表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者にいきなり殺されかけた  作者: さつき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/40

恋に落ちる瞬間

 これが私が選んだ展開です。

 俺を愛してくれないリアなんていらない。

 リアの心が欲しかった。

 欲しくてたまらなかった。

 だけど、俺にはどう頑張ってもリアの心は手に入らない。

 気が付いたら、リアの首に手を当てていた。

 ほんの少し力を込めれば、リアは死ぬ。

 リアの全ては俺のものになる。

 けれども、力が入らない。

 リアが欲しいのに、姿も見えない、声も聞かせてくれない、笑顔も見せてくれない、言葉もくれないリアなんて嫌だ。

 死んだリアなんて欲しくはない……。

 

 パリン。

 窓が割れる派手な音がした。思わずリアから離れ剣をとった。

ガラスをぶち破って現れたのは、夜明けを思わせる紫色の髪をした少年ロディオン・ディブレイク。

 そして少女を守るかのように俺の前に立った。

「リア、話が違う。お前も死ぬつもりだったなんて俺は聞いていない」

 彼は、ナイトのようにリアを安全な場所に避難させて優しくそう語りかけた。

「僕もそんなエンディングは認められない」

 そう言いながらドアから現れたのは、黒い髪の髪をした少年ノワール・ブラック。

 二人は、俺を殺そうとするように挟み撃ちにして剣を取った。

 最初から二人ともリアの本心を知っていたのだ。

 俺を殺すことに協力していたのだ。

 そんなことに少しも気が付かず

 自分を騙しているはずの少女をすっかり信じて愛を語り

 少女が本当に信頼している人間にも気がつかなかった。

 俺はまるでピエロだ。

 そして、リアを守るナイトになりたかったはずなのにリアを殺すために戦おうとしている。


 本当に俺はバカな男だ。


 

 

 勇者に殺されかけた私は、まだ生きていた。

 首にあざが残っているけれど、命に別状はなさそうだ。

 ノワールは、さっそく勇者に向かって剣を打ち込んだ。

 ノワールは、かなり剣が強かったみたいだ。あんなに早く剣を裁ける人間は初めて見た。

 けれども、勇者はそんなノワールから力づくで勝利をもぎ取る。彼の剣を無茶苦茶な方向へバカ力で吹き飛ばす。

「くっ……」

「ノワール!」

 肩を押さえながら床に転がるノワール。

 ロディが勇者に向かって大量の蟲を放つ。それらは一瞬にして燃えた。

 炎に強い虫は全部、切り刻まれていた。

 嘘でしょう。

 だって、この間はそんなことできなかったのに。

 ロディの剣も軽々と受け流し、彼を思いっきり蹴り飛ばす。 

 血を吐きながらロディは倒れた。

「何で……あなたはそんなに強くなっているの?」

 おかしいじゃない。あの時はロディにボコボコにやられていたのに。

 どうしてこいつはこんなに強くなっているのだろう?

 私を守るためには全力を尽くしていなかったとでもいうのかよ!

 けれども、勇者はどうして私がこんなことをわからないのかとでも言うようにはっきりと答えた。

「そんなのたった一つに決まっている」

 私と視線を合わせることもできないエメラルドグリーンの瞳には、傷ついた色が滲んでいる。


「リアを守るために強くなったに決まっているじゃないか!」


 その声が心にこびりつき離れない。 

 その言葉と横顔に自分が塗り替えられていく気がした。

 心臓が破れそうなくらいに暴れまわっている。

 魂が奪われるような強烈なときめきを感じた。

 これほど誰かにときめくことができる瞬間は後にも先にもないだろう。

「好きな人くらい守れない自分がひどく情けなくて

 血反吐を吐きながら強くなりたくて必死で努力したんだよ」

 これほどせつなく、悲しく、まっすぐしていて、暖かくて、素敵な愛の言葉は聞いたことがなかった。

 その救いようがなく傷ついた顔を見ながら、初めて勇者を一人の人間として意識した気がした。

 私は、それまでは勇者を肩書や、憎しみの対象で見ていたのだろう。

 けれども勇者の本当の気持ちを知って、初めて彼をルーカス・ダナフォールという一人の感情のある魂の持ち主だと認識したのだ。

 認識することがとても遅かった。

 もう取り返しのことをしでかした後だったのだから。

 なのに。

 私の……ため……だった。

「バカじゃないの。

 私はあんたが大嫌いで、殺そうとしていたのに……ゴミのように捨ててしまおうとしていたのに……」

 本当に勇者はバカだ。

 

 いや……バカは私だ。


 彼はもう傷ついた顔をしていなかった。

 仮面を被っているかのように、感情全てを殺した無表情だ。

「もういいよ」

 形のいい彼の唇から、何かを切り捨てるように温かみの欠片もない声が漏れた。

「君を信じていた俺がバカだった」

 信じていた。

 信じられていた。

 そうだ。そうするように仕向けて、私は結局こいつを裏切ったのだ。


「お前なんかいらない」


 強い拒絶と決意。

 悲しさと残酷さ。

 決別と軽蔑。

 全てが込められている気がした。


 もうその決意を取り消すことは不可能なように思えた。


「待って、私……」

 気が付いたら去っていく背中に手を伸ばしていた。

 けれども、その手が届かなかった。

 私の足を彼の方へ動かすことができなかった。

 あれ?

 私は何を言いたかったのだろう?

 どうしてこいつを呼び止めてしまったのだろう?


 もっとこいつのことを知りたくなって、

 私のことももっと知って受け止めて欲しいのに、

 私たちにそんなことできるはずない。 

 今更、あなたにときめいたなんて言えず、

 もう一度やり直したいなんて言葉にならず、

 行かないで欲しいなんてすがりつけず、

 側にいてと泣くこともできず、

 

 言葉を失った。


 伝えたい思いは届けることができない。


 そんな術などわからない。

 

 出口のない森の中に置き去りにされた迷子のような気分だった。


 勇者は一瞬だけ私を振り返った。


 彼は、私を冷たい目で見ていた。


 あの純粋な笑顔は二度と見ることができない。 


 エメラルドグリーンの瞳はもう私のために輝かない。

 

 勇者は去っていた。


 心にぽっかり穴が開いている。魂を彼と共に失った。

 私が私である証をなくしてしまったようだ。


 自分が決して失ってはいけない大事なものを失った気分だった。


 読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ