではなかった。
(つづく)
新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
つづきは本日の昼ごろにでも




