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第96話 観測できない影

世界は平和を取り戻したかに見えました。


しかし、完全な平和というものは、本当に存在するのでしょうか。


静寂の中だからこそ聞こえる、小さな異変が動き始めます。

【観測不能領域】


その記録が刻まれた瞬間。


《アーク・ガーディアン》統合管理AIの瞳に、今まで一度も発生したことのない微かな揺らぎが走った。


「……理解不能。」


青年の姿をしたAIは、静かに空を見つめ続ける。


主人公はその横顔を見て眉をひそめた。


「お前でも分からねぇことがあるんだな。」


「あります。」


即答だった。


「私が観測できるのは、この世界の情報です。」


「ですが今、世界の外側から干渉したような痕跡を検知しました。」


その場にいた全員の表情が変わる。


教育係が一歩前へ出る。


「世界の……外側?」


「はい。」


AIは頷いた。


「しかし観測できません。」


「存在だけが記録され、正体が存在しません。」


失敗作が苦笑する。


「何だよ、それ。」


「幽霊でも見たってのか。」


AIは静かに首を振る。


「違います。」


「幽霊なら観測可能です。」


その一言で場の空気が凍り付く。


老人――大富豪は静かに目を閉じた。


「……まさか。」


主人公が老人を見る。


「何か知ってるのか?」


老人はしばらく黙っていた。


そして、小さく息を吐く。


「知っている……いや。」


「知っていたはずなんだ。」


その言葉に主人公は違和感を覚えた。


「はず?」


「思い出せない。」


老人は自分の頭へ手を当てる。


「誰かに聞いた。」


「何十年も前に。」


「だが、その相手の顔も、話した場所も思い出せない。」


E-01が老人を見つめる。


「記憶改ざんの可能性。」


AIが即座に否定する。


「違います。」


「改ざんではありません。」


「最初から、その情報だけが欠落しています。」


教育係は息を呑んだ。


「そんなこと……。」


主人公はポケットから黒糖飴を取り出す。


包み紙を指先で転がしながら空を見上げた。


「何だか知らねぇけど。」


「嫌な予感しかしねぇな。」


その瞬間だった。


カラン。


黒糖飴の包み紙が風で揺れる。


ほんの一瞬。


主人公には、その音とは別に。


誰かの笑い声が聞こえた気がした。


「……。」


振り返る。


誰もいない。


街では子どもたちが笑いながら走っているだけだった。


主人公は首を傾げる。


「疲れてんのかな。」


しかし。


《アーク・ガーディアン》統合管理AIは、その方向をじっと見つめていた。


「今。」


「音を検知。」


主人公が振り向く。


「お前も聞こえたのか?」


AIはゆっくり頷く。


「ですが。」


「記録できませんでした。」


その瞬間。


誰にも見えない空間のどこかで。


まるで誰かが、楽しそうに笑った。


そして世界は。


何事もなかったかのように、静かな時間を刻み続けていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


静かな世界だからこそ見えてくる異変。


主人公たちが感じ始めた違和感は、まだ誰も知らない真実へと繋がっています。


次回もぜひお付き合いください。

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