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勇者にいきなり殺されかけた  作者: さつき


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愛と美3

 物語よりも人間を書きたいな。

 僕たちは、しょっちゅう花園で待ち合わせをしていた。

 けれども、あの日、初めてルチアーノは約束を破った。

 花園では、約束した時刻になっていてもルチアーノは来なかった。

 一時間たっても彼女は来なかった。

 彼女が約束を破ったことなんて一度もなかったので、僕はすぐに彼女が来るに違いないと何時間も待ち続けた。

 やがて太陽が沈みだした。

 美しく、気高く、儚げに咲いていた花園にあるいくつもの花は、夕日が沈むと同時に輝きを失って見えた。


 すっかり太陽が沈んだ後、ようやく僕はその場を立ち去った。


 完璧だった花束は時間と共に萎れていった。

 枯れた花はもう再び華やかに咲くことはない。

 ただ最後の時を待つだけだ。


 その日の夜中に、一人の美少年が私のものへやってきた。

 ルーカス・ダナフォール。

 エメラルドグリーンの瞳がとても暗い色を宿していたことを覚えている。

 彼は、ポツリと漏らした。

「母さんが死んだ」

 その言葉は、どうしても信じたくないものだった。

 信じがたいものだった。

 そんな残酷な真実を信じるくらいなら、死んでいた方がまだましだっただろう。

「嘘だ!そんなことあるわけない。

 そんな冗談を言うな」

 どなりつけるように吐き捨てた。

 それでも、エメラルドグリーンの瞳はひるまなかった。

「本当だ。ジル・キャットに殺された」

「嘘だ!ルチアーノが死ぬわけない。

 太陽が空で輝いているのと同じように、ルチアーノだってずっと輝いている!彼女がいなくなる?そんなことあるわけないだろう」

 ルチアーノという太陽が死んでいるのに、僕が生きている。

 そんなことありえない。

 嘘だ、嘘だ、嘘だ。

 そんなの全部嘘に決まっている。

 ルチアーノは、あんなにも輝いていた。

 その輝きが一瞬にして消えるなんてことはあってはならない。

 僕は、お別れの挨拶すらも言っていないじゃないか。

「本当だ」

 低く滑らかな声が残酷な真実を告げる。

 どんなに美しい花でもいつかは枯れる。

 どんなに綺麗は花でも永遠に美しいわけではない。

 そんなことわかっていた。

 だけど、ルチアーノが輝きを失うという事実は簡単には受け止められなかった。

「今すぐ、ルチアーノに会わせろ。そして一刻も早くこの悪夢から解放さしてくれ」

 ルーカスは、かわいそうなものでも見るかのように同情する目で私を見ていた。

 その瞳を不快に思いながらも、私はルーカスの案内された場所に従った。


 案内された場所は、ルーカスの病室だった。

 ルーカスは、決心したようにドアを開けた。

「ルチアーノ……」

 眠っているように美しいルチアーノの死体があった。急いで駆け寄るがすっかり冷たくなっていた。心臓はもう止まっていた。

 そばには首を絞められて死んでいるジル・キャットの死体がある。不思議なことに、ジルはとても幸せそうな笑顔を浮かべていた。その笑顔は、僕の怒りに火を注いだだけだった。僕は、思いっきりジルをけ飛ばした。

 そして床に崩れ落ちた。


 ほら、見ろ。ルチアーノは、やっぱり生きているじゃないか。


 そう言うつもりだったのに、何も言えなかった。


 死んでも彼女は美しかった。

 恐らく彼女は僕の心の中で永遠に美しい存在のままだろう。

 けれども、そんなことを望んでいたわけではなかった。

「消えろ。消えろ、今すぐ、消えてくれ」

 僕は、吐き捨てるようにルーカスにそう言った。

 こいつの姿なんて一ミリも視界に入れたくなかった。

 この死にぞこないが!

 お前がジルなんかと仲良くしているから、僕のルチアーノは死んだ。

 ルチアーノを失った悲しみで気が狂いそうだった。 

 子供のようにただ大声でもう二度と会うことができない少女の名前を呼びながら、泣いていた。絶望から這い出る術は少しもわからなかった。


 ルチアーノ・ダナフォール。


 もう僕が進んでいく道にはルチアーノはいない。

 僕は一人で生きていくのだ。

 涙が頬を流れていく。

 後悔と失恋の味はとても苦かった。

 心臓が握りつぶされたように痛かった。


 結局僕が守りたかったのは自分だったじゃないか。

 傷つくことを恐れずにもっと行動しておけばよかった。

 そうやって必死に傷つかないように守り続けたくせに最後は傷ついてももうボロボロになってしまった。もう一人で未来への道を歩ける気がしないよ。


 もう一度あのころに戻りたかった。


 自分を愛せなかった分まで、君を愛しました。

 君はとても遠い存在だったので、僕は背伸びをして手を伸ばしました。

 見栄を張り、嘘をつき、自分をよくみせようと必死でした。

 それでも、手が届かないから泣きました。

 愛してくれないから、選んでくれないから、優しくしてくれないから憎みました。

 君を嫌いになろうとしました。だけど、君はいつでも僕の中で輝いていました。

 その眩しさが生きる支えでした。僕の人生のスポットライトでした。

 輝きに憧れ、癒され、支えられました。

 笑顔で挨拶をすることができないから、無言で通り過ぎました。

 話しかけることができないから、話しかけられることを待ちました。

 それでも話しかけられなかったから、目で追いかけました。

 けれども、視線を逸らしてばかりいました。

 視線を合わせることがとても怖かったです。

 意識していることを悟られることに怯えながら過ごしていました。

 自分の恋を必死に隠して、殺しながら生きていました。

 無条件に、美しいとか優しいとかを抜きにして。自分が自分というだけで 君から愛されたかったです。


 もう一度彼女に会いたかった。


 けれども、もう決して会うことはできない。


 ずっと一緒にいたかったのに。




 読んでくださりありがとうございます。

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