とある操蟲師の初恋2
ロデイは私の好きなキャラなので、私の歪んだ愛がたっぷりこめられています。……かわいそうに。
彼もメインヒーローの一人です。
けれども、リアばかり観察していた俺はあることに気が付いた。
リアは、シャルル・バトラーが好きだ。
シャルルは、俺とは違っていてイケメンで、明るくて、優しくて、笑顔が素敵な男の子だった。銀色の髪に金色の目をしていて天使のように美しく、この世のものとは思えないほど上手に歌うことができた。
二人は、小さな恋人同士のようにいつも一緒にいた。二人はとても美しく、穢れのない存在だった。楽しそうに笑いあっているだけで、そこが俺なんかが決して触れられない世界に見えた。
そうだ。俺なんかが入っていける光景ではない。
俺は、ただ美しい二人を眺めているだけだった。
憧れはすぐに嫉妬に変わり、嫉妬は徐々に殺意に変わった。
シャルルなんて死ねばいい。殺してしまおうか。
俺ならできる。俺は、毒虫を操ってシャルルを殺そうとすれば5分もしないうちにシャルルを殺せるだろう。もちろん俺が犯人だと言うことは、誰にもばれない。そうすれば、もうリアもシャルルと二度と話すことがなくなるだろう。そのうちシャルルに対する愛情もすっかり冷めて消えてなくなるだろう。リアが落ち込んでいれば、俺が慰めてあげればいい。そうすればリアは優しい俺に恋に落ちてくれるかもしれない。
何……考えているんだよ。
自分が気持ち悪い。
気持ち悪くてたまらない。
こんな思考、最低じゃないか……。
ああ、そうだ。
俺は最低だ。最低で、気持ち悪い、ごみのような男だ。蟲のように気持ち悪く、陰鬱な雰囲気を持っていて、見た目と同じ気持ち悪い思考回路をしている。
人間ですらない妖怪のくせして人間の振りをして生きている。
こんなの俺みたいな化け物が持っていい感情じゃなかった。
リアを欲しければ欲しがるほど自分の思考は汚れていき、自己嫌悪を感じていた。
ある日、俺はリアに話しかける……という夢を見た。
「ねえ、リア。誰にもいっていはいけない秘密がある。君だけには話すよ。俺は人間ではない妖怪だ」
「何バカなことを言っているの?あなた、頭がおかしいわ。
今すぐ病院に言って治療してもらうべきよ」
「本当だ。人をめちゃくちゃにしたいという欲望を時々感じる。
君のことだって壊してやりたくてたまらなくなる」
妖魔はこの国では殺されるべき存在なのだ。
大人になったら制御がきかなくなり、俺は多くの女性を襲うようになるだろう。
くだらないエロ小説みたいだが、本当のことだ。
自分でも、どうしようもない。
「それでも……俺のことを嫌いにならないでいてくれる?」
「もちろんよ、私はロディの味方だわ。大丈夫よ、私は誰にもこのことは言わないわ。
あなたが誰かをめちゃくちゃにしたくなったら、私を犯せばいい。
その時は、責任をとって結婚してね」
「ああ、もちろん。
僕の欲望のために君がその体を捧げてくれたら、僕は何もいらない」
それは……全部、夢の中の出来事でしかなかった。
目が覚めた俺は、泣いていた。
こんな叶わない願望にすがっているだけの自分がかわいそうで泣いていたのかもしれない。
それはただの妄想でしかなかった。
本当の俺はリアと一度も会話することがないまま過ごしていた。
孤児院に入ってから、俺はいつもアルベルト・ブレインという少年を中心に苛められていた。彼は、俺のことを『蟲男』『妖怪』『化け物』などと呼び、嫌がらせばかりしてきた。雑巾を絞ったバケツを俺にかけてきたり、石を投げつけてきたり、俺の持ち物を生ゴミで汚したりしていた。
俺は何度かそいつに復讐をしようと思ったが、この力を使うことは、化け物への一歩を踏み出していく気がして何もできなかった。
だけど、とある秋の日曜日は別だった。リアとシャルルが手を繋いでいるところを見た俺はイライラしていた。
誰でもいいから八つ当たりがしたかった。嫉妬と、殺意と、狂気で自分の精神が狂ってしまいそうだった。夜も眠ることができず、部屋から外に出た瞬間、たまたま廊下にいたアルベルトを見つけてしまった。
その出会いは、苛めっ子であるアルベルトに復讐をしてやるチャンスにしか思えなかった。
俺は、小さな黄色い虫をアルベルトの耳に侵入させて、彼を操り誰もいない教室にまで移動させた。
そして、彼を正気に戻した後、たくさんの蟲を使って彼を襲わせた。
すぐにアルベルトは、泣きながら謝りだした。
「もう頼む、許してくれ。俺が悪かった」
「それくらいで俺が許すと思う?」
アルベルトに恨みを持つ俺が、妥協なんてする訳はなかった。
俺は醜悪な笑みを浮かべて、一匹の虫を召喚する。
こいつの針を刺したら最後、死ぬよりも苦しい痛みを味わい続けることになる。
俺は、そいつの首に針を刺すように蟲に命令した。
「ぎゃああああああああああああああ」
すさまじい悲鳴がアルベルトの口から漏れた。
「あっはははははははは。はははははっはは。ざまあみろ、いい気味だ」
俺は狂ったように笑い出した。
自分が望めば何もかも手に入ると思えるほど、いい気分だった。
俺が呼んだ百匹近い虫も一瞬で集まってくる。
「きゃあ」
悲鳴が聞こえて、振り返った。
そこにリアがいた。
どうしてこんなところにリアがいるのだろうか?
少女は俺を化け物でもみるように怯えた瞳で見ていた。
「違う……これは、違う……」
自分の声から否定する言葉がこぼれ出た。
何が違うというのか……。
俺は人間ですらなくて、妖怪であり、たった今復讐しているところだったというのに。
もう言い訳もしようがなくあちら側の化け物と同じになってしまったというのに。
リアだけには、この光景を見られたくなかった。
彼女だけには、俺を人間扱いしてもらいたかった。
その瞳にこの醜く、気持ち悪く、惨めな本当の俺を写してほしくなかった。
「化け物……。気持ち悪い。やめて殺さないで」
少女は、呟いた。
青ざめた顔を俺に向けていた。
その瞬間、自分の中で何かが壊れた。
何で愛されることなんて期待していたんだよ……。俺ってバカだなあ。
ありえない未来ばかり描いて、つまらない現実から目を背けていた。
俺なんかが……愛されるわけない。
俺みたいな失敗作が認められるわけない。
幸せな妄想に浸って、灰色の現実から目を背けていた。
形のいい薄い唇が、バカなことを呟いたリアを嘲笑うように孤を描いた。
「お前なんて嫌いだ」
指をパチンと鳴らす。
何万匹もの虫が俺のもとに集まってくる。
「あ……ああ……」
うじゃうじゃとゴミのように部屋を埋め尽くす。
まるで、虫の海のようだ。虫たちは、俺たちの周りだけ
恐怖に支配された顔でリアは俺を見ていた。
俺は、一匹の気持ち悪い百足を握りつぶしてから狂った笑顔を浮かべる。
俺を愛すことができないならば、壊れてしまえばいい。
俺を認めることができないなら、力づくで認めさせてやる。
そうだ。力づくでこの少女の全てを俺のものにしてやる。
もう俺を裏切れないくらい、俺だけを求めさせてみせる。
「精神も肉体もボロボロにしてあげる。
俺の欲望の生贄となれ」
俺はぞくぞくするような低く色気のある声でそう告げた。
次の瞬間、窓が木端微塵に破壊された。
「すさまじい魔力が放出されているから、来てみればこんな少年だったとは」
4人の黒いロープを被った人間がそこにいた。3人は男で、1人は女性だった。
「少年でも、手加減はするな。
いつかこいつも立派な魔物になる。今すぐ排除しろ」
「やれやれ、団長も冷たいわね」
「かわいそうだけど仕方がない。殺そう」
黒いロープに覆われた人間。噂では聞いたことがある。魔物を退治する魔術師達だ。
彼らは、俺を一目見るなり殺そうとし出した。
何で……。何で俺ばっかりこんなに不幸なの?
どうして妖魔だってことで殺されなければいけないの?
俺って何か悪いことをしたかな?ダメな息子だったかな。
何もしていないじゃないか。
自分を殺し、誰も傷つけないように生きていたじゃないか。
俺を殺そうとするなんて、こんな世界おかしい。狂っている。
俺は、指を鳴らし緑の目をした一匹の蟲を呼び寄せ、そいつの針を俺の腕に突き立てさせた。これは実験した中でもかなり強力な蟲だ。
「何をしている?」
「肉体を少し改造した。人間以上の威力と速さで体動かせるように」
そう言って気持ち悪い下品なニタニタとした笑顔を浮かべた。
「それじゃあ、始めよう。殺戮の時間だ」
俺は、毒を含む蟲、爆発する蟲を大量に呼び寄せた。
気持ち悪さのあまりか、魔術師達は息を飲む。
すぐに俺に向かって炎が放たれるが、肉体を強化した俺は簡単に避けることができた。
けれども、すぐに別の炎が放たれ髪がわずかに焦げた。
俺は、蟲に動きを指示しながら炎をよけていた。
夜明けが来るまでに戦いは終わった。
俺は、やってきた魔術師を全員殺した。
途中までは、防戦ばかりだったが、魔術師の一人の意識を蟲で乗っ取り操縦しだしてからは俺が抗戦一方になった。
4つの死体には大量の蟲達が集りその血をすすり、その肉体を餌とする。
これで俺は立派な人殺しの仲間入りだ。
もう被害者面しているわけにはいかない。
いつの間にかリア・ローレンスは逃げていた。
彼女がどこへ逃げたのかわからなかった。
その後、捜索してみても行方はわからなかった。
俺は、それからも人間の振りをしながら生きていた。
俺に騙される愚かな人間をバカにしながら生きていた。
俺が淫魔だっただろうか?気持ち悪く不気味だった俺は、妖しい雰囲気と強力な色気を持つ美少年へと成長した。俺の見た目につられてやってくる女達を遊び捨てた。たまに何人かの女に情がわいて愛したつもりになったが、すぐに冷めた。たまに俺の正体を見破り襲ってきた奴らは返り討ちにした。
誰よりも、気持ち悪く、醜く、不気味に生きてきた。
そうして、8年ぶりに、リア・ローレンスと再会した。
俺は、昔と少しも変わらない雰囲気を持つ少女に告げた。
「ロディオンじゃなくて、ロディって呼んで」
昔、母親のロザリアは俺のことをそう呼んでいた。
俺が化け物だと発覚する前は……。
どうせ、俺を捨てることなら愛情なんて最初から与えなければよかったのにさ。
……そう思いながら、この名前で呼ばれることを望んでいる俺はとても弱いのだろう。
本音を言うことが苦手でした。弱さを見せることができませんでした。
完成することを恐れながら、理想を描きました。理想は、理想のまま終わりました。どうせ俺なんかには手の届かない理想でした。
友達という生き物が嫌いでした。近づいただけで頭が痛くなるくらい大嫌いでした。友達と会話ごっこするということが嫌いでした。友達のご機嫌をとるということが苦行でした。誰とも友達になることなく、仲良くなることなく、一人の時間を邪魔されることなく生きたかったです。
何度も誰かを愛したつもりになりました。その誰かは時間によっていつも変わりました。でも、結局は自分が一番大切でした。恋している自分が欲しかっただけでした。手に入らないから憧れただけで手に入る人なんて誰も欲しくありませんでした。
頑張ることが嫌いでした。だから、生きることに向いていませんでした。
それでも頑張らないと生きていけないから、必死に仮面を被りながら生きていました。
ずれた価値観に合わせ、感情のある人間の振りをして生きることは難しかったです。
欲望という名の真っ黒の夢を描いた。
だけど、夢を叶うことを恐れた。
いつまでも、美しく、手の届かない夢であって欲しかった。
だから、今も夢の途中。
前例にない汚れた夢を描いた。
俺には、これしかない。
これでしか自分を肯定できない。
なあ、リア。
俺は欲望にまみれた汚い心の持ち主だけど、人を一人愛するくらいの純粋さはある。
化け物だけど、人間の心を持っていたと思うよ。
そんなこと誰も信じてくれないだろうけれども。
読んでくださりありがとうございます。




