第90話:眠る街の門
人は、
知らないものを恐れる。
だから近付かない。
だから目を背ける。
けれど。
真実はいつも、
その先で静かに待っている。
翌朝。
主人公たちは集会所を後にした。
主人公は少年へ食料を渡す。
「皆で分けろ」
少年は深く頭を下げた。
「ありがとうございます!」
主人公は照れくさそうに手を振る。
「礼なら、生き抜いてから言え」
少年は力強く頷いた。
「はい!」
その声を背に、一行は再び歩き始める。
目的地まで十八キロ。
地図に記された『眠る街』。
そこが、大富豪へ繋がる唯一の手掛かりだった。
道中は異様なほど静かだった。
鳥の鳴き声もない。
風だけが草木を揺らしている。
失敗作が辺りを見回す。
「気味悪ぃな」
E-01も周囲を警戒する。
「生体反応なし」
教育係が端末を確認する。
「通信も完全に遮断されています」
主人公は空を見上げる。
「嵐の前って、こんな感じなんだろうな」
さらに数時間歩く。
やがて。
巨大な門が見えてきた。
街を囲む高い外壁。
錆びついた鉄の門。
崩れかけた監視塔。
その門には、かすかに旧世界の文字が残っていた。
教育係が読み上げる。
「第七管理特区……」
その言葉に空気が変わる。
主人公が振り返る。
「知ってるのか?」
教育係の表情が硬くなる。
「管理社会時代でも、存在が極秘だった区域です」
「一部の管理者しか入れなかったはず……」
失敗作が口笛を吹く。
「嫌な予感しかしねぇな」
その時だった。
カチッ。
乾いた機械音が響く。
全員が身構える。
門の上に並ぶ監視装置が、一斉に起動した。
赤い光が主人公たちを照らす。
教育係が息を呑む。
「自動防衛システム……!」
しかし。
次の瞬間だった。
主人公のポケット。
黒糖飴が入った包み紙が、淡く光を放つ。
主人公自身も驚く。
「……何だ?」
赤い光が、ゆっくりと青へ変わる。
機械音が止む。
そして。
重く閉ざされていた鉄の門が、長い年月を経て初めて動き始めた。
ギギギギギ……
大地を震わせながら門が開く。
全員が息を呑む。
門の向こうには。
時間が止まったような街が広がっていた。
崩壊していない建物。
街路樹。
止まったままの車。
誰もいない道路。
まるで。
人だけが消えた世界。
教育係は震える声で呟く。
「ここが……眠る街……」
主人公は黒糖飴を握り締めたまま、一歩を踏み出す。
その瞬間。
街の奥から、どこか懐かしい男性の声が静かに響いた。
「……ようやく、来たか」
主人公の表情が変わる。
この声は。
忘れるはずがなかった。
第90話でした。
第4章最初の舞台「眠る街」が、ついに姿を現しました。
そして物語は、大富豪との再会へ向けて大きく動き始めます。
次回は、この街の秘密と、大富豪が主人公を待ち続けていた理由が少しずつ明らかになっていきます。




