愛なんて生まれるわけない2
ジルはヒロインの一人です。
一週間後、再び俺の病室にジルはやってきた。
「久しぶり。あなたってその病院のベッドにいる様子が本当に似合っているわね」
意地のわるそうな笑顔を浮かべながらそう言ってきた。
せっかくのかわいい顔が全て台無しだ。
「美少年は、儚げな様子がぴったりとでも言いたいの?」
「豚には一生働けないで養ってもらうだけの豚小屋に住むような人生がお似合いということが言いたいのよ」
天使の顔をしながら、悪魔みたいなことを言い出す最低女。
「俺には引きニートが似合っているとでも?」
「そうよ。あんたはゴミみたいな人生を送るのがお似合いよ」
「大丈夫。俺がなるのはただの引きニートじゃない」
「じゃあ、何よ?」
「立派なイケニートだ」
そうしてイケメンスマイルを浮かべてやる。キラキラオーラ三割増しだ。
「何だ。ただのクズか」
ジルは俺をバカにするようにこう言った。
「俺は今の言葉で傷ついた。よって俺を慰めてくれ」
「あら、慰めて欲しかったの?同情してあげるからお金をよこしなさい」
つくづく嫌な女だ。
「大体、ルーカスは、きっと前世に悪いことをしたからこんなかわいそうな人生を送っているのよ。自業自得だわ。私が慰めるなんておかしいわ」
「その考えで行くと生まれ変わったら君はどんなひどい人生を送るんだろうね」
きっと生まれて間もなくナイフでズタズタに切り刻まれて死ぬようなひどい生き方かもしれない。
「何を言っているのかしら?私は悪いことなんて一度もしていないし、嘘もついたことのない素晴らしい人間よ」
……誰もそんなこと信じないだろう。
「本当に性格が悪いな」
どうしてここまで性格が悪くなってしまったのだろうか?
実は壮絶な過去でもあるのだろうか?
全然、想像できない。
俺には、生まれてから間もなく人に嫌がらせばかりする最低最悪な赤ちゃんしかイメージができなかった。
「何言っているの?私は世界一性格がいいにきまっているじゃない」
「いや、どう考えてもお前の性格は悪い」
そうきっぱり俺が言い切るとムキッという感じに睨みつけられた。
「それがどうしたの?ここまで性格が悪くなれるなんてめったにないことよ。
光栄に思いなさい」
ジルはとうとう開き直って、偉そうにそう言ってきた。
そんなことを光栄に思える人なんていないだろう。
「やっぱり性格が悪いと認めるのか」
「私は性格が悪くないけれどルーカスといたことで悪影響を受けて性格が悪くなった。つまり私は悪くない。すばらしく筋の通った論理的な思考でしょう」
自分の考えに満足するようにうなずきながらそう言った。こいつは、結構表情がコロコロ変わるな。見ていて飽きない。
「俺と初対面の時から、性格が壊滅的に終わっていたじゃないか」
「まあ、なんて失礼なひとかしら」
失礼なのはお前の存在だろう。
「そういえば、思い出した。お前に会ったら言いたかったことがある。いじめは、もうやめろ」
「いじめのどこが悪いの?この世の中が不公平な場所だから、それを修正する手段じゃない」
それはひどく傲慢で歪んでいて最低な考えだった。
ここまできてもまだ自分を肯定するのか。本当に死ねばいい、こんな性悪女。
ジルは、肩をすくめながら、堂々と自分の歪んだ考えを披露した。
「弱いものが苛められる。弱肉強食のどこが悪いの?生命が存在した時からある自然の摂理よ。食物連鎖と同じことだわ。正義とか、倫理観とか、道徳とか……くそくらえ!
そんなの人間を飼い殺された豚みたいに生きさせるための鞭と同様だ」
「そうな風に倫理観を無視すると他人を傷つけるだろう!」
「どうして人を傷つけることが悪いの?傷つけるつもりがなくても、みんなお互い傷つけあいながら生きているじゃない。人間なんて存在しているだけで誰かを傷つけているようなものでしょう。そんなに傷つくことが嫌ならさっさとくたばれ」
まるで地獄からの使者だ。早く地獄からお迎えが来てジルを連れ去ってくれればいいのに。
「お前は、倫理観に欠如し過ぎだろう。優しくされたら優しくし返したいとか、助けられたら恩返しをしたいくらいの気持ちもないのか?」
「恩返しをすることがすごいこと?そんなの社会に洗脳された生き方だわ。人間はもっと自由に生きていいはず」
「お前は絶対自由に生きすぎだろう!もっといろんなものを気にしろ」
しかし、ジルは変わらなかった。
相変わらず、2週間に一回くらいのペースでジルは俺をバカにするために来た。
10歳になった時、ジルは点滴を受けながら頑張っている俺に聖母マリアのように優しい顔をしながら向かって言った。
「大丈夫。あなたは頑張る必要はないわ」
そのままであなたは十分魅力的よとでも言ってくれるのだろうか。
「もうあなたの賞味期限は切れたから」
ジルは春一番のように爽やかな口調でさらりとひどいことを言った。
「どこが大丈夫だよ。俺はまだピッチピチの10歳だよ。ジルと違って輝かしい未来がある」
「未来……かあ」
てっきりいつものように俺に未来なんてないことをバカにするのだろうと予想していたけれども、ジルは哀しそうな顔をした。
このままだと自分がやがて破滅するルートをたどっているとでも悟ったのだろうか?
いきなり、真面目そうな顔をして質問をしてきた。
「ねえ、私の未来はどうなると思う?」
ジルの将来……。
お先真っ暗すぎてやばいだろう。
とりあえず自分が思いつく最低な死に方をあげることにした。
「うーん。バナナの皮で滑って転んで、頭を打って死ぬと思う」
その絶望に満ちた顔を今でも覚えている。
「な、何で私がそんな悲惨な運命を迎えるのよ」
「俺はバナナを食べるたびにジルがバナナの皮で足を滑らせて死にますようにって呪いをかけているから」
「器の小さな男ね。だからもてないのよ」
「ふん。俺は嫌われ者の君と違ってモテモテだ。絶世の美少年だからな。なあ、年頃の女の子なら俺のことをかっこいいとか素敵だとか思わない?」
鏡を見ても俺ほどの美少年はなかなかいないと言い切ることができる。
美人薄命だから俺は死ぬのかな……。
いや、その考えだとジルも早死にすることになる。
しかし、憎まれっ子世にはばかるという言葉もある。ジルは、早死にするのか、長生きするのかどっちなんだろう。まあ、どちらにせよ俺よりも長生きするだろう。
「そういう自分を好きなナルシストの人間に限って他の人の苦しみや痛み、嫉妬を踏みにじりながら無邪気に生きているのよ。そんな奴が宇宙にいるだけで罪だわ」
「俺が宇宙にいるだけで罪とでも言いたいわけ?」
「そうよ、今すぐ出て行け。イケメンというだけで生きているだけで罪なのよ。
あなたが生きているだけでどれほどの人間がたぶらかされて不幸になるか」
イケメンが生きているだけで罪になるなんて、何てばかばかしい世界だろう。
「俺は別に誰もたぶらかす気なんてない。
それよりもジルが生きている方が、みんなが不幸になるだろう」
「それがどうした?私に関係ない」
鼻息を荒くしながら冷酷な言葉をぴしゃりと告げるジル。
「世の中にはこんなクズもいるもいると思うとホッとするな。
君みたいな人間が存在していることを知って救われる人間がたくさんいるだろうな」
「人を見下して安心するなんて、あなたの方がクズじゃない」
俺はジルに比べたら何百倍も素晴らしい人間であると思う。
「そのセリフを言ったのが、君ではなかったら僕は自己嫌悪に陥るところだった。危ないな」
俺とジルはいつも舌戦で戦いあっていた。
少女を敵とみなさなければいけないような気がした。
彼女が俺を全力で嫌っているから、俺も彼女を全力で嫌ってあげないといけないというような変な使命感まで感じていた。
ジルから、俺がジルに憎悪や嫌悪以外の感情を抱くことを許されていない気もしていた。
ジルはどうして俺を嫌うのだろうか?
ジルが人を嫌うことで得るものとは何か?
そんなの人から嫌われることくらいじゃないか……。
彼女が考えていることは、わからない。だけど、何かが引っかかった。
読んでくださりありがとうございます。




