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勇者にいきなり殺されかけた  作者: さつき


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愛がわからない(後編)

 前回の続きです。

 策士、策士策に溺れるというように私の計画は早くも狂いだした。

 ノワールにしょっちゅう会っているうちに、私がノワールに恋をしたからだ。

 彼は私の小説をバカにしたりせず、いつも読んでくれた。

 そのことがうれしかったからかもしれない。

 ああ、ノワールをBLワールドに引きずり込むどころか、私がノワールに恋をしてしまうなんて。計算外だ。

 しかし、私は腐っても姫だ。……まあ、本当に腐っているけれども。

 私は、政略結婚する義務がある。ノワールに恋を告げることなんて許されない。

 それにノワールには感情がないのだ。どうせこれは叶うはずのない恋だ。

 私は自分の恋を諦めて、ただひたすら周囲から隠していた。


 16歳になったとき、いよいよ、私の婚約者が決まった。

 前から、薄々わかっているひとだった。

 小さい頃から、両親によくこの人と二人きりにされたものだ。

 彼の名前は、ジオール・ブラック。ブリトリア王国の王子である。

 黒いサラサラとした髪に、黒曜石のような黒髪をしたイケメンであった。

 しかし、ノワールを愛した私は、彼のことを愛せる気がしなかった。

 ある日、小説を読むことに夢中になっていた私は婚約者であるジオールが来たことに気が付かなかった。ジオールは、怒った顔をしながら、私が読んでいた小説をとりあげた。

「小説なんて読んで何になる?大体、一人で笑って、泣いて、悲しむなんて悲しいだろうが!もっと社交界に出て着飾れよ。もっと友達と作って社会にはばたけよ。いつも同じ服ばかり着て、婚約者である僕が恥ずかしい」

 頭がガツンと殴られた気分だった。

 こんな奴と結婚しなければいけないことを思うと吐き気がした。

 そんな私の心情に気が付かずジオールは、私の小説をばかにし続けた。

「いい加減目を覚ませ。こんなのクズじゃないか。紙切れ一枚に何でそんなに夢中になる?」

 私が憧れたものも、目指したものもたかが紙切れだ。

 料理のようにおしいしいと思わすことも、洋服のように見た目だけの美しさを味わうこともできない。丸めてしまえばただのゴミとなるだけの物体だ。

 私が小説に費やす時間を他の人達はもっと有意義に使っていた。

 自分を高めること、勉強、おしゃれ、仕事、遊び……私はそんな時間を捨てて小説ばかり書いているばかな人間だった。

 だけど、気が付いてしまった。

 おもしろい本に出合うたびに、私が一番幸せになれるのはおもしろい小説を読んだ時だけで、それ以外のことが小説以上だなんて思えないのだ。

 私から小説を取ったら、きっと何も残らない。

 小説が私にとって一番、大事なのだ。

 だから、初めから小説を捨てるなんていう選択肢は私にはなかった。

 私はとてもだめな姫だ。

 国民のためにもっと勉強をしなければいけないのに、自分の趣味にばかり時間を費やしている。

 だけど、人間の想像力はバカにするな。

「紙一枚でも人は感動できる。ときめくことができる。誰かを理解することができる。共感することだってできる。ドキドキすることも、ワクワクすることもできる。笑えるし、泣けるし、悲しめるし、考えることができるし、幸せになることができる。恋することもできるし、人を理解することができる。

 私は、小説ほど素晴らしいものはこの世に存在しないと思う」

 魔法なんかよりもずっと素敵で、世の中にはこんな素晴らしい世界や想像が存在するのかといつも気が付かされる。

 その魅力にすっかり惚れこんで、いつしか私も素敵な物語をかけるようになりたいと憧れたのだ。

 魂削って、自分の時間をどんなに捧げてもいいから、最高の物語を書きたいの。

 まだ目指している物語は、とても遠く感じるけれども。

 いつかたどり着くことを願って。


 その日から、ジオールとは気まずくなりだした。

 彼と結婚したらどうなるのだろうといつも不安に思っていたが、その心配はする必要がなかった。なぜなら、私はジオールとの結婚の2週間に死亡することとなったのだから。

 隣に会ったリオダーク国が同盟を破りブリトリア王国を滅ぼそうとしたからだ。

 夜中に奇襲をかけられ、あっという間に、城を占領された。そして見つかった王族は、次々に皆殺しにされていった。

 私も剣で体を貫かれたが、場所がよかったためかまだ生きていた。

 それでも夜が終わる前に死ぬだろうと思った。

 床がとても冷たい。

 ダラダラと流れる血がとても熱かった。


 私、もうすぐ死ぬのか。

 最後に、ノワールに会いたいな。ノワールは、生きているだろうか?

 生きているはずだ。一人だけ隔離された場所にいるのから、きっと大丈夫。

 小説が一番大事だとずっと思っていたくせに、最後に思い出したのはノワールのことだった。

 もっといっぱいしゃべっておけばよかった。

 たくさん思い出を作っておけばよかった。

 告白しておけば、よかったのかな……。

 今頃、後悔するなんてバカだなあ。


 ノワール。私のくだらない小説を読んでくれてありがとう。

 すごくうれしかった。

 うれしくてたまらなかった。

 あなたに会うことができて本当に良かった。


「クリスティーナ!」


 その時、彼の私を呼ぶ声が聞こえた。

 機械人間というよりも人間のように温かみにあふれる声だった。

 温かくて涙が出そうだった。

 あのね……。

 最後にどうしてもあなたに言っておきたいことがあるの。

 私を見つけたノワールが近づいてきた。


 

 夜中に聞こえた物音で目が覚めた。

そして窓から見た光景にゾッとした。敵がせめてきている。しかも、すごい大人数だ。

このままだとクリスティーナが危ない。

僕は、死ぬ気でドアを壊した。体中傷だらけになったが、そんなこと気にしている時間はなかった。

早く、クリスティーナを見つけて守らないと。

 けれども、ようやく見つけたクリスティーナは死にかけていた。

「クリスティーナ!死ぬな」 

 彼女は、まだ生きていた。

「ノワール……」

 消え入りそうな弱弱しい声で僕の名前を呼んだ。

 僕は、彼女の手を握り締めた。

「ああ、僕はここにいるよ。クリスティーナ……」

 彼女は、僕を青い澄んだ瞳で見ながらこう言った。

「……あなたは……きっとわかる。

 恋も、喜びも、悲しみもきっと知ることができるわ。

 ……誰かを愛して幸せにできると思うの……」

 そう言ってクリスティーナは、消え入りそうな笑顔をみせた。

 美しいと思った。

 魂が震えた。鳥肌がした。

 その美しさに何もかも奪われてしまいそうだと感じた。

 彼女はゆっくりと目を閉じた。

 それからもう二度と開けることはなかった。

 クリスティーナは死んだ。

 初めて胸が痛くなった。苦しくてたまらなかった。ナイフで刺されたとしてもこんなに痛くはならなかっただろう。

 まるで押し込めていた感情が急に蓋を開いたようだった。

 初めて誰かに会いたいと思った。

 もう一度クリスティーナに会いたいと思った。

 会いたくて気が狂いそうだった。


 僕はわかった。

 わかるのが遅すぎた。

 頬を温かい涙が流れていく。

 

 これは恋だった。


 僕は、死体に優しくキスをした。

 少女の唇は柔らかく、冷たかった。


 自分の頬から流れた涙が冷たくなった頬に落ちていった。

 

 君だけが僕を人間にしてくれた。


 もう終わってしまった夜の夢。


 ……がんばろう。

 ちょっと目指していた何かが見えてきた気がする。

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