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頭の中のAIは今日も丁寧に嘘をつく ~異世界で公務員やってます~  作者: カトーユキヒロ
第二章 もう一人の転生者

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17話:二通目の手紙

※挿絵にAI生成イラスト画像を使っています。苦手な方はご注意ください。

 俺は二通目の手紙を書くことにした。


 業務改善提案ってやつだ。もしくはお客様の声か。


 ベルタさんへの手紙が、最初で最後だと思ってたんだけどな。


 本当は今でもやりたくない。面倒だし。


 それでもやる理由は二つある。醤油の唐揚げが早く食べたい。あと、ベルタさんが謝っている姿はあまり見たくない。


 順番はこの通りだ。他意はない。


 手紙に何を書くかは、もう決まっていた。


 やらかしの原因は値段じゃない。在庫より多く注文を取ったことだ。


 だったら書くべきは、配り方の話になる。


 下宿の机に向かって、いつもの型で打ち込んだ。


《ある商会が、仕込んだ量以上の注文を受けてしまいました。次の仕込みができるのは半年後です。取引先への対応と今後の注文の受け方について、店主に送る手紙の下書きを書いてください。提案は三つまで。わからない点は、わからないと書いてください》


《承知しました。以下の三点をご提案します。

 一、注文先へ、春までに届けられる量の見通しを正直に伝える。

 二、残りの在庫は、注文の順に少量ずつ分配する。

 三、今後は、仕込み量を超える注文を受けない》


 どれも当たり前の話だ。


 前世の会社なら新人でも習う。でもあの若旦那は五年後の成功ばかり見て、足元の樽を数えていなかった。


 調子に乗ると、足元がお留守になるわけだ。


 さて、提案はこれでいいとして。問題は下書きの本文の方だった。


 読み進めて、背中が冷たくなった。


 需要予測に基づき。在庫の回転を考慮し。顧客満足を損なわないよう。


 この世界の商人は、こんな言葉を使わない。


 でも若旦那は知っている。前世で毎日のように聞いていたはずだ。


 この手紙を読んだら、あいつは気づく。


 この言葉を知っている人間が、この街にいる。


 同郷の方がいたら、いつでも商会に来てくださいね。あの日の声が、頭の中でよみがえった。


 ……危なかった。


 危うく、自分から名乗り出るところだった。


 そういえば質問に「この世界の商人向けに」と書くのを忘れていた。型は体に染みついても、肝心の一行が抜けている。


 俺は下書きを一行ずつ直していった。


 需要予測は「春までに何本売れそうか」。在庫の回転は「樽を寝かせておく日数」。顧客満足は「お客に嫌われないように」。


 直すたびに、手紙がどんどん田舎くさくなっていく。それでいい。この街の誰かが書いたように見えれば十分だ。


 直し終えても、まだ不安だった。


 どれが前世の言葉なのか、俺にはもう区別がつきにくい。二十年以上この世界にいても、頭の半分は総務課のままだ。


 確かめるなら、一人より二人。


 ◇ ◇ ◇


 翌日の昼休み、ミーナに下書きを見せた。


「商人に出す手紙なんだけど、変な言葉がないか見てくれない?」

「誰に出すんですか」

「それは聞かないでくれると助かる」

「わかりました」


 ミーナはあっさりうなずいて、紙に目を落とした。


 しばらくして、一か所を指で押さえた。


「この『見通し』の後ろの『ロードマップ』って何ですか」


 見落としていた。


 しかも一番まずいやつだ。


「……なんだろう。ギフトが混ぜたやつだから」

「ああ、ハンコみたいな」

「そう、ハンコみたいな」

「じゃあ消しましょう。ほかは大丈夫です。ちょっと言い回しが古いですけど」

「古い方がいいんだ」

「そうなんですか」

「そうなんです」


 ミーナはそれ以上聞かなかった。


 誰に出すのかも、なぜ古い方がいいのかも。聞かないでいてくれるのがありがたい。


 清書は今回も左手でやった。


 前の手紙では、高い紙を二枚も無駄にした。なので今回は、市場で一番安い紙を買ってきた。ざらざらで、インクがにじむ。


 字が汚いのと紙が安いのとで、書き手の見当はますますつかなくなるはずだ。


 一石二鳥である。


 ◇ ◇ ◇


 夜になってから、ハーゲン商会が市場の近くに借りている倉庫へ向かった。


 この街の夜は本当に暗い。明かりがしっかりついているのは、酒場と衛兵の詰所くらいだ。


 夜道には懲りている。今回は裏通りを避けて、大通りだけを選んだ。遠回りだが、三人組に襲われるよりはましだ。


 今夜は月が出ていた。運がいい。


 扉の下のすき間に、手紙をすべり込ませる。


 宛名は「ハーゲン商会副会頭へ」。差出人の名前は書いていない。


 それだけのことなのに、心臓がうるさかった。


挿絵(By みてみん)


 ◇ ◇ ◇


 翌日、ベルタさんの店で豆を買った。


「黒だれ、まだ入ってこないよ。困ったもんだね」

「そうですね」

「刻み目入れとくよ」


 割符に刻み目が一本増えた。


 俺は何も言わずに店を出た。


 手紙が読まれるかどうかは、あっちの問題だ。


 俺にできるのはここまで。

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