第92話:空を覆う番人
本当に守るべきものは。
命か。
街か。
それとも。
誰かとの約束なのか。
その答えは、
いつも戦いの中ではなく、
心の中にある。
ゴォォォォォ……
低い唸り声のような振動が空を震わせる。
厚い雲がゆっくりと裂けた。
姿を現したのは。
巨大な飛行兵器だった。
翼は街一つを覆うほど巨大。
無数の砲塔。
白銀の装甲。
まるで空そのものが敵になったようだった。
教育係の顔から血の気が引く。
「識別完了……」
震える声が漏れる。
「旧制圧兵器……」
「《アーク・ガーディアン》」
失敗作が舌打ちした。
「冗談だろ……」
E-01は静かに空を見上げる。
「旧世界最終防衛兵装」
「脅威レベル……最上位」
主人公はため息をついた。
「相変わらず、でけぇ敵ばっかだな」
その一言に。
失敗作は思わず笑った。
「そこ笑うところかよ」
しかし。
巨大兵器は攻撃しない。
ただ。
街全体を見下ろしている。
老人――大富豪が静かに前へ出る。
「あれは命令を待っている」
主人公が振り向く。
「命令?」
「最後の管理者の認証だ」
教育係が息を呑む。
「まさか……」
老人はゆっくり頷く。
「私だ」
静寂が訪れる。
主人公は驚きながらも。
責めることはしなかった。
老人は苦く笑う。
「この街を守るため」
「私は最後まで責任を捨てられなかった」
主人公は空を見る。
巨大兵器。
眠る街。
そして。
怯えながら空を見上げる子どもたち。
「……終わらせよう」
老人が主人公を見る。
「本当にいいのか」
主人公は笑った。
「守るための力なら」
「誰かを怯えさせ続けるために残しちゃ駄目だ」
その言葉に。
E-01が静かに主人公を見る。
「記録」
「守るとは、支配ではない」
教育係は微笑んだ。
「また一つ、学びましたね」
その瞬間だった。
空の巨大兵器が赤く発光する。
【管理者認証を確認】
【新規対象を検索】
【認証不能】
【脅威判定開始】
低い警報音が響く。
ゴォン……
巨大な主砲がゆっくりと街へ向いた。
老人の顔が青ざめる。
「まずい!」
「私の認証が切れ始めている!」
主人公は前へ出た。
「なら」
黒糖飴を握り締める。
「俺たちで止めるしかねぇな」
失敗作が拳を鳴らす。
「待ってました」
教育係は端末を構える。
E-01は静かに一歩前へ出た。
「戦闘を開始する」
しかし。
主人公は首を横に振る。
「違う」
全員が主人公を見る。
主人公は巨大兵器を見上げた。
「あいつも命令だけで動いてる」
「だったら」
「まずは話しかけてみる」
失敗作が目を丸くする。
「……お前、本気か?」
主人公は笑う。
「ああ」
「あいつも昔のお前らと同じだろ」
E-01はその言葉に、小さく目を閉じた。
「……肯定」
空を覆う巨大な番人。
そして。
一人の男が。
武器ではなく。
言葉を持って歩き始めた。
第92話でした。
この作品は戦いがあっても、「倒すこと」が目的ではありません。
主人公が最初に選んだのは、武器ではなく「対話」。
これは第1話で黒糖飴を守った時から、一度も変わらない主人公の生き方です。
次回、大富豪が隠していた「最後の約束」と、旧世界最大の防衛兵器の真実が明らかになります。




