こうして彼は負ける
BUMP OF CHICKENの曲を聴いています。懐かしい。
ルーカス・ダナフォールの圧倒的なチートさと強さの持ち主である。
しかし、どんなに強い人間でも欠点くらいはある。容姿がどんなに天使に近かろうと神様に愛されているわけではない。
人間以上のスピートで動く剣、ダイナマイトのように爆発する蟲達、勇者を大量に襲おうとする毒虫、四方からくる攻撃。
戦いが始まってからあっという間に勇者は傷だらけになった。傷一つなかったきれいな顔が台無しである。
勇者はとりあえず炎を使い蟲の攻撃を防いでいるが、炎は爆発する蟲を防げるわけではない。そして、肉体を強化した俺は勇者の攻撃を容易くよけることができた。
これは決闘というよりも、ただ俺という狩人が、ルーカスという獲物を追い詰めているだけのゲームだ。
人なんていっぱい殺してきた。だから、勇者も殺すことにためらいはいっさいなかった。容赦もまったくしなかった。
俺は、ルーカス・ダナフォールという男をバラバラにしてやりたいほど嫉妬していた。
リアの隣にいて、リアを守るためのナイトとなっている勇者が憎くてたまらなかった。
そこは昔、俺が立ちたかった居場所なのに、憧れた場所であるのに……。
何でこいつはそこに平然と立っているんだよ!
そして……何で俺はリアの敵であるポジションにいるのだろう?
ああ、そうか。
俺は汚れた夢を見ているからか。
まだ夢の途中。
そんな夢を追い続けている限り俺はずっとリアを守るナイトにはなれないだろう。
蟲を使って、勇者の体にしびれ薬を打ち込んだ。立て続けに麻酔も打ち込む。
勇者はドサリと床に崩れた。
伝説の勇者は、今ではボロボロで満身創痍だった。
思わず口元に俺独特の気持ち悪い笑顔が浮かぶ。
勝った。
伝説の勇者を俺が一人でやっつけた。
優越感と、復讐が達成されたような暗い喜びと、勝利に酔いしれる。
俺は、勇者に止めを刺そうとした。
その時、リアが前に飛び出してきた。
ルビーのように赤い瞳が呆然としている俺を映している。憎い敵でも見るように映している。
黒くさらさらとした髪の毛が風になびいている。
美しいのに、俺にとっては胸がえぐられるように残酷な光景だ。
そして勇者を守るように手を広げた。
「やめて、ルーカスを殺さないで」
何だよ、それ。
殺されかけた俺のことは見捨てたくせにこいつのことは助けるのかよ。
醜く、気持ち悪いものを見るような視線を送り逃げ出したくせに、このイケメンは守ろうとするのかよ。
そんなの理不尽じゃないか。ひどいだろうが!
全身の血が沸騰したように熱くなった。
「どけ、リア。邪魔だ」
俺は、リアをにらみつけた。
本当はこんなことしたくないのに。
もっと甘くとろけるようにやさしい言葉を吐きたいはずなのに。
「嫌よ。私がどいたらあなたは勇者を殺そうとするでしょう」
「俺はお前を殺したくないだから、どいてくれ」
にらみ合う俺たちを見ながら勇者は、壊れたぜんまい時計みたいに笑い出した。
希望を見つけたかのように光り輝くエメラルドの瞳が怖かった。
「ハハハハハッ。そういうことか。
どうして人質であるリアに傷一つついていないのかわかったよ」
勇者は、どす黒い笑顔を浮かべながらこう言った。
「チェックメイトだ、ロディオン・ディブレイク」
傷だらけの勇者は、リアの手を引っぱりリアの首元に剣を突き付けた。
「ロディオンはリアに執着している。リアはきっとお前の特別だろう。
お前はきっと俺と違いリアを見捨てることができない。
剣を捨て、蟲を消えさせなければ今すぐ、リアを殺す」
勇者に対する人質であったはずの少女は、俺に対する人質となった。
俺は、勇者と違ってリアを見捨てることができない。
他の人間全てを見捨てることができてもリアだけは見捨てることができない。
何千万人の美少女よりもリア一人の方が俺にとっては大切だった。
彼女の精神を壊し傷つけることを望みながら、本当は傷一つつけられなかった。
ずっと暗い夜空に浮かび上がるたった一つの星のように輝いていてほしかった。
ずっと憧れていたいから。
好きという感情ほど美しくはなくて、
純粋と呼べるほどまっすぐしていなくて、
物語のヒーローのように君を守れるかっこいい存在になれなくて、
明るい笑顔で話しあげられるほど素直になれなくて、
好かれようとする正しい努力もできなかった。
近づくことから逃げ遠くから見ていることを選んでいた。
本当はもっと話したいことがたくさんあったんだよ。
俺は剣を投げ捨てた。
蟲達には、今すぐ立ち去るように命じた。
そうして両手を挙げた。
俺の負けだ。
いい意味で予想外だったと思ってもらえればうれしいです。




