That's what friends are for.
真希が目を覚ましたらしい。
その情報は、美沙を即刻病室へ向かわせるのには充分過ぎた。
手足と胸郭が複雑骨折し、未だ生々しい手術痕が癒えていない美沙の体は、一人では移動することすら叶わず、准看護師に無理を言って車椅子を押してもらった。
「真希ちゃん!」
病室に入ると、真希は変わらず横たわっていた。目は開いていなかった。居合わせた美菜に尋ねると、どうやら眠ってしまったらしい。起こそうかと言う美菜に対して、美沙は笑顔でかぶりを振った。真希の眠りを妨げるのも悪いし、起こせばきっと怒るだろう。無事だということさえ分かれば、それ以上は瑣末なことだ。礼を言って、美沙は自分の病室へ戻った。
真希が意識を取り戻した。それだけで美沙は嬉しかった。そして、真希が自分の身を案じてくれていたことを美菜から聞いた。それでもう充分だ。あとは真希の機嫌を損ねないようにするだけ。
時間が経てば、真希も自分も退院できる。
そうすれば、元の日常に戻れる。
幸せに、なれる。
美沙の入院を契機に、父親の家庭内暴力が発覚した。父親は取調べを受けたが、治療が先決だということで現在この病院の精神科に入院している。閉鎖病棟の、しかも鍵のかかった個室だという。父親に面会しようと思ったが、眞子は決してそれを許してはくれなかった。母親もあまり乗り気ではなかったようで、父親が見ていられない有様であることは容易に想像がついた。
麻薬とは、使用者に鎮痛効果や多幸感を与え、依存症や中毒症を引き起こす物質の総称だ。実際は麻薬取締法で規定されている物質を指すが、広義にはアルコールも含まれる。
麻利亜からは色々なことを教わった。ただの水も直接血管に入れれば毒となること、アルコール依存でも禁断症状を起こし酷い様を呈すること、人間を「壊す」物質は思っている以上に身の回りに氾濫していること。初めて出会ったときには眞子を救ってもらった。感謝してもしきれない。多くの急性中毒には「炭の粉」がある程度の効果を有することも知った。美沙は物覚えは良いが応用が利かないので、その知識が活かせるかどうかは疑問だが。
入院する前は、自分が我慢して醜聞を外に漏らさないのが最善だと思っていた。しかし父親がこうなってしまった今、それが本当に最善だったのか、美沙には分からない。それでも、美沙はそれが最善であったことを願う。
自分さえどうでもよければ誰も不幸にならないなんて。
素晴らしい世界じゃないか。
「お姉ちゃんが目を覚ましても、美沙ねえがいなかったら絶対悲しむよ!」
あの時。
自分の命を捨ててでも真希に助かって欲しいと願ったとき、美菜はそう言った。それ以来、少しずつ、美沙の価値観は変わっていった。
自分なんてどうでもいいと思っていた。でも、それを許してくれない人がいる。自分一人を人柱にすることを是としない人がいる。それは、喜ぶべきことなのだろうか。それとも、嘆くべきことなのだろうか。
窓の外を眺める。いつの間にか日はとっぷりと暮れ、街の灯りがきらびやかに浮かんでいる。繁華街が見えた。麻薬や覚醒剤の取引の噂が絶えない区域だ。麻利亜が嬉々として語っていたのを思い出す。父親の姿が重なる。
「…大丈夫」
美沙は呟く。何度も、何度も。
大丈夫。
大丈夫。
いつか、きっと。
みんな、幸せになれる。
――友達なんだから当たり前――




