寒さ、疲労、少しの油断6
「皆様お帰りになられました」
そう告げた時、外は既に真っ暗になっていた。
時刻は午後7時少し前。最後の集団反魂がたった今終わった。
「どうぞ気を付けてお帰りください」
迎えにきた妖刀と共に参拝客たちを鳥居まで見送る。
口々に礼を言って帰路につく彼らの姿に、悠は疲れている筈の身体が少し軽くなるのを覚えた。
「さて、今年も終わった!」
全員の姿が見えなくなった時、その心が現れたような弾む声でそう呟くと、妖刀が頷いた。
「遅くまでお疲れ様。本殿の片付けは私がやっておく。先に社務所に戻って暖まっていてくれ」
思わずそれに同意しかけ、それから首を横に振る。
反魂さんとしての矜持というか責任感というか、悠の――仕事以外ではあまり表れない――感情が暖かな室内への誘惑に待ったをかけた。
とは言え、本能的な暖かさの魅力には中々に逆らい難い。
「あー……でも……」
「気にするな。一日あの寒い本殿にいたんだ。ゆっくり休んでくれ」
そう。そうしたい。
だが、抗う気持は消えていない。
「じゃあ、お願い。私は遺品戻してくるから」
それは自分がこの神社と一緒に引き継いだものだ。
それだけは――たとえそれが妖刀でも――他人に任せる訳にはいかない。
誰にも分からない悠だけのこだわりだが、或いはそれだからこそ譲れないのかもしれなかった。
「よし、これで最後……っと」
作業自体はすぐに終わった。
場所はもう覚えている。後はただ運び込むだけだ。
全ての遺品を戻し、念のためソーサリウム濃度を測定するが、どれも濃度計の下限を下回っている。
「今日も一日お疲れ様でした!」
最後に保管庫にそう言って深々と一礼して社務所へ戻る――いつもよりだいぶ早足に。
「ふぃ~、暖かい!」
最後の反魂の間に片づけたのか、それまで人が集まっていた痕跡は既に無くなっていたが、暖かな空気だけは例外だった。
「はぁ~……極楽。……ん?」
社務所の奥の居間。
そこに置かれているちゃぶ台が、今日は布団をかぶっている。朝には無かったはずだ。
「おおっ!?」
吸い寄せられるようにそこへ。
布団の下に手を入れると、じんわりと熱気が伝わってくる。
「流石妖刀ちゃん!」
まだ戻っていない相方を賞賛し、その布団の中に潜り込む。
処女雪ならぬ処女炬燵に足を入れると、その暖かさに押し出されるように一日の疲れがどっと噴き出した。
それは炬燵の魔力と言うべきか、熱が麻酔のように体に広がり、力が抜けていく。
「はぁ……」
抗いがたい魅力に仰向けに転がると、重くなっていく瞼に逆らう気すらも起こらなかった。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に。




