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勇者にいきなり殺されかけた  作者: さつき


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33/40

殺人依頼

 ここから一気にクライマックスへ。

 休日の朝早く、私はこっそり家を抜け出しロディに会いに行くことにした。

 勇者の目を盗んで他の男に会いに行くとか自分が浮気でもしているような気分になる。

 これは断じて浮気ではない。

 ただの勇者を殺す依頼をしに行くだけだ。

 まあ、その方がずっと悪いか。

 魔王城の近くまで来たら、ロディが迎えに来てくれた。きっと蟲を使って私のことを見つけたのだろう。

 私を見つけたロディは、うれしそうにニヤニヤとした下品な笑顔を浮かべた。美しい灰色の不気味が、濁った輝きをする。

 何でイケメンなのに、笑顔はこんなに下種顔何だろうな?

 やっぱり性格の悪さがにじみ出ているのだろうか?

「久しぶり、ロディ」

「ああ、久しぶりだな。待っていたよ、リア」

 そう言ってなめまわすようにじっくりと私を見てきた。

 何、この視線。ねっとりとしていて気持ち悪いな。

 さて、どうやって本題を切り出そうか?

「じゃあ、お茶でも飲みながら話すか」

「……うん」

 魔王は、意外と優雅であった。

 何、このギャップ……。


「で、欲求不満なリアは俺に抱かれにきたの?」 

「違います」

 そんなこと断じてない。世界が崩壊してもありえない。

「お願いがあってきたの」

「リアが俺にお願いか。ふーん。どんなお願い?何でも叶えてあげるよ」

 ロディは、最低最悪な下品な笑顔を浮かべた。灰色の目が生贄を見つけた悪魔のように輝いた。

「勇者を殺して欲しいの」

「いいけど。俺は高いよ」

 そう言って悪魔の笑みを深めるロディ。嫌な奴だ。

「そうやってお金を巻き上げていくのね。いくら?」

 このぼったくり、庶民の敵。しかし、今は奴の手助けを借りなければ復讐なんてできない。

「いや、お金だとリアも絶対に払い切れないくらいの金額だ。体で支払うなら一回でいいけど」

 まあ、何それ?お得じゃない……なんて思うわけない。

「はあ?」

 思いっきりロディを睨み付ける。この女の敵が!

 けれども、アドバンテージをしっかりと握ったロディは私の言葉で少しも揺るがなかった。私の耳元に顔を近づけ優しく囁いてくる。

「で、どうする?」

「……」

「……」

 お互いに目を見つめながら黙り合う。

 どうするじゃない……。

 く……この悪魔。

「で、どうして迷っているの?

 愛した男を殺した奴の仇を取って欲しいんだろ」

 悪魔のような笑顔で、甘い囁きをしてくるロディ。

 くそ。何か操られている気分だ。

「いや……でも……」

 よ、よりによってロディと寝るとか……ちょっとあれじゃない。

 大人の階段を上るどころか、上ってはいけない階段を上ってしまうんじゃないか?

 地獄への階段を上った方がまだましかもしれない。

「そうか、そうか。そんなにためらうなんて、俺を男として意識している証拠だな」

 彼は、余裕の顔で私の髪の毛を弄び出した。

「そ、そんなわけないでしょう。

 あなたなんて人間とすら意識してないわよ」

 売り言葉に買い言葉で、ついひどいことを言ってしまった。

「なら、俺と寝るくらい全然問題ないよね。俺と寝るくらいペットに噛まれたような気分でいればいい。怖がる必要なんてどこにもないよ」

 くそ。こいつには勝てる気がしない。

「どうするの?」

 ロディは、迷っている私を見るのを楽しむようにニヤニヤしながらまた聞いてきた。

 これはファウストを誘惑するメフィストそのものだ。

「わかったわ。あなたのその条件を飲んでやるわよ!あなたが勇者を殺したら、私はあなたと寝てやるわよ」

私は決闘を申し込まれた剣士のような気分になって潔く返事をしてしまった。

「楽しみだな」

 そう言って、ロディは獲物を見つけた飢えた肉食獣のように自分の唇を舌でなめた。

「ねえ、ロディ。私が彼を殺すことについてはどう思っているの?」

 やっぱり本性は醜い女だと軽蔑しているのだろうか?

「俺はお前が勇者を殺そうとしていくこと自体は構わない。

だけど、お前がシャルルのために勇者を殺そうとしているのは気に食わねぇな」


 その時、機械のように冷たく、人間味のない声が響いた。


「ふーん。二人で勇者暗殺計画を練っているのか」


 声のした方を振り返ってみる。

 夜のように黒い髪の毛、空をはめ取って入れたような青い目。 

 漆黒の王子様、ノワール・ブラックがそこにいた。

 ノワールが美少年であるせいか、迫力が半端ない。

「ど、ど、ど、どうしてノワールがここにいるの?」

「だってリアはこの間誘拐されたし危険だからついてきた」

 ……というより目の前にいる男が誘拐犯だ。

 ロディは、自分には関係がないとでも言うように余裕な顔をしている。きっと嘘をつくことになれているのだろう。

「リアが勇者の暗殺計画をするなんて見損なった」

 青い瞳は、真冬の氷のように冷たかった。

「どうする、リア?口封じするために、こいつを殺すか?それとも精神をおかしくする薬を打ち込むか?」

 ロディは、私の小声で物騒なことをサラりと囁いてきた。

「何てひどいことを。でも、仕方がないわ。勇者を殺すまでの間は眠っていてもらいましょう」

 しかし、ノワールは信じられない言葉を言った。

「僕も協力する」

 ん?

 一瞬、私は石になった。それからすぐに絶叫する。

「ええええええええ!」

「あれ?」

 さすがのロディも驚きと隠せないようだ。

 ノワールは、驚いた顔をしている私たちを冷静に見ていた。

「え?ちょっと待ってよ。今。私を見損なかったって言ったじゃない」

「それとこれとは話が別だ。だってライバルは減った方がいいしね」

 ライバル?何の話だろうか。

「何をやっているの?」

「勇者の計画を練っているに決まっているじゃない」

 反射的に答えてしまってはっとなった。

「勇者の計画?」

 その声は勇者だった。ホワイトプラチナの髪の毛が風になびいている。エメラルドグリーンの瞳の瞳には、疑問の色が浮かんでいる。

 私の背筋に冷たい汗が伝う。

「ちょっと、何であなたまでいるの?」

「そんなのリアとノワールをつけてきたに決まっているじゃないか」

 そんなに堂々とストーカーだと認めないでよ……。

「俺だけ仲間外れにするなんてずるい。俺も話に混ぜてよ」

 ……。

 仲間外れというか、あなたの暗殺計画を練っていたんですけれども。

 自分の暗殺計画に、自分も参加するとでも?

 そんなあほな話は今まで聞いたことがない。

「ほら……勇者にはちょっと秘密というか」

 何とか言葉をひねり出した。

「サプライズの計画だから」

 ノワールも助け船を出してくれた。

「そう。君の誕生日の計画を練っているところよ」

 そして、とどめにロディがしゃあしゃあと嘘をついた。

 こいつは、こうしてよく回る舌を持って幾度もの修羅場をくりぬけてきたのかもしれない。

「どうして俺の誕生日が三日後だって知っているの?」

 え……三日後だったのか!衝撃の事実でした。

「まあ、風のうわさで」

 それを聞いた勇者は、泣きそうな顔をした。

「俺さ、ずっと自分には未来なんてないと思っていた。

 だけど、こうして生きることができて、誕生日を祝ってもらえだなんて嬉しい」

 私を力強い腕で思いっきり抱きしめた。

「生きていてよかった」

 勇者は、太陽のような笑顔を浮かべた。

「リア大好き」

「そ、そう。私も勇者は嫌いじゃないわ」

 何を言っているんだろう?

 今すぐ八つ裂きにしてしまいたいくらい大嫌いなのに……。

「勇者じゃない。ルーカスって呼んで」

「る、ルーカス」

 彼の目が満足したように細められた。

「リアは俺を見て。

 勇者でも、絶世の美少年でも、伝説の男でもないただの俺を見て」

 ……こいつ、さらりと自慢したな。

「うん」

 そう適当に返事をしても、私は彼をシャルルの敵としか見られなかった。

 それ以上それ以下でもない。

 勇者を人間として意識することすら不可能な気がした。

 こいつは無邪気で、純粋で、従順で、私を信じている。

 私達はそんな勇者を見て苦いお茶でも飲んだような顔をしていた。

 べ、別にちっとも罪悪感なんて持っていないし……。

 でも。胸に何かが引っかかった。


 それを押し殺すようにシャルルのことを思い浮かべた。


 あの痛みは、きっと忘れることはない。


 その痛みがある限り私はいくらでも自分の感情を殺せるだろう。


 前へ、前へ進み続けろ。


 未来のことなんて知らない。

 

 自分が選んだ答えだろう。


 後悔したり、罪悪感持ったりすることは、未来ですればいい。


 ためらうな。優しさなんて切り捨てろ。


 読んでくださりありがとうございます。

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