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勇者にいきなり殺されかけた  作者: さつき


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32/40

愛なんていらない

 これはすごい流れにのって随分前に書きました。

 

ジル・キャットの章

 雪が解け始めた春の日、私は天使を見た。

 太陽の光を浴びて光り輝く金髪、深みのあるエメラルドグリーンの瞳、人形のように整った顔立ち、形のいい鼻筋、妖精のように綺麗な雪みたいに白い肌、スラリとした細長い体系、バラのように色づく頬。ほっそりとした長く美しい手。

 これほど美しい人は初めて見た。

 そして、その瞬間、私の鼓動は高鳴りだした。

 私、ジル・キャットは、七歳の春、ルーカス・ダナフォールという美少年に一目惚れをしたのである。ルーカスが私の全てになった。

 しかし、ルーカスは、病弱で死にかけていた。

 彼を助ける手段はなかった。たった一つの禁断の方法を除いて。

 私は、先代の魔女ベリー師匠から『どんな願いも叶う方法』ということを聞いたことがあった。

 絶対にやったらいけないと言われている禁断の黒魔術の一つだが、いざという時のためにベリー師匠は私に教えてくれた。

 それは、『悪魔と契約する』という方法であった。


 私は、日に日に弱っていくルーカスを見捨てることができなかった。

 悪魔と契約をすることにした。

 ルーカスが全てであった私には、最初から他の選択肢なんてなかった。

 真夜中に、呪文を唱えたら、信じられないくらい醜い悪魔が現れた。

 そいつは言った。

『この指輪いっぱいに憎悪、嫌悪を集めることができたら、一人の人間の命を引き換えにお前の願いを一つ叶えてあげよう。ただし、死んだ人間は生き返らすことはできない』

「どうやって憎悪を集めればいいの?」

『それは契約者であるお前がひたすらみんなから嫌われればいいだけだ。この指輪が黒くなったら憎悪がたまった証拠だ』

 指輪は無色透明だった。


 そこから、私は全てを捨て嫌われることだけを求めた。

 愛なんていらない。

 優しさなんていらない。

 友達も、恋人もいらない。

 誰にも好かれなくていい。誰からも認められなくていい。

 全ての人に見下され、軽蔑され、失望されてもいい。

 大丈夫。私はまだ孤独に支配されていない。孤独を求めてさえいる。

 一人の世界を作り上げることができたら、きっと私は傷つかない。

 誰の言葉も私に届かないだろうけれども。

 ぬくもりは全部、いらない。そういうものは全部捨てるから……私のたった一つの願いだけは叶えてみせる。

 町中の人間には、ありとあらゆる嫌がらせをした。

 友達にも全員から嫌われるようにみんなをバカにした。純粋そうな男の子の恋心を弄び、その後、『ブサイクのくせに私と釣り合うと思っているの?』と言ったりしてどん底に落とした。

 ルーカスにも、嫌われる道を選んだ。彼のためにみんなを傷つけているのに、彼だけ傷つかないことはとても不公平な気がした。

 こうして悪女、ジル・キャットが誕生した。

 

 13歳になる頃、指輪は、もう少しで黒くなるところまできた。

 ふと、少しだけ昔の自分を思い出した。

 嫌われることが怖かった。

 怖くてたまらなかった。

 失敗して痛い人間になることを恐れた。

 笑われることをひどく怖がった。

 ああ、でも今になってようやくわかったよ。

 失敗したり、嫌われたりしたからこそ手にできる感情があると。

 同じ風景の繰り返しよりも、それはよかったんじゃないだろうか。

 まあ、ただの今を肯定するための言い訳じみた言葉だけどさ。

 

 あともう少し。

 そしてルーカスを助けることができる。

 その時が来たら……私はきっと彼に殺されるだろう。

 だって、彼の母親を殺す予定だったから。

 彼の母親ルチアーノを生贄として選んだ理由は、単純に許せなかったからだ。

 ルチアーノは、腐った性格をしていた。彼女は、己の欲求のためには手段を選ばない冷酷非情な生き方をしていた。心を読むことができる魔術を持っている私は、ルチアーノがどんなに最悪な人間かよくわかった。彼女が伝染病の患者を救おうとしているなんて嘘だ。彼女の目的は、永遠の美だけだった。永遠の美を追い求めていた彼女は、数々の人間を彼女の実験台にしていた。その中には、彼女と結婚したエドワードと彼女の実の息子であるルーカスも含まれていた。身近にいた家族だからこそ実験しやすいとばかりに、彼らを標的に選んでいたのである。ルチアーノが実験に失敗したからこそ、ルーカスは原因不明の病気になったのである。そんな彼女を許すことはできなかった。

 そして、ルチアーノの正体をルーカスに告げ、彼を絶望に落とすこともできなかった。ルーカスにとっては、ルチアーノは一番の味方であり、大事な母親だったのだから。


 あと少しで指輪が割れる。

 そんな焦りからひどい言葉を吐き捨てた私にルーカスは告げた。 


「俺は、お前なんか大嫌いだ!」

 

 私は、ルーカスのことが好きだよ。


 誰にも知らせず、ただ自分の心の中だけにある恋だった。


 決して叶うこともなく、告げることもできない虚しい恋だった。


 指輪は割れて、願いは叶った。


 私の人生はこの時のためにあったという気分だ。


 いつの間にか、死にそうな顔をしていたルーカスが立ちあがって私の前に立っていた。


「死ね」


 首を絞められていく。


 もう私の願いは叶ったのだ。

 とても幸せで満ち足りた気分だった。


「ルーカス……。強く…なってね」

 せっかく私が何もかも捧げて助けた命だから、簡単に死んだりしないで。

 生きて、いろんな人と出会って、いろんなことを経験してね。

 私はあなたを応援するよ。

 あなたの幸せを願っている。


 だけど、本当は。


 あなたの愛が欲しかった。

 

 


 こういう感情が書きたかった。こういうキャラが書きたかった。

 読んでくださりありがとうございます。

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