寒さ、疲労、少しの油断7
「……ぃ、ぉ……」
「ん……」
「おい起きろ!アホ巫女!」
悠が自分が眠ってしまっていたという事に気付いたのは、そこが初めてだった。
「……あ」
「全く……。炬燵で寝るな。風邪ひくぞ」
もぞりと気怠い体を起こして、再び閉じようとする瞼を押し上げる。
「あ……おはよう」
隣を見上げると、小さく溜息を一つ吐きながら妖刀が見下ろしていた。その手には二つに折られたA4サイズの紙が一枚。
「本殿の片付け終わったぞ」
「ああ、ありがとう」
「それとこれ」
持っていた紙を開きながら差し出す。
岸本屋――近所の蕎麦屋のメニュー表。
「今から用意していては遅くなってしまうから今日は出前にしようと思うが、どうだ?」
「うん……」
言いながら差し出されたメニューを受けとり一瞥。
昼に食べたおにぎり以降何も食べていない筈だが、不思議とそれほど空腹感が無い。
「決まったか?」
「うん。温かい月見うどんにする」
答えながら立ち上がる悠。
電話に向かおうとするが、妖刀が先に回る。
「もうすぐ風呂が沸く。二階に取り込んであるからタオルやらなんやら持ってきてくれ」
言い終わるとともに受話器を上げダイヤル。
悠は言われた通り――まだ少しだるい体を持ち上げて――二階に上がる。
社務所の二階は基本的に居住スペースになっており、階段の近くに悠の、奥に妖刀の部屋がそれぞれあるだけだが、その妖刀の部屋の向かい側。丁度階段の上に位置している物置代わりの小部屋にだけ小さいバルコニーが設けられており、洗濯物はもっぱらそこに干される。
貴重なスペースであることもそうだが、社務所の陰になっている事で境内から見えないのが大きい。
「うぅ……寒い」
一応エアコンは設置されているが、人がいない場所を暖めておくような贅沢は出来ない。
炬燵から出たばかりの身体には応える寒さに身を縮めながら風呂の支度をして、冷気から逃げるように下に降りると、丁度妖刀が注文を入れている所だった。
「――はい。以上です。はい……。よろしくお願いします」
受話器を置き、同時に悠に気付く。
「風呂先に入っていてくれ。そのうち出前も来るだろう」
言いながら相手を追うように居間へ。
そのまま彼女も炬燵に滑り込む。
「はぁ……。やっぱり冬はこれだな」
「だよね~……」
ほうっと、二人の吐息が同時に漏れる。
「そう言えばさ」
「なんだ?」
「妖刀ちゃんて、電話の時ちょっと声高くなるよね」
突然の指摘に、妖刀ははっと息をのむ――自覚はあったが指摘されると妙に恥ずかしい。
「そ……そう、かな……」
何となく居心地が悪いような気がして、しらを切りながら視線をちゃぶ台の天板に落とす。
その姿が、悠には妙に面白かった。
「ハハハ……ケホッ!?」
突然笑いに咳が混じる。
「どうした?」
「う、ううん。大丈夫……ケホッ、ケホッ!」
言葉とは裏腹に身体は更に何かを吐き出そうと咳を繰り返す。
「……本当に風邪ひいたか?」
「い、いや。そんなことないって……」
風呂の準備が出来たことを伝える電子音が鳴り響いたのは、その咳と同時だった。
「じゃあお風呂入って来るね」
話を切り上げるように炬燵から飛び出す悠。
今日は寒い。妙に冷える。
(つづく)
投稿遅くなりまして申し訳ございません。
続きは今日の夜に。




