第91話:眠り続けた約束
人は、
約束を忘れることがある。
だけど。
本当に大切な約束だけは、
時間では消えない。
何年経っても。
何十年経っても。
その日を待ち続ける。
静まり返った街。
主人公たちはゆっくりと中へ足を踏み入れた。
風だけが吹いている。
道路には落ち葉一枚ない。
建物も壊れていない。
まるで昨日まで誰かが暮らしていたような街だった。
「……綺麗すぎる」
教育係が呟く。
失敗作も辺りを見回す。
「こんなの異常だ」
E-01が報告する。
「粉塵量、極めて少ない」
「定期的な環境維持を確認」
主人公が眉をひそめた。
「誰かが管理してるってことか」
その時。
カツン。
カツン。
静かな足音が響いた。
一本道の先。
黒いロングコートを羽織った老人が立っていた。
白くなった髪。
深く刻まれた皺。
しかし。
その背筋は真っ直ぐ伸びている。
主人公は目を見開いた。
「……あんた」
老人は優しく笑う。
「ああ」
「久しぶりだ」
その声だけは。
あの日と何も変わっていなかった。
主人公はゆっくり歩き出す。
老人も歩く。
二人の距離が少しずつ縮まる。
そして。
目の前まで来た瞬間。
主人公は小さく頭を下げた。
「……ありがとう」
たった一言だった。
老人は少し驚いた顔をしたあと、静かに笑った。
「礼を言うのは私の方だ」
主人公は顔を上げる。
「俺?」
老人は頷く。
「あの日」
「国道で君と出会わなければ」
「私は最後まで、自分の罪から逃げ続けていただろう」
主人公は黙って聞いていた。
老人は街を見渡す。
「ここは」
「私が最後に守った街だ」
教育係が驚く。
「守った……?」
老人は頷く。
「管理社会が崩壊すると分かった時」
「私は、この街だけは人の手へ返そうと決めた」
主人公は辺りを見回す。
誰もいない街。
だが。
綺麗に保たれている。
「誰もいないのに?」
老人は静かに笑う。
「いや」
「いるよ」
主人公たちは一斉に周囲を見る。
次の瞬間。
建物の窓。
路地裏。
屋上。
あらゆる場所から人々が姿を現した。
老人。
女性。
若者。
子ども。
皆、警戒しながらこちらを見ている。
教育係が息を呑む。
「隠れていた……」
老人は頷いた。
「彼らは外の世界を恐れている」
「管理社会が終わったあと」
「自由を知らないまま、生き続けてきた」
主人公はゆっくり前へ出る。
すると。
一人の幼い男の子が、おずおずと近付いてきた。
「おじちゃん……」
主人公はしゃがむ。
「どうした?」
男の子はポケットから一つの飴を取り出した。
黒糖飴だった。
主人公は驚く。
「それ……」
男の子は照れながら笑う。
「おじいちゃんがね」
「世界で一番、大事な飴だって」
主人公は老人を見る。
老人は少し照れくさそうに肩をすくめた。
「君の話は、何度もした」
主人公は思わず笑った。
「盛ってねぇだろうな」
老人も笑う。
「少しだけ」
その場に笑いが広がる。
張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
だが、その瞬間。
E-01が空を見上げる。
「警告」
全員の表情が変わる。
「超高出力反応を探知」
教育係が端末を見る。
数値が一気に跳ね上がる。
「そんな……!」
主人公が空を見る。
厚い雲の向こう。
巨大な影が、ゆっくりとこちらへ近付いていた。
老人の笑顔が消える。
「……来てしまったか」
主人公が尋ねる。
「あれは何だ」
老人は静かに答えた。
「旧世界が最後に残した……」
「本当の番人だ」
第91話でした。
ついに主人公と大富豪が再会しました。
しかし、その再会を喜ぶ時間は長くありません。
眠る街には、旧世界最大級の秘密が眠っています。
そして次回、第4章最初の大きな戦いが幕を開けます。




