助けに来たはずの勇者が……
こんな感じになりました(笑)
「リア」
彼は、かわいらしい声でそう私の名前を呼んだ。
何事もなかったように、いつものように私に対して従順な態度で、褒められることを待つペットのような笑顔を浮かべていた。
「助けに来たよ」
そう低い滑らかな声で私に告げた。
「……そう」
「待っていたよ、勇者」
最低最悪な下品な笑顔を浮かべながら、ロディは勇者に話しかけた。
何を考えているのかわからない灰色の目が不気味だった。
「リアからその薄汚い手を離せ」
そう言いながら、勇者は一歩ずつ私の方へ近づいてくる。
ロディは、更にナイフを私の首へ近づけた。
「動くな。それ以上近づいたらこいつを殺す」
「リア、お願いがある」
「何?」
まさか、ロディを殴って逃亡しろとか言うんじゃないだろうか?
勇者は、太陽のように眩しい笑顔を浮かべてこう言った。
「俺のために死んで」
一瞬、私の脳がフリーズした。
……しかし、驚異的な回復力で元に戻った。
「はああ?そんなの嫌だよ。
どいうか、あなたは私に『助けに来たよ』って言ったじゃない」
「生きたまま君を助けるなんて言っていない」
夏一番のそよ風のように爽やかな笑顔で勇者はとんでもないことを述べた。
「おい」
それじゃあ、私が助ける意味が全くない。
このまま永遠に人質ライフを送り続けていた方がましだ。
「なあ、リア。
最後に言っておきたいことがある」
何だろう。勇者は、最後くらい重要な話をするのかもしれない。
こういうヘラヘラと笑っている奴に限って闇があったりするものだ。
「母親の復讐で、バナナの皮を相手の通り道に置いておいたという話は嘘だ」
「……」
どうでもいい話だった。
もうあほらしすぎて自分の全てがどうでもよくなるレベルだ。
しかし、エメラルドグリーンの瞳が少し翳りを帯びた。
「首を……首を絞めて殺した」
勇者は、自嘲するようにそう言った。
「そいつは嫌な奴で、最低な女で、母親まで殺した。
だから、俺は復讐をした。
ただ……それだけの話だ」
それだけの話。
勇者は、そう言ったがその話がそんなに簡単で、単純に終わるような物語のように思えなかった。
その時、どんな感情が生まれたのかは私にはわからない。
「そんな俺だから、リアに会えてうれしかった。
俺は、きっとリアの存在に救われた。
リアに恋することができてよかった。
ありがとう。魔王を殺したら、俺も死ぬよ。生まれ変わったらまた会おう」
すごいいいセリフのように感じるが、どう考えてもそのセリフが私の死亡フラグのようにしか聞こえない。
私、まだ生きているのだけど。ピンピンしているのだけど。
もう助ける気は一切ないわけ?
え……何それ?という気分だ。
まるで小説が始まったと思ったら、次のページを開いたら主人公が死んでいたというような感じだ。
「そうか、勇者がそう言うならリアを殺すことにしよう」
そう言ってロディは、ナイフを振り上げた。
私は、恐怖のあまり動くことができず固まっていた。
勇者は、一言も発することがなく
しかし、ナイフが私の服を貫く寸前、ピタリと止まった。
「……ああ、失敗したな。人質がこれほど役に立たないとは思っていなかった」
そうがっかりしたように言って、ロディはナイフを投げ捨てた。
不満そうな顔で、剣を掴んだ。
私は、すぐにロディの側から逃げ出して勇者の近くの壁際に駆け寄った。
「怖い思いをさせてごめん、リア。俺は、最初から君を傷つける気なんてなかった」
ナイフを突きつけていた男が、開き直ったようにそう言った。
うわあ、信じられない。
「とりあえず、勇者を片付けるか。まさか、一対一になるとは思っていなかったけれどもしょうがない」
ロディの瞳が挑発的な色を帯びギラギラと輝いた。口元に暴力的で自信満々な笑みが浮かぶ。
大量の蟲が彼の周りに集まってくる。
「それじゃあ、始めよう。殺戮の時間だ」
そしてロディは、指を鳴らした。不気味な10匹の蟲が、ロディの手足に針を刺している。強くなる成分でも打ち込んだのだろうか?
ルーカスは、いつになく真剣な顔で剣を持った。
淀んで汚れた灰色の視線と美しく澄み渡るエメラルドグリーンの視線が混じり合った。
……。




