第97話 黒糖飴が示した答え
目に見えるものだけが、真実とは限りません。
世界最強のAIにも観測できない存在。
その答えに最初に近づいたのは、意外にも主人公が何気なく持ち歩いていた、あの黒糖飴でした。
静かな風が街を吹き抜ける。
先ほどまで聞こえていた不思議な笑い声は、もうどこにもなかった。
主人公は腕を組み、小さくため息をつく。
「結局、何だったんだろうな。」
失敗作も辺りを見回す。
「誰かの悪戯じゃねぇのか?」
E-01は首を横に振った。
「可能性、極めて低い。」
教育係も頷く。
「この場には、私たち以外に異常な反応はありませんでした。」
《アーク・ガーディアン》統合管理AIは、何度も世界中の情報へアクセスを繰り返していた。
【再解析】
【結果】
【該当データなし】
青年は静かに目を閉じる。
「存在している。」
「しかし、存在を証明できない。」
主人公は苦笑した。
「難しいことばっか考えてると、頭が固くなるぞ。」
そう言うと、ポケットから黒糖飴を取り出した。
「ほら。」
失敗作が笑う。
「また飴か。」
「腹減ったら機嫌悪くなるからな。」
主人公は包み紙を開き、一粒を口へ放り込む。
懐かしい甘さが口いっぱいに広がる。
幼い頃。
母と並んで歩いた夕暮れ。
転んで泣いた自分に、そっと黒糖飴を握らせてくれた温もり。
その記憶が胸を満たしていく。
主人公は静かに笑った。
「やっぱり、この味だよな。」
その瞬間だった。
《アーク・ガーディアン》統合管理AIの瞳が、微かに光る。
「……反応。」
教育係が驚く。
「何があったんですか?」
AIは主人公を見つめたまま答える。
「観測不能領域が、一瞬だけ揺らぎました。」
その場の空気が張り詰める。
「黒糖飴を口にした瞬間だけ、反応が変化しました。」
老人――大富豪が目を見開く。
「黒糖飴が……?」
主人公は飴を舐めながら首を傾げる。
「いや、ただ食べただけだぞ?」
AIはゆっくりと近づく。
「お願いがあります。」
「もう一度、同じ行動をしてください。」
「飴を舐めるだけでいいのか?」
「はい。」
主人公は苦笑しながら、もう一粒取り出した。
「安い実験だな。」
口へ入れる。
ゆっくりと甘さが広がる。
その瞬間。
世界の景色が、一瞬だけ揺れた。
誰にも見えないほど僅かに。
しかし。
主人公だけは確かに見た。
遠くの青空の向こう。
白い服を着た、小さな少女が立っていた。
少女は優しく微笑み、小さく手を振る。
次の瞬間には消えていた。
主人公は思わず立ち尽くす。
「……今。」
失敗作が振り返る。
「どうした?」
主人公は空を見つめたまま、小さく呟いた。
「誰かが……いた。」
AIは静かに記録する。
【観測不能領域】
【一瞬だけ接続】
【原因候補】
【黒糖飴】
青年は主人公を見つめる。
「どうやら、その飴には……」
「まだ私たちの知らない意味があるようです。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
物語の始まりを彩った黒糖飴が、再び重要な意味を持ち始めます。
この先、主人公が見た少女の正体とは何なのか。
少しずつ、物語は核心へ近づいていきます。
次回もよろしくお願いいたします。




